※狂愛/死



「………ここ、どこだ?」


俺は白ばっかの部屋に居た。
薬品や消毒の独特の匂いが鼻につく。


「……気ぃついたんか、岳人」


横を見ると、侑士が微笑んで椅子に座っていた。


「………侑士……?」


少しして、ここが病院だと分かった。


「…良かった。心配してたんやで、俺……」
「侑士、桜花は?」
「……っ岳人……」


桜花が居ない。
俺と桜花は、いつも一緒のはずなのに。
桜花はどこだ?


「なあ、侑士…。桜花はどこにいるんだよ」
「岳人、立ち上がったらあかん」


桜花を探しに行こうと立ち上がったら、侑士に止められた。


「…なんで止めるんだよっ!俺は、桜花に会いに行くのに……っ」





「岳人、大好き」
「ずっと、一緒に居ようね」






「桜花はっ…桜花は……っ!?」
「岳人っ、正気になるんやっ!桜花は死んだんやで!?」





「岳人っ、桜花が事故に遭ったって――」
「俺の病院に居る!今から行き!」






そこで見たのは、桜花の変わり果てた姿。
……肌は白くなって、それと同じ白い布がかぶせられていたんだ。
そうだ。俺は、それを見て――





「桜花…?おいっ、桜花!起きろよっ!!」
「岳人…落ち着くんや。桜花はもう……起きへん……」
「嘘だっ!桜花は…桜花は死んだりしない…っ」






そこで、倒れたんだ。
そう。桜花は――――




「………桜花のとこに行かなきゃ」
「!?が、岳人…」
「俺、約束したんだ。桜花と。ずっと一緒だって……」


ふわり。
何だか、身体が浮いているような感じがして、俺は立ち上がった。


「っ岳人…!」


そして、傍にあった薬を全部出した。


「っ、岳……」
「侑士。俺、桜花を愛してるんだ。…早く、桜花に会いてぇんだよ…」


そして、手にあった薬を口に―――


「っやめるんや、岳人っ!!」


侑士は、俺に薬を含ませないようにする為か、俺の口に布を――――――





「……すまんな、岳人…」


こんなやり方、したなかった。
薬を使うて、岳人の意識を……記憶を奪うなんて。
でも、しゃあないんや。
俺は…桜花も失うて……岳人まで失いたない。


「……桜花、すまんな…」


岳人は、まだ行かせへん……。

…一瞬。
風が冷たく、俺の頬を触っていった。
ごめんな、桜花。





「ん……?」
「気ぃついたか、岳人」
「…あれ、俺……?」
「ちょっと体調不良でな。少しだけ寝とったんやで?」
「あ……そうなんだ」


岳人は、少し下を向いて…。
不思議なものを見るような目で、言った。


「ねえ、侑士……」
「……何や?岳人」


岳人は、自分の頬を触って、





「どうして、俺泣いてるんだ……?」





俺は、何一つ言葉なんか出んかった。


「おかしいよな……俺、悲しいことなんてないのに…」


言いながら、手で涙を拭う。


「……あれ?侑士…?」
「……今度は何や…?」
「侑士も、切なそうな顔、してる…?」
「……っ、気のせいや…」
「……そう、かな…?」


まだ、岳人の目からは絶え間なく涙が流れていた。





記憶に縛られて
(なあ侑士……全然涙、止まんないぜ……?)