※狂愛



私の1つ年下の彼氏、日吉若はいつも無表情。
感情が、いまいち読めない。
というか、何を考えているのか分からない。


「どうかしましたか?桜花先輩」
「…ううん、何でもない」


そう答えると、何時ものように冷めた目で私を見る。
そんな若も好きだけど。
そんなクールな態度に惹かれたところもあるけれど。
でも、



「聞いてよ若〜、向日くんがね、宿題やってなかったの!」
「……そんなのいつものことじゃないですか」
「だけど…私に見せてほしいって言って……私に頼ってばかりなんだよ?」
「またですか?向日さんらしいといえばそうですが」


私が他の男の子と仲良くしても、特に顔色を変えない。
普通、好きだったら嫉妬くらいするよね……。
あまり俺以外の人と仲良くしないでくださいって。
いや、嫌われたりするのは嫌なんだけど。
それでも心配くらい…してほしいよ……。


「なんだか顔色悪いですよ?」
「…あ、えっと…何でもないよ、大丈夫」


最近、その事ばかり考えて。
若、ちゃんと私の事愛してるのかな……。
考えた末、私は、若を妬かせてみることにした。


「鳳くんのあのサーブって本当凄いよね〜」
「スカッドのことですか?確かに、スピードはありますね」


若の同級生で、私はあまり話した事ない鳳くんの話題を出してもだめ。


「跡部くんって本当テニス上手だよね〜!」
「まあ、部長ですし」
「……お、おまけにかっこいいし!」
「そうですね」


褒めてもだめ。


「今度ね、侑士くんにご飯奢ってもらう約束したの!」
「良かったですね」


名前で呼んでもだめ。
下手すればデートみたいな約束をしてもだめ。
……もうっ!どうして若は妬いてくれないの!?
どうして……。
私のこと…好きじゃないのかな……。
悩んでも答えは見つからなかったから、若本人に聞いてみる事にした。


「ねぇ、わか…」
「桜花先輩、」


若を呼ぼうとした言葉は、その本人の言葉によって遮られた。
まるで、わざとみたいに。
なんだか鋭くて、低い声。


「なに?」
「そんなに………………………ですか?」
「……え?」


若の声は小さくて、私には聞こえなかった。


「なんでもないですよ。…今日、俺のの家に寄れますか?」
「え、あ…うん」


答えたのと同時に、若が私の手を引っ張った。
途中、何度か言葉を投げかけたけど、返事はなかった。
家に着くまでずっと若は無言を通した。


「……おじゃましまーす…」
「誰も居ないので気にしなくていいですよ。今日、他の道場で親睦会をやってるので」
「あ……。そうなんだ」


ガチャ。

扉の鍵を閉める音。
それがやけに、部屋中に響いた。


「俺の部屋、来てください」


相変わらずの無表情で言う若に、何故か恐怖を感じた。
そして、有無を言わさず引っ張られ、階段を登る。


「桜花先輩」
「…ん?」
「俺を妬かせる為に、いろいろ苦労したみたいですね」
「……えっ」


そう言った若の顔は、じっと私を見据えていた。
一瞬、時が止まったような空気が流れ、私の顔が強張る。


「当たってませんか?」


視界に映る若の表情は、企みを当てた子供のように意地悪そうな顔をしていた。
いつもより柔らかい雰囲気の若に、ほっととした私も少し顔が緩んだ。


「な、なんだ…気付いてたの?」
「勿論です。そう考えないと、桜花先輩が俺の前であんな事言ったりしませんから」
「だ、だって、若……全然嫉妬しないから…」
「………もしかして、先輩」
「え?」



「俺が嫉妬してないとでも思ったんですか?」





そう言いながら若は部屋のドアを開けた。
そこには―――


「ひっ……!」


壁中にびっしりと私が今まで口にした男の写真が貼られ、全てに、引っ掻いたような傷が付けられていた。
クラスの男子から…テニス部のメンバーまで…たくさん。


「な、に…っ、これ…!」
「…何って……」


足が竦んで震えている私を無理矢理部屋に引っ張り、ベッドに投げ込んだ。


「桜花先輩が、俺以外の男の名前を口にした数ですよ」


そしてゆっくり、私の腕を掴んだ。


「い…やっ!」


抵抗しても、若の片手だけの力で私の両手の自由は奪われた。
それほどに、若の力は強かった。


「この前のは、わざとだったんですよね」


そして、一瞬のうちに視界が暗くなった。
閉じた瞼の上には、若の手のぬくもり。


「そんなに、俺を妬かせたかったんですか」


視界は真っ暗。
思い浮かぶのは、無限とある写真。


「でも、安心してください……桜花先輩、」


でも、ただ一枚だけ、違う写真があった。
ベッドの横に立ててある、写真。


「もう、俺から逃がしてあげませんから……」





一瞬。
一瞬だけ、見えた。

あれは……
報道部の仕事でカメラを持ってた若から、忍足くんが奪って、ふざけて撮った……
若と、私。


ツーショットの写真が、丁寧に、綺麗な写真立ての中に飾られてあった―――





あなたが嫉妬なんてさせるから
(先輩がいけないんですよ?…嫉妬なんかで、愛を確かめようとしたから)




この夢…実は昔、不二くん相手として書いていたものです。
それを日吉くんに修正して、再び表にあげました!
内容的に、日吉くんの方がいいかなぁと……。いやあ、重いですね、愛が!
でも少しは妬いてほしいという気持ちが分かってしまうのが悲しいです。私だけでしょうか?
日吉くんは我慢していたんですね、ごめんなさい!
この後ヒロインちゃんはどうなってしまったのか……それは皆様の想像にお任せします。