「亮〜〜っ!」 「うわっ!っ〜〜お前は…抱きつくなっつってんだろーが!!」 それは、3日前から始まった急激な恋物語だった。 「………」 「にこにこ」 「にしても、ほんま仲ええなぁ」 「でしょう?さすが忍足くん!分かってるぅ!」 「よくねえ」 彼女の奇怪な行動に結局諦めてしまった宍戸。 ピクピクと口を動かしながら我慢している。 横には放課後になると同時に部室飛び込んできた桜花がいる。 「後少しで鍵閉めるとこだったのに……」 「もうっ!照れ屋さんなんだ・か・ら!」 本気で言っているのに冗談だと思われてしまう。 宍戸は深い溜息をついた。 「……それにしても、凄いですよね」 「ん?何がだ」 鳳の呟きに、その隣に居た向日が口を挟む。 「だって、3日前転入してきた芹名先輩が……宍戸さんとこんなに仲良くなってるなんて」 しかもあの宍戸さんに、と鳳は言う。 宍戸はその付け足された言葉が少々気になったがあえて何も言わなかった。 「なんや鳳、知らんかったんか?この二人、ちーさい時からの知り合いらしいで」 「え、そうなんですか?」 驚いた表情で二人を見る鳳。 また余計なことを……と宍戸は恨みを込めた目で忍足を見る。 忍足は面白そうな顔をしていた。 「……本当にガキん時以来だぜ?小学校の3年くらいから全く会ってねーし」 「俺様から言わせてみれば、宍戸に女の知り合いが居た事自体が疑わしいけどな」 「てめぇは黙ってろよ」 鼻で笑う跡部を鬱陶しそうに宍戸は切り捨てる。 ついでに未だくっついている桜花も切り捨てたいと思っているようだが行動に移せない。 「……でも、そんなに長く会っていないのに随分仲が良いんですね」 「だから、別に仲なんてよくねーよ!」 宍戸は我慢の限界なのか、声を荒げる。 同時に、立ち上がったので桜花の手は宍戸から離れた。 「……もう、しょうがないなぁ」 どうしても認めない宍戸を、桜花は少し口を尖らして見た。 「亮、忘れてるみたいだから教えてあげる」 そして、次の瞬間とんでもないことを言い出した。 「亮は、私にプロポーズをしてくれたの!」 「「「はあぁあっ!?」」」 桜花の言葉に驚きを表したのは、跡部や忍足は勿論、当の本人の宍戸まで驚いていた。 「ちょ、ちょちょちょちょっと待て桜花!落ち着け、落ち着いて話を聞け!」 「まぁ、亮が先に落ち着いてよ」 「お、俺がいつお前にプロポーズしたって!?」 「ずっと前」 「いつだ!?」 「うーんと……小学校3年生の頃!」 桜花はにこにこと、嬉しそうに答えた。 宍戸は呆気に取られる。 しばらく口を開かない……というより、心ここになかった。 「へー。宍戸もやる奴やったんやなぁ」 「知らなかったぜ……。宍戸、侑士よりそういう奴だったんだな」 「宍戸かっこE〜!」 「宍戸さん……男らしいです!」 「アーン?こいつにそんな勇気があるかよ」 「……というか、そんな物心の半端な時期の話でしょう?」 皆が様々な反応を返す。 その中でも、日吉の言葉で宍戸の目が覚めた。 「そ、そうだぜ!マジでガキの頃の記憶だろ?アテになんねぇって」 宍戸はプロポーズなどしていないと言い張る。 周りの目を気にして、誤解を解こうとして必死だ。 「もー、亮ったら、往生際が悪いんだから……」 ぶぅ、と頬を膨らませて宍戸を見つめる。 そして更に衝撃的発言をする。 「じゃあ、その時の亮の発言、言ってあげよーか!」 「はぁ!?」 「「「聞きたい(です)」」」 宍戸以外の言葉が一致した。 「ちょ、若っ……お前もかよ!」 「下剋上のチャンスですから」 「んな下剋上があるか!」 宍戸側は誰もいなくなった。 「で、宍戸は何て言うたんや?」 