「どどどどーしよううっ!!」


只今めちゃくちゃ困ってます。
鏡の前に立つこと1時間。
ちなみに起きたのは早朝5時。
今日は特別な日なのです。


「早くしないと遅れる〜〜っ!」


今日は、大好きな人との初めてのデートなんです。

「明日、好きな所に連れてってやるよ」

ウブな恋人……亮から言われた言葉は私に良い意味でダメージを与えた。
昨日から胸のドキドキが止まらない。


「あーもうっ……どうしよう……」


自分で言うのもなんですが、私は決して女らしくないのです。
どっちかというと男勝りで……休日だってズボンとかで居る方が多いし。
テニス部に所属してる彼の応援に行く時もズボンだし。
でも、今日はスポーツの応援じゃない。
デートなんだ。


「……ぜ、絶対変だって思われる……」


口調だって女の子みたいに優しい感じじゃないし。
ギャップありすぎちゃうかもしれない……。


「………悩んでても仕方ないっ!お姉ちゃんっ!服借りるねっ!」


私は今日、頑張ります!!





「……もうそろそろ時間だよね」


時計の針が10時を差す。
私は慣れないミュールを履いてデートの待ち合わせ場所に向かった。
のはいいんだけど。


「はっ恥ずかしすぎるっっ…」


服借りに行った時、お姉ちゃんがメイクしろって無理矢理したのを思い出した。
私、メイクをしたの初めてだよ……。
ナチュラルメイクって言ってたけど……なんだかむやみに顔が触れない。
しかもワンピースなんて着るのほんとに久しぶりだし。


「こ、こんな状態で亮に会うの……?」


覚悟したはずなんだけどな。
やっぱり恥ずかしいよ!
そう思いながら待ってると、遠くに亮の姿が見えた。
私に気付いてないのか、キョロキョロ辺りを見てる。
……よし、話しかけよう!


「り、亮っ!」
「ん?……あ、……桜花?」
「う、うん」


まともに顔が見れないっ!!


