出逢い(7)



「っあー!赤也の家はすごく快適だね!いやもう、赤也がいる時点で私にとっては極楽天国なんだけどさ!」


夕食、入浴を済ませた仁菜と切原は仁菜の居場所となった部屋のベッドに座って談笑をしていた。
とはいっても、入浴直後の切原を仁菜が半ば強制的に連れてきたのだが。



「な、何言ってるんスか!……まぁ、居心地悪いって言われるよりはマシッスけど」
「居心地悪いだなんて!いくらあたしが素直で可愛いだからって、居候としての身分は弁えた発言はするよー」
「(素直……?ってか、可愛いってのは関係ないような……)」
「実際居心地良いのは事実なんだしさ!」


グッと親指を立てて言うも、不思議に思う点のある切原は苦笑するしかなかった。
だがそれを言ってしまうと怖いことになると今日1日で学んだ切原はスルーすることにした。


「って、居候ってのはやめてくださいよ!これも何かの縁なんスから、仁菜さんとはもう家族も同然ッス!」
「きゃあああ!さっすがあたしの赤也!言うことがいちいち可愛い!!」


人懐こい笑みで言われ、仁菜の理性は崩壊寸前だった。
その声が大きかったからか、家族に聞かれるんじゃないかと冷や冷やしている切原は「しーっしーっ!」と人差し指を口に当てた。


「うふふー(ああもう本当赤也可愛いなぁ。お風呂上がりの赤也は完全に増えるワカメだねなんて言ってからかうのも楽しそうだけど、デビル化されても困るしやっぱり可愛い赤也が好きだからやーめた!)」
「……仁菜さん?なんか笑顔が変ッスよ?」
「これも赤也への愛よ」
「………」


仁菜のSっ気丸出しの煩悩など知る由もない切原は不思議そうに首を傾げるだけだった。


「でも、家族だって言ってくれるのは本当に嬉しいよ。ありがとう、赤也」
「えっ!い、いや……当然ッスよ……」


少しだけふざけた雰囲気が無くなり、ストレートに礼を言われて照れる切原。
こうくるっと空気が変わると、つい調子を狂わされてしまう。


「赤也のご家族とも仲良くなれそうだし、ひとまず安心だよ」
「……ほんと、すぐ打ち解けてましたよね」


夕食の時の賑やかさを思い出し、切原は苦笑する。
仁菜の持ち前の天真爛漫さのおかげで、一瞬にして友達のようになってしまったのには、同じく社交的な切原でも圧巻の様だった。


「えっへへー。赤也の大事な家族だから当然だよ!」
「仁菜さんって、誰とでもすぐに仲良くなれる感じするッスもんねー」


Vサインをする仁菜に向け、切原も笑いながら本心を伝えた。
だが、それを聞いた仁菜は少し複雑そうな表情で、切原から目を逸らした。


「……………赤也の家族だから、だよ」
「仁菜さん?」


仁菜の呟きは小さく、切原には聞こえなかった。
きょとんとした様子で仁菜の名前を呼ぶと、仁菜はすぐに笑顔で切原をまた見つめた。


「これでも赤也より3つお姉さんだからね!いろいろと手段があるのよ!」
「しゅ、手段っつーと何か怖いッスね……」


にしし、と意地の悪そうな笑顔で言う仁菜を見て、いつもの雰囲気に戻ったと安心した切原も口元を緩めた。
発言の内容には若干安心できなかったが。


「さて、と!明日は手続きやら赤也とのデートで忙しいし、もう寝よっか!」
「ちょっと!?デートじゃないしそもそも二人きりじゃないッスからね!?」
「もー、赤也ってば細かいなぁ。じゃあ、赤也+αとデートってことで!」
「俺先輩たちに殺されちゃいますって!」


なんてやり取りを最後までしながら、お互いにお休みの挨拶をして仁菜は一人きりになった。


「ふう……。なんだか、幸せだなぁ」


こっちに来てからというものの、ずっと笑ってばかりだった仁菜は自分の頬を少し揉みほぐす。
少しばかり頬の筋肉を酷使してしまったようだ。


『よう、仁菜』
「あ、神様だ!」


顔のマッサージを続ける仁菜の目の前に現れたのは小さな小さな浮遊物、もとい、神様だ。
久しぶりにも思えるその姿に、仁菜はぱっと笑顔になる。


『どうやら楽しんでいるようだな』
「もちのろんだよ!神様には本当に感謝してもしきれないなー!」
『あまり声を大きくするな。俺の姿は、お前達には見えても元々のこっちの住人には見えないんだからな。見つかると変人扱いされるぞ』
「おっと、そうなんだ?そういうことは早く言ってよー」


注意され、少し声量を押さえる仁菜。


『でもまぁ、お前が一番心配要素が少なくて俺としては助かってる』
「あはは、やっぱり。一番心配なのは壱加かな?」
『まあな』


即答する神様に、仁菜はまたも予想通りだったのか、眉を下げて笑った。


「神様、あたしはもう二人の一番近くにいられないから、神様が見守ってあげてね」


そして真剣で、どこか寂しげに仁菜は告げた。


『……俺は神だからな。頼まれなくても、そうするつもりだ』
「あはは、だよね!ありがとう!」
『もちろん、お前のことも見てるからな』


言うと、仁菜は驚いたのか一瞬きょとんとして神様を見つめる。
だがすぐにいつもの笑顔に戻り、


「あたしのことなんかこの通り心配いらないよ!立海の皆は予想通り優しいし、不安要素は皆無!」
『……そうか、それならいいんだが』


最後に、また仁菜は親指をグッと立てた。
それを見て神様は何とも言えぬ表情のまま、その姿を消した。