俺は、 あいつの笑った顔が気に食わなかった。 「あはは!違うよー」 「えーでもー」 クラスの友達同士で話している時も、 「おい芹名、お前さー」 「は?ちょっ何言ってんのよー」 男子にからかわれても、 「桜花、ちょっと来なさい」 「うっ……遅刻ぐらい勘弁してくださいよー」 先生に説教される寸前も、 あいつは笑顔を絶やさない。 いわゆる八方美人というやつで。 皆から愛想の良い奴だ、と好かれていて。 本人も分かってて笑っている。 そこが気に入らなかった。 何故、笑いたくもないのに笑うのか。 それは自分を偽っていることと同じではないのか。 俺は、そういうのが嫌いだったから。 それでも俺があいつと付き合っているのは、傍に居たいから≠ニいう理由。 俺は知ってしまったから。 「………桜花?」 「!あっ……なんだ、日吉か……」 「俺で悪かったかよ」 「ううん……そうじゃない」 あいつの、笑っていない顔を。 「……どうかしたのか」 「何でもないよ。少し眠いだけだよ」 放課後の教室。 委員会後のあいつは、教室で一人立っていた。 丁度忘れ物を取りに来た俺はその場面に遭遇した。 「嘘つけ」 「………」 俺の言葉に、桜花は苦笑いを作る。 本人は気付いていないみたいだが、大分疲れが浮かんでいた。 「それより、日吉は何しにきたの?」 話を変えて、本人も無理矢理いつもの笑顔を作った。 ………なんだよ。 「……日吉?」 なんだよ、その顔。 今まで見たこともねぇ顔しやがって。 いつも、 鬱陶しいくらいの笑顔振り撒いてるくせに。 こんな時に。 初めて見る表情を見つけ、俺は何だか悔しかった。 「……日吉……?本当、どうかしたの?」 心配そうな顔をして近寄ってくる桜花。 俺は、無意識に抱きしめていた。 「!!……ひよ、…」 「お前……馬鹿だろ…」 「?そりゃあ、日吉よりは馬鹿だよ……」 「こんな時だけ、要領悪くてよ…」 「………」 抱きしめる力を強くすると、桜花は黙った。 そしてゆっくり、手を俺の背に回す。 「日吉……私、日吉の事好きだよ……」 「………」 そんなこと、いつも笑顔でしか言わないくせに。 そんな細い声で、手も震えて……。 「ねぇ、日吉は……?」 こんな姿を知ったら、 「好きに、決まってんだろ……」 もう離せなくなる。 いつも笑顔のお前の、悲しい表情を知った。 その時から、俺の中の変なモヤモヤは消えた。 その代わりに、 その笑顔を守りたいという、責任感が生まれた。 僕と君と笑顔 (そして、君に笑顔は欠かせないんだと俺は思った) |