※悲恋



私には好きな人がいる。


「よう、芹名」
「おはよ、宍戸くん」


クラスメートで、隣の席の宍戸くん。
私は、この人が大好き。


「……うおっ、やべえ。なあ、数学の教科書、見せてくんねえ?」
「忘れたの?いーよ、見せてあげる」


隣の席で、こんなやり取りもできる。
凄く、楽しくて、幸せだった。


「……?」


授業が始まると、内容を理解していないのか、難しい顔をする。
それを、私は何時も横目で見てた。
幸せだった。
片思いでも。


「お、何話してんだよー?」


休み時間になると、他の男子と楽しそうに話す。
たまに、部活の後輩が遊びにくることもあった。
何時も、楽しそうにしていた。


「………」


私は、それを見ているだけだった。
楽しそうな宍戸くんを見るだけで、私も楽しかった。

本当は、この気持ちを打ち明けようと思ったことがある。
でも、まだ……。
まだ、この関係でいたいと思っている自分がいた。









「跡部様ー!」


テニス部の部活。
いろんなファンクラブの声がコートで響いていた。


「……ったく、いつもいつもうるせえな…」


宍戸くんは嫌な顔をしていた。
私は、フェンスの子達に紛れながら、心の中で宍戸くんを応援していた。
宍戸くんは、ああやって応援されるのを嫌がると思ったから。

そして、心の中でこう思っていた。





宍戸くんは恋なんてしない――





ずっと、そう思っていた。
せめて……中学が終わるまで、部活に専念するかと思った。


「亮っ!おっはよ!」
「お、美咲。はよ」


それは、私の勝手な想像で。
勝手な、イメージ像で。


「亮、ちゃんと宿題した〜?」
「ったりめーだろ?」


宍戸くんは恋をした。
その子は、違うクラス。

「……げ、歴史の教科書忘れた……」


呟いた宍戸くんが向かう先は、


「美咲んとこ、歴史あったっけ……」


私じゃない。

日に日に、二人が一緒にいる光景を見ることが多くなった。
その度に、私は宍戸くんから目を逸らす。
楽しんでる宍戸くんを見るのが嫌になった。
だって、その相手は宍戸くんが好きな人だから。


「亮ー!頑張ってー!」


何時も私が心の中で応援していた。
彼女は、堂々と。
彼女は、私がやりたかったことを全部やってる。
何度か、心の中で願ったことを。


「亮、一緒に帰ろっ」
「ああ、いいぜ」


宍戸くんと一緒に帰ったり、


「…ねえ、亮、手繋ご?」
「…ん、ほら」


手を繋いだり、


「えへへ…亮、大好き」
「なっ……俺も、好きだぜ」


愛の言葉を言い合ったり。

悔しいより、羨ましかった。
ずっと見ているだけだった私。
行動に表せなかったからだめだったんだ。


「……うっ…」


悲しい涙が込み上げてきた。
校庭で一人、立ち尽くしていた。
気持ちを伝えればよかった。
勝手な想像をしなければよかった。
でも、それは、貴方の邪魔をしたくなかったの。
部活熱心な、貴方の。
貴方の事ばかり考えていた。


「……っ宍戸くん…」


今では、もう何を考えても遅い。
貴方は、恋をしてしまった。
私は、邪魔なんてしない。



幸せになってください。
私は、なれなかったから。





好きでした
(でも、たった短い間でも、私は幸せを感じました)