「……時間ぴったしだな。どこ行きたい?」


……あれ?
案外あっさりしてる。
おかしいな……。


「えっ…と、じゃあ…ショッピング……」
「分かった。じゃーその辺の店回るか」
「うん」


私の格好とかについて特に何も言わずデートが始まった。
……言われるのも困るかなって思ってたけど。
言われないのも寂しいな。







それから色んなお店を回って楽しく会話をしながらデートは順調に進んでいた。
……お昼までは。


「そろそろ昼飯でも食うか?」
「あ、そ、そだね」


私は限界に来ていた。
やっぱり、慣れないことをするんじゃなかった。


「何食べたい?」
「んーと……あんまりお腹空いてないからアイスにする」
「そうか?なら俺もそうするぜ」



買ってきてやるよ、と席を立った亮。
姿が見えなくなったところで、私は安堵の息を吐く。


「っつ……」


慣れないミュールを履いたせいか、靴擦れになっていた。
足首がヒリヒリと痛い。
うわ、よく見ると赤くなってるし。


「はぁ……亮も何も言わないし」


私、空回りしてるのかな。
初めてのデートだからって、浮かれてたのかな。
こんな、惨めな痛い思いして。


「………」


そんなことを考えながら待っていると、亮がアイスを両手に持って帰ってくるのが見えた。
私は暗い顔を閉じ込めた。


「ほら、アイス。バニラでよかったか?」
「あ、うん。ありがと」


受け取ると、亮は私の向かいに座った。


「……なぁ、次どこ行きたい?」
「んー……どこでもいいよ」
「そーか?じゃーどうすっかな……」


亮は特に行きたいところが無いらしく困った表情を見せる。


「ま、その辺歩くか」


出た結論がそれらしく、私は頷いた。
その後もアイスを食べながら色んな話をして楽しかった。


「桜花、行くか?」
「あ、うん」


アイスも食べ終わり、私は立ち上がった。
瞬間、足の痛みが全身に届いた。


「っ!」


痛さに、テーブルに手をつくと、気付いたように亮が駆け寄ってくれた。


「どうしたんだよ?どっか、痛いのか?」
「な、何でもないよ……」
「何でもないわけねーだろ。……あ、お前、足…」


気付かれた。


「どうしたんだよ!真っ赤じゃねーか!」


亮は声を上げて私を椅子に座らせた。
足を見せるように言って、私はおずおずとミュールを脱ぐ。


「あー…、少し腫れてるな」
「っ……」


優しく足の腫れを擦る亮。


「ったく、心配かけんなよ。痛いなら痛いって言えば……」


呆れたように言い捨てる亮。
心配かけちゃった。
折角の……デート、なのに……。


「お、おい……なんで泣いてんだよ……」


気づいた時には、頬に涙が伝っていた。
それに気付いた亮は慌てて言葉をかける。


「っ……だ、だって……折角、の……デートなのに……っ」


昨日から胸がドキドキしてて。
デートの最中だって、ずっと心臓が煩くて。
亮の顔だってまともに見られなくて。
いつもより可愛らしく振る舞おうとして。


「私っ……全然、女の子っぽく……ないから、」


ワンピース着て、ミュール履いて、メイクして……。
変わろうと思ったのに。


「こんな……傷に、なっちゃうし……っ」


そして今の状況。
亮に、迷惑かけちゃってて……。


「なんだ、そうだったのかよ」


涙でよく見えないけど、亮は多分困ったように笑ってる。
私は鼻水をすすりながら亮を見上げる。


「言っておくが、俺はお前が女らしくねーなんて思ったことねーからな」
「っえ……?」
「充分女らしいじゃねーか。今日の為に、格好とか考えたんだろ?」
「………」


私は黙って頷いた。


「今日の格好、可愛いぜ」
「っ!?」


ふいに顔が赤くなる。


「俺だって、お前のその格好とか見て何も思わないわけねーだろ。今日、お前と会った時からずっとドキドキうるせえっての」


亮も……?


「初めてその姿見た時なんか、見惚れちまって何も言えなかったんだからな……」


あ……だから、私の格好の感想とか……恥ずかしくて、言わなかったの?


「りょー……ごめん、」


亮のこと好きなのに、気持ちに気付けなくて。


「何謝ってんだよ。お前は何も悪くねえ」


優しく微笑むと、元気付けるように頭を撫でてくれた。
亮……やっぱり私、貴方が大好きだ。


「桜花、その足じゃもう…その、靴履いて歩けねーだろ」
「あ……そうかも」


私は足の腫れを見た。
自分で言うのもなんだけど……痛々しい。


「いいよ。もう靴は履かない。裸足で歩くから」
「おい、マジかよ」
「ミュール履いて歩くより、そっちの方がいいでしょ?」
「まぁ…そうだけど……」
「靴、家に置いてけばいいし…」
「あ、じゃあ、靴置くついでに桜花の部屋行きてえ」
「……えぇっ!?でも、私の部屋……汚い、よ?」
「別にいいぜそんなの」
「全然女の子らしくないよ!?」
「…まだ言ってるな。だから、俺は女らしいお前が好きなんじゃなくて、ありのままの桜花が好きなんだよ」


分かったか?と笑いながら。
私の顔を覗く亮。


「〜〜っ」
「ははっ、顔赤いぜ?」
「っるさい!」
「心配すんなって。今日は部屋に上がるだけだからよ」
「……今日、は?」
「なんでもねーよ。ほら、行くぜっ」
「っひゃあ!」


亮は軽々と私をお姫様だっこした。


「ちょっちょっと亮……!」
「行くぜ、お前ん家」
「り、亮……っ」


意地悪っぽく笑うと、そのまま私の家まで走って行った。

今日は、私にとって思いで深い初デートになりました。





ありのままの君が好き
(お前らしさ≠ェ着飾るよりもずっと可愛いしな)