いつからやろうか。 俺の心が、こんなにあたたかくなり始めたのは。 何かに満たされたような感覚になるのは。 それはきっと、 「侑士、一緒に帰ろ」 柔らかい笑みで俺に話しかけた、この子のせい。 「ああ、今日も待っとってくれたん?」 「うん」 「もう寒いやろ。無理して待つことあらへんで?」 もう季節も秋から冬へと変わる頃。 俺の彼女である桜花は、日課のように部活を終えた俺を待っててくれている。 もう大分寒くなってきたし、桜花 も寒そうに手袋とマフラーを付けている。 校門を出たところで俺がそう言うと、桜花は寒さで赤くなった鼻をマフラーで隠し、 「無理なんかしてないよ。私が侑士と帰りたいから、待ってるの」 ああ、愛しい。 本当なら、身体に悪いから先に帰らせるのが彼氏としての役目かもしれない。 こんなことを言ってくれて嬉しいとか思っている自分にはそんなことでけへん。 ずっとずっと、こんな風に一緒に帰りたいと思ってしまう。 それは俺の我儘。それに気付かれないように、俺は桜花の好意を素直に受け取る振りをする。 「おおきに。きっと俺は、桜花のそういう優しいところに惚れたんやな」 「っ…き、急に何言ってるの?」 不意打ちでそう言ってみると、案の定桜花は鼻だけでなく頬まで赤くしてマフラーに顔を埋めた。 ……可愛すぎやろ。それはもう反則的に。 そんな照れ方されたら、抱きしめたくなってまうやん。 「……なぁ、桜花」 「……なに?」 「手、繋いでもかまへん?」 「えっ!」 「嫌?」 「………嫌じゃ、ない」 桜花はそう言うと、右手を差し出してきた。 俺は左手で桜花の手を掴む。 俺の方は素手やけど、桜花の方は手袋をしているのが少し残念や。 でも、綺麗な手が冷えてしまうよりはずっといい。 「……なんだか今日の侑士、変」 「そうか?」 「うん……」 こうやって帰るのは、桜花と付き合ってからの日課。 やけど手を繋いだのはほとんど初めてと言っていい。 桜花が恥ずかしがり屋なのはよく知っているから、遠慮していたから。 突然こんなことして桜花が不思議がるのもよく分かる。 ……でも、今日はちょっと我慢できひん。 「桜花が可愛すぎるからあかんのや」 「っ!そ、そんなこと……」 「………くく、困っとるな」 「か、からかったのね…!」 あからさまに意識して、目を逸らして困り顔を作った桜花に、思わず笑ってしまう。 からかったのは少し違う。単純に可愛かったら笑ってしまった。 でも桜花にはそう思えなかったらしく、ふいと頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。 「ちゃうよ。からかってなんかない」 「………」 「ほんまは……俺が桜花を好きすぎてるからあかんのや」 「!!」 今度こそ俺の本音を告げると、桜花は驚いたのかまじまじと俺の顔を見つめた。 瞬きもせずに俺の目を見ている。 それはもう、衝撃的だったらしい。 「………ど、どうしたの、侑士」 「なにが?」 「急に……そんなこと言うから」 桜花は困ったように唇を尖らせる。 俺がこんなこと言うのは、本当に珍しい。 心の中で想ってるだけであまり口にはしないから。 口では、必要以上何も言わない。 照れ屋な桜花のため。 「ちょっとな……気持ち、抑えられへんくなった」 「きゃっ、」 俺は道端で桜花を抱き締めた。 もう、好きすぎてどうしようもない。 珍しく繋いでいる手から伝わるぬくもりとか。 聞けば聞くほど落ち着いてしまう桜花の声とか。 ふと目が合った時のくりくりした目とか。 全てが、俺の気持ちを高ぶらせる。 「ほんま、好きや。好き。大好き」 「っ………」 耳元で何度も囁く。 桜花の心臓がドキドキと、素早い鼓動を打っているのが分かった。 多分それと同じくらい、俺もドキドキしてるやろな。 表面では冷静だと桜花に怒られそうやけど。 「………私も、侑士が大好きだよ」 「!」 てっきり、こんなところで何するのと怒られるだろうと思っとったのに。 まさかこんな嬉しい言葉が聞けるなんて。 ああもう…離れなくなってしまった。 「こうするの、ずっと恥ずかしいって思ってたけど……なんだかすごくドキドキする」 「……せやな。俺も、離したくなくなった」 「私も、離れたくない」 そう言って、ぎゅうっと抱き締め返してきた桜花。 ………。 「……いつから、そんな可愛いこと言うようになったんや」 今日は完全に俺の負けや。 俺がこんな、おかしな姿見せるようになったのは、 「もう二度と離さんからな、桜花」 桜花に恋をするようになったから。 俺の心があったかい理由 (君は気付いとるんかな。気付いていたら、もっと気持ちを伝えたい) ……忍足視点で書いたのが間違いだったのかもしれない。 標準語と関西弁の入り混じり方がすさまじいですね! いやもう、本当これ誰の気持ちなんだってくらい……。もう少し勉強します。 そして、何気に忍足のまともな甘い雰囲気の夢を書いたのは初めてだったりします。 長編でも短編でも、両極端な忍足しか書いていませんからね……。 これを機に、忍足の方向性をもっと考えられたらと思ってます!← |