「若〜〜!ちゅーして?」


部活中、あいつが来た。


「……今は駄目だ」
「えー!何でー!?」


何でって……どう見たってだめだろ。


「……それより、離れろ」
「や。…若がちゅーしてくれるまで離れない」


腕を俺に巻きつけて、頬を膨らます桜花。


「…だったら、ボールがぶつかっても文句は言うなよ」
「それはやだっ」


だが、脅しをかけると躊躇いながらも離れる。
……その代わり、


「若ぃ……ちゅー……」


泣きそうな顔で、俺の顔を見上げてくる。
………はぁ。


「………ったく、俺も甘いな…」
「ほぇ?」


こいつのこんな顔には弱い。


「……部活が終わるまで待ってろ」
「ちゅー……してくれるの?」
「……分かったんなら早くコートから出ろ」
「う、うん!」


さっきとは打って変わって、元気な様子でコートの外に出た。
まるで餌を与えられた犬みたいにな。


「……はぁ」
「日吉、見とったで?」
「……忍足さん…」
「可愛ぇ彼女ちゃんやな」
「………」
「そう睨まんでええやん。誰も取らへんて」


……この人は信用できないな。


「…せや、じゃあ、日吉にアドバイス」
「……結構です」


他人にどうこう言われる筋合いは無い。


「…まぁいいから聞いとき。……ああいう駄々っ子ちゃんにはな、お仕置きが必要やねん」


……いきなり何を言い出すんだ、この人は。


「嫌がってばかりやなくて、自分からやってみ?しばらくおとなしくなるで?」


そう言い残して、怪しい笑みを浮かべながら忍足さんは去って行った。
コートの外には、部活が終わるのが待ち遠しい様子で桜花が居た。

……………………。





「よし、今日の練習は終わりだ」


跡部さんの号令が掛かった。
メンバーが部室に戻っていく。


「若っ!」


コートから出た俺を真っ先に呼びに来た桜花。
チラ、と視線を別の場所に向けると、忍足さんがコッチを見て笑っているのが分かった。
…………。


「……桜花、行くぜ」
「ま、待ってよ〜っ」


俺は桜花の服を掴みながら校舎の影に桜花を連れてきた。


「……わ、若…」
「……何だ」


桜花の背には壁があり、俺は壁に手をつけて桜花を見る。
身長の低い##name_1##は、俺に完全に隠れている。


「……え、と…」


恥ずかしそうに顔を赤くして少し目を逸らした。


「……して欲しいんだろ?」


……別に、忍足さんの言われたからこんなことをするわけじゃない。


「……ま、待って……」


俺の胸に手を当てて、まだ心の準備が、と言う桜花に、顔を近づけてみる。


「…わ、わか……」
「今更、恥ずかしがったって遅いぜ?」


そして俺は桜花にキスを落とした。
触れるだけのキスから、少しずつ舌を絡めていく。


「……んっ…ぁ……」


されるがままの桜花。
薄目で桜花を見ると、精一杯なのか顔が真っ赤だ。
そして、息が苦しいのか、俺の胸にある桜花の手が服をぎゅっと握った。
俺は、桜花から唇を離した。


「…っ…、はぁ…」


終わったあとも、桜花は息を整えた。


「………っ」


整え終わると、桜花は俺の顔を見ずに、ずっと下を見ていた。
よく見ると、耳まで真っ赤だった。


「……ふっ、本当におとなしくなったな……」
「……え…?」
「…なんでもねぇよ」


壁から手を離し、桜花に手を出した。
桜花は戸惑いながらも、俺の手を握った。
まだ顔が赤い桜花は、本当に可愛かった。


……たまには、こういうのも、いいかも知れないな。





ふたつの「好き」が重なった瞬間
(お前の反応も可愛いし)