「んーとねぇ、私もその頃から亮のこと好きだったからすっごい覚えてるの!」 「桜花っ……んな嘘をっ…」 「何だ?宍戸。お前、言ってねーんだろ?だったら桜花の言葉を信じなければいいじゃねーか」 「……(俺が信じなくてもお前らはからかうだろうが!)」 だが、ぐっと堪える宍戸。 そうだ、自分には言った覚えがない。 桜花の勘違いに間違いない。 そう自分に言い聞かせて。 「亮がプロポーズしたのは、私が小学校3年生になると同時に転校すると決まった時……」 勝手にシチュエーションまでも語りだす桜花。 だが、宍戸は黙って聞く。 「一緒に居るのが当たり前だった私たちは、別れるのが本当に辛かったの。そして、泣きながらさようならを告げる時……」 桜花は拳を握り、感情を込めてその時の様子を言い出した。 これが本当に嘘なのか……。 宍戸は焦りで冷汗が流れるのを感じた。 「亮は、私の手を握って……、『絶対にまた会える。その時は、二度と桜花を離さない』……って!!」 きゃっ、と恥ずかしげに言った。 宍戸はまたも呆然とした。 そして、脳にある記憶を隅々まで探ってみた。 「りょーう、あそびにきたよー!」 「お、桜花か。きょうはなにしてあそぶんだ?」 「んーとね、ブランコ!」 「いいぜ!じゃあ、おれがおしてやるよ!」 小さい頃、桜花と遊んだのは覚えている。 それはまだ幼稚舎の時。 小学校に上がっても、ずっと一緒に居て……。 ああ、あの時か。 桜花が泣きながら、直前に俺に言ったんだ。 「亮……私ね、お引越ししなくちゃいけなくなったの……」 「……は…?なんで、そんな急に……」 「ごめんね、ごめんね……。本当は前から決まってたのに……寂しくて言い出せなかったの」 何度も謝る桜花を何とか元気づけたくて。 寂しい≠ニ言い出す桜花を慰めたくて。 だから、ぎゅっと拳を握る桜花の手を握った。 その次に俺はあの台詞を言ったんだ。 「……んな泣くなよ。…絶対に、また会える。その時は、二度と桜花を離さねーからよ……」 そして、 「っ亮……」 その言葉を聞いてまた泣き出す桜花。 その姿が、しばらく見れなくなると思うと……やっぱり悲しくて。 俺も我慢できずに泣きだした。 そんな記憶が、俺の脳を一瞬で過ぎった。 「どう?思い出した?」 宍戸の顔を覗くようにして問う桜花。 宍戸は、う、と後ずさる。 「あー!やっぱ言ったんだ!ぎゃはは!」 図星だと分かった向日は大げさに笑う。 向日だけでなく、本当だと知った他のメンバーも意外そうな顔をした。 「っ…うっせーよ!」 宍戸は少し顔を赤くして向日を怒鳴る。 記憶と一緒に、その時の桜花を好きという気持ちも思い出したんだろう。 「亮ちゃん照れ屋〜」 「じ、ジローも黙れ!」 だが中々認められない。 宍戸ですから。 「亮、約束は守ってくれるよね」 「なっ……」 言い返そうと思ったが、桜花の約束発言に何も言えなかった。 あれは約束じゃない、と言えるような立場でもない。 それに、 「私、ずっと亮と一緒に居るから!」 この約束を果たしてもいいかな、と宍戸自身も思ったからだ。 再会に3日経っても喜んでいる桜花。 その眩しいくらいの笑顔は昔と変わらない。 そんな笑顔に、やはり心地良さを感じてしまうから宍戸は反抗はできなかった。 「っ……だ、だから、くっつくな!」 周りのニヤニヤとした視線に気づくと宍戸は声を張り上げる。 それでも顔が赤いから説得力には欠ける。 自分の気持ちに素直になれるのは、 まだまだ先になりそうだ―――― 忘れたとは言わせない! (昔、桜花の事を好きだってことは否定しねーけど)(こんな急に言われたって戸惑いしか出てこない) |