目の前で繰り広げられる修業。
カラクリ珍種を壊すため、フルパワーの異能を使って闘う二人。
そんな二人の様子を上から見ているのは桜、渋谷、泪、椿の4人。
二人の修業内容を聞いて、コード:エンドの心配をする桜に渋谷は真面目に言う。


「これが……大神君と刻君の決意なのだよ」


そう聞いて、桜は思わず二人の姿をじっと見た。
渋谷の言う決意を感じ取るように。
そんな桜の姿を見て、椿も同じように二人を見つめた。
同じ異能者として、日に日に二人の能力が向上していくのは肌で感じている。
二人とも、自分が斃すべき相手のために強くなろうとしている。
椿はそれを凄いと思っているし、本気の顔を見て二人の決意の強さも理解はしている。


「……茶番だな」


だが、


「こんなことをしても『捜シ者』に勝てるワケじゃねえ」


呟くように言う泪と同じ気持ちを、椿も抱いていた。


「『捜シ者』はバケモンさ……こんなことでアイツの強さに追いつくことができないことは零が一番、分かっているはずなんだがな」


どこか哀愁を漂わせて言葉を続ける泪。
その視線の先にいる二人を、椿も同じように見つめた。


「王子殿……王子殿は『捜シ者』を御存知なのか?」


問う桜に、泪は何も答えない。
椿も必死に闘う二人から再び視線を泪へと移す。


「そもそも王子殿はなぜ『コード:ブレイカー』に?」


追求するというよりは、ただ純粋に疑問を口にしている桜。
その言葉が泪にとっては少し厳しいものだということを椿は気付いている。


「さあ……なんでだろうな」


そんな悲しい気持ちを隠そうとしているのか、泪は薄く笑って言った。
その表情には若干の諦めにも似た気持ちがあることを。
椿は珍しく気付くことができた。


「泪、」
「ん?なんだ椿」
「……心配、何もいらない。そんな顔、しないで」


励ますように泪に近寄り、真っ直ぐ見つめて言う椿。
その行動に渋谷は驚きつつも悲しげに、椿を見ては視線を逸らした。
泪はその気持ちを純粋に受け取れないと言いたげな複雑な表情で、椿を見返した。


「……わかってる」


口ではそう言いながらも、椿の目の前から逃げるようにその場を離れた泪。
今にも消えてしまいそうな後ろ姿を見つめた後、零がロストしたため修業は終わった。





その日の夜。


「………」


無造作に直されたままの零と桜の部屋の間にある壁。
その壁の隙間から桜が手渡した、数学の小テストの範囲のプリント。
ロストに苦しみながらも、それに書かれた文字を零は口元に若干の弧を浮かべ見つめていた。
するとコンコンとノックがされ、零は短く返事をする。


「……!?」


そして扉が開くなり現れたのは、大量の荷物を抱えた椿の姿。
驚いて言葉が出ないままになっている零を気にせず、荷物を零の目の前に置いた。


「椿さん?これは……」
「零、寒そう。だから、これ」


椿が持ってきた物は全て防寒のための道具だった。
呟きながら、手始めに毛布を手渡した椿。
零はロストをすると体温が下がってしまうため、それらの道具を用意したようだった。
そんな椿の真意を理解したのか、零は素直に毛布を受け取る。


「ありがとうございます」
「……あと、これも」


続いて椿が手渡そうとした物は『にゃんまる』の着ぐるみ。
嫌な思い出ばかりが詰まったそれを見て、零はぎょっと目を剥く。


「冬用。あったかいの」
「き、気持ちだけ頂いておきます」


さすがにそれは受け取りたくないのか、口元を引き攣らせて言う零。
最初に生徒会室で出逢った時から着ぐるみを嫌がっていた零を椿は覚えていた。
そのため無理強いはせず、着ぐるみ以外の物を全て零へと渡した。


「……刻にも、何か渡したんですか?」


毛布に身を包むものの、震えは収まらない零。
そんな零にすぽっとニット帽をかぶせた椿に、零は反抗する気も起きないのかそう呟いた。
椿は辛いながらもそう言った零に頷いて言う。


「脚立、竹馬、子供用の服」
「………」


端的に物だけを言う椿。
だが、その真意と目的を零はすぐに理解したのか、少し肩を震わせて笑った。
脚立は高い所でも手が届くようにするため。
竹馬は少しでも背を高くしていつもと同じように生活できるようにするため。
子供用の服は、あれだけロストしながら刻が用意していないため。
本人は子供姿をきっと気にしているというのに。
それを表に出さずに今まで生活していたというのに。


「さすがですね、椿さん。刻は喜びましたか?」
「………怒ってた」


理解ができないと不思議に思い呟く椿。
椿はただ純粋に、刻が不便だと感じているだけだろうが、刻はきっと複雑な思いになっただろう。
心の中でほんの少し、刻にささやかな同情を寄せた。


「きっと照れ隠しですよ」
「……そう、なの?」


とりあえずそうフォローし、首を傾げた椿に更に頷いておく。
これで椿の中の疑問も少しは晴れただろう。
そしてそろそろ夜も更けてきたのを感じ、椿に部屋に帰るよう促そうとした時、渋谷の悲鳴が聞こえた。
その大きな声は夜中にも関わらず渋谷荘中に響き渡った。
様々な理由でまだ眠っていなかった誰もが、その異変に気付き部屋から出てきた。
椿も同じで、声のした玄関へと駆け付けると、そこで目にしたのは泪の手を光の鞭で縛る平家の姿。
対峙している二人の間に重たい空気が漂う。


「まだ『渋谷荘』にいたんですか……。よほど死にたいようですね、八王子泪」


そして敵意のこもった目で泪を見つめる平家を、椿は悲しそうに見つめていた。