出逢い(6)


「ふふっ、予想通り、とても健康志向の高い家庭ね」
「そか?大したことしてへんけど」


夕食と入浴を終え、珊里は白石の部屋でくつろいでいた。
珊里はある程度予想していたようだが、白石家はやはり健康にはよく気を遣っている家庭だった。
夕食も栄養管理でもされているのかと思うほどバランスの良いものであったし、お風呂も身体に良い入り方のレクチャーを事前にされた程だ。
それに加え、お風呂から上がれば白石に呼ばれ、先程までヨガを教えてもらっていた。
普通なら驚いてしまうところだが、その全てを珊里は当たり障りのない微笑でこなした。


「そうでもないわよ。蔵ノ介のバイブルの秘密が分かった気がするわ」
「そ、そうなんやろか……まぁでも、思ったより馴染めてるみたいで安心やわ」


珊里の笑みを見て、白石も安心したのかそう漏らす。


「でもそれは蔵ノ介のおかげよ」
「俺?」
「ええ。私が馴染めるように自然な感じでサポートしてくれていたの、気付いてるわよ」


家族全員揃っての夕食では、白石が率先して話題を与え、さらに珊里もその話題に加われるように配慮を怠らなかった。
そういったことには比較的気付きやすい珊里は、心の底から有り難いと感謝をしていた。


「俺はちょっときっかけ作ってただけやん。実際うまくやってるのは珊里やし、俺のおかげなんて言いすぎや」
「……そうやって謙遜するのも蔵ノ介らしい」


首を振る白石に対し、珊里は優しげな笑みで白石を見つめた。
そんな珊里を見つめ返すのがなんだか照れくさく、白石はふっと目線を逸らした。


「あかんわ……珊里、ほんまドストレートに物言うよなぁ……」
「ええ、よく言われるわ」


参ったと言わんばかりに白石は頭を掻いた。
珊里もいつもの笑顔でにこりと笑い、頷いた。


「やけど、そこが珊里のええとこやな」
「………そう、かしら?」


この白石の言葉に、珊里はすぐに肯定することはできなかった。
少し間は空いてしまったが、珊里は笑みを浮かべたまま小首を傾げる。


「なーんも本心言わんと、気ばっか遣うよりは全然ええやん。俺は結構気遣てまうから、羨ましいわぁ」


笑いながら言う白石を見て、珊里は少しばかり目を見開く。
純粋に、驚いてしまっていた。
そんなことを言われたのは初めてだったから。


「珊里?」


目をぱちくりとさせて自分を見る珊里に不思議に思ったのか、白石が珊里の顔を覗き込む。
珊里ははっとして、そんな白石の目を見つめた。


「……あら、いけない。蔵ノ介があまりにもイケメンだったから見惚れちゃってたわ」
「なっ!そ、そんなお世辞言うても何も出んで!薬草くらいしか!」
「出るのね」


しかも普段持ち歩かなさそうな薬草が。と、珊里はまた驚いた。


「せや、出るんや。てことで、これ持っていきや。ハーブティーにして飲むと安眠効果があんねんで」
「(本当に普通に引き出しから出てきた……)」


これが大阪のノリなのね、と珊里は初めて体験することに楽しく思いながら、白石にお礼とお休みの言葉を言い、部屋を出る。
そして言われた通り薬草、もといハーブを白石母にハーブティーにしてもらい、今日から自分の部屋となる、白石の隣室へと入る。


「………あったかい」


夏で、夜もけっこうな暑さがあるというのに、ハーブティーを口にすると心地の良いあたたかさが体に流れ込むのを感じた。
それはハーブティーだけの効果ではないと、珊里は気付いていた。


「ハーブティーと、蔵ノ介のおかげね……」


そしてまた一口、ハーブティーを口にする。


「(自然体で接すればいい……か)」


じんわりとハーブティーのあたたかさを身に沁み込ませながら、珊里は少し前に現れた神様の言葉を反芻した。
正直、そう言われた時はあまり実感が沸いていなかった。
自分が自然体で過ごしていた、良い経験をしたことは多くはなかったからだ。
思ったことをオブラートに包むことすらせず、ストレートに切り捨てるように言う。
特に意識しているわけではないが、ずっと前から自分はそういう性格だった。
治そうにも、万も億もある言葉のどれが正解でどれが間違いか、珊里にはよく分からなかった。
そのため、自分はそれを治すことを諦めた。それが一番楽だと気付いたから。


「……本当、私の方があかん≠よ……」


白石の言葉を真似るようにして呟くと、残りのハーブティーを飲み干しベッドに入る。
自分にとっては心から嬉しく思える、白石との会話を思い出しながら。