「こ…これって……!?」 刻が発見したもの。それは、何故二人が緊迫状態にあるのかを明確に説明する代物であった。 雪比奈、虹次、そして泪の3人が映っている写真。 一度は破られてしまったが、テープで修復され再び繋げられていた。 何故こんな写真があるのかと全員が疑問に思っている中、平家は低い声でそれに答える。 「八王子泪はかつて『捜シ者』直属の部下、『Re-CODE』の一員。我々の敵だった女です」 それはこの状況を悪くする、最大の言葉だった。 桜に本当かを問われた泪は誤魔化す気配もなく、本当だと白状する。 平家が睨むようにして泪に冷たい言葉を吐く中、刻は震えた手で写真を握る。 「コイツと……お前、コイツと一緒にいたってことだよな……」 ぐぐ、と写真が歪む程の力を入れる刻に、椿はやめるよう手を握る。 それは言葉にも表れ、何度も小さく「やめて」と言う。 椿の行動に零は眉を寄せ、平家は辛そうに椿を見つめる中、刻は椿の手を振り払った。 そのことで仲裁に入ろうと思った零は、詮索はよせと言いながら写真を取り上げようとする。 それすらも刻は拒み、強く泪を見た。 「答えろ!!」 怖いくらいの形相。 虹次に姉を殺されてしまった無念と憤慨。それらが抑えきれないといった表情だった。 それを見ても泪は何か言い訳を言うでもなく、 「……虹次はかつて同じ志を持った仲間……。もっとも信頼した同志だった」 淡々と事実のみを述べた。 誤魔化しも隠しもしない泪の発言は潔いとも言えるが、刻の神経を逆撫でするだけだ。 泪に襲い掛かろうとする刻を零が止める。 だが、その零にも激情に駆られ過去を晒すような発言をする刻。 憎しみは広がり、零すら冷静さを欠いて刻に殴りかかろうとしたが、それは遊騎によって止められた。 「……友達でもないのに、私情挟んでケンカなんぞする必要あらへんわ。アホらしい」 一時は止めてくれたことに安心した桜だが、その言葉を聞いてすぐにまた新たな不安が募る。 そして平家はどこかに消え、刻も零と泪を突き放す言葉を言ったのを皮切りに、コードブレイカー全員が別々の歩みを始めた。 各々が自分の強い思いに従い発言し、行動したための結果。 それを桜は分かっているが、どうしてもっと分かり合おうとしないのかと悲しげに呟く。 最後に残っていた泪までも首を突っ込むなと釘を刺し、渋谷荘を出て行こうとする。 「待って」 それを止めたのは椿だった。 椿に腕を掴まれ、一時は歩みを止める泪。 だが、それすらも疎ましく思ったのか、泪は眉を寄せ椿を見下ろした。 「……離せ」 突き放そうとする言葉を言われながらも、強く腕を掴み離さない椿。 構わず言葉を続ける。 「泪は何も、隠さなかった。嬉しい」 「……あ?」 「正直に言った。泪は、すごい。写真も、大切に……」 大切に一言一言紡がれる椿の言葉も、泪は拒絶するようにして手を振り払った。 「椿、渋谷荘で少し一緒に居たからって調子に乗るな。お前にも関係ねえ。さっさと寝ろ」 そして憎しみでも見るような目で見られ、冷たい言葉を投げられ……椿は思わず手を離す。 泪は足枷でも取れたように再び足を進めた。名残すら残さず。 虚しく、泪が出て行った玄関の扉が閉まった。 「……王子殿はなぜ『Re-CODE』を抜け『コード:ブレイカー』に?」 静かになった渋谷荘に桜の小さな呟きが響く。 悲しい声音で言う桜に、渋谷は真面目な様子で答えた。 「一つだけ確かなことは、八王子君はこうなることもすべて覚悟の上で、今ここにいるってことだよ。桜小路さん」 桜に向けては確信を持ってそう言えた。 だが茫然と立ったまま、泪の去った後をじっと見つめる椿には何て声をかけたらいいのか分からなかった。 感情のない椿だから何も感じていないと思いたいのに、その背中はどうしても寂しく悲しいものに見えてしまう。 「椿……ちゃん」 渋谷は何かを決意したように、ぽんと椿の肩に手を置いた。 そして小さく、でも椿の心に響くように言い聞かせる。 「君も、すべて覚悟の上だよね」 「………」 桜には、その言葉が何を意味してどんな思いが込められているのか分からない。 だが椿にはしかと届いたようだ。 微動だにしなかった椿は力強く、首を縦に振った。 「うむ。それでこそ椿ちゃんだ」 少し安心したように渋谷が言い、二人を残して自室へと戻る。 だがそのすぐ後、再び扉が閉まる音が聞こえて、その原因である刻の後を追うことになった。 そして、夜でも賑わう街中で出逢った桜と椿の二人と刻。 先程の激昂した様子ではなく、チャラチャラした雰囲気で心配してくれた二人に調子の良いことを言う。 だがそれは二人に対してのみで、珍種の観察だと言ってついてきた零にはすぐに悪態をついた。 その瞬間、すぐ傍の飲食店から火の手が上がる。 それに続くように近くのガス管からも火が出、爆発した。 爆発の一瞬前、間に合わないと思った椿が両手を炎にかざすが、すぐに必要ないことに気付く。 そして自分と桜を護るようにして覆いかぶさる零に身を委ねた。 「な…なんだ!?この……黒き空間は!?」 爆発に巻き込まれていないことに気付いた桜が、目を開けてすぐにその異変に気づく。その正体が分かっているのか、刻は不本意そうに視線を逸らす。 刻に言い聞かせるように零が何か言うが、刻は聞かずにそのまま駈け出した。 刻が向かった先の屋上。 そこでは泪が自らの異能『影』で発火の原因となった男を斃した直後の光景があった。 「私は自分の所業をなかったことにしようとは思わない……。いつか私も報いを受けるだろう。お前と同じように」 刻に続き、その場に辿り着いた桜たちは寂しげな泪の後ろ姿を見た。 それをどこか悲しげな目で、ぼうっと見つめる椿。 「だからこそせめて、その最期がくるまで、この眼に映る全ての人を『影』となって護り抜く」 椿はその強い意志の込められた言葉一つ一つを泪の覚悟だと受け止めた。 自分にはない強さを持つ泪の、寂しげな後ろ姿を目に焼き付けるようにして。 「私がどうなっても、きっとまた私はお前を護るから」 いつか見た、それと同じくらい寂しげな表情と共に。 重ねるように、優しい言葉を思い出した。 「私はそのために『コード:ブレイカー』になったのだから」 儚く消えそうなその背中を見て、苦しいほど胸が締めつけられた椿は思った。 ああ、きっとこれが寂しい≠ニいう気持ちなのだろうと。 ×
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