※悲恋注意



「今日ねっ、若くんと一緒に帰るんだっ!」
「そうなんだ、良かったね」


きみは、俺にそう言って笑ってくれるよね。
例え話の内容が、俺じゃなくても。

俺はきみの笑顔が好きだよ。


「あ〜〜……放課後が楽しみ……」


そんな話をしていたのは昼休みだった。
俺と桜花は、偶然屋上で出会った。


「って、また惚気ちゃってごめんね?」
「いいよ。俺でよければ聞いてあげる」


そんなの本心じゃないこと、俺が一番よく分かってる。









だって俺もきみが好きだから。









「えへへ……ありがとう」



きみは決まって、俺に言う。

『ありがとう』
『ごめんね』

その二つの言葉、俺は大嫌いなんだ。
だって、その二つの言葉は、決まった話題の時にしか出てこないから。
ごめんね。
こんなつもりじゃなかったんだ。
きみに、こんな複雑な気持ちをもつつもりは。


「……桜花、幸せ?」


突然のことだから驚いて当たり前。
だけど、きみはすぐに俺の大好きな笑顔を俺に向けて、


「うん、幸せ」


答えは分かってる。
その幸せの対象が俺じゃないことも分かってる。
そして、なれないことも。
だから、俺は諦めてるんだ。
桜花を好きだという気持ちを。
言ったらきみは困るから。


「そう……なら、いいよ」
「どうしたの?」
「何でもないよ。気にしないで」
「そう?……ふふ、おかしな鳳くん」


ああ、きみの口から俺の名前が出るだけで、俺の心臓はこんなにも喜びに飛び跳ねるのに。
きみの恋人の名前が出る方が多い。
日吉は嫌いじゃない。
むしろ、良い奴だと思ってる。
だから、桜花には幸せになってもらいたい。
俺の入る隙間なんてないんだ。

そう自分に言い聞かせて。


「……そろそろお昼休み終わっちゃうかな?」
「……そうだね」
「一緒に教室戻る?」
「……俺はもう少しここにいるよ」
「?……そっか。分かった」


そう言うと、また俺に微笑みかける。
ああ、愛しい。


「じゃあ、またね……」


そう言ってきみは俺に背を向ける。
俺は考える。
今、きみを後ろから抱き締めたら、どんな顔をするだろう。
今、きみにこの気持ちをぶつけたらどうなる。
詳しくは分からない。
でも、きみは笑顔にはならない。
だから俺は行動に移せないでいた。


「………桜花、」


俺はきみに聞こえないくらいの声できみを呼んだ。
そして、手をきみの背中に伸ばした。
触れたい。
心の中の想いは強いのに、きみには届かない。

あと数センチ。
俺の限界で、煩わしいこの距離。
これ以上縮まることのない距離。

どうして、きみに触れることができるのが俺じゃないんだろう。


それは多分、一生解決できない―――





俺がきみに近づける距離
(近くて遠い、残酷な距離)