そして、運命の日。 千鶴と約束した、ファンシーショップに行くと言った日。 いや…当たり前のことだけど…きちまったか。 昨日腹を決めてから…今日まで、本当に早かったな。 早いと言えば。 「逃がさないから」 また、こいつはチャイムと同時に俺の教室に乗り込んで来た。 何なんだ?新しい特技か? 千鶴は真剣な顔で俺の腕を掴み離れない。 こうして拘束まがいのことをする時は、千鶴がどうしても我儘を聞いて欲しい時。 ……そんなにあの店に行きたかったのか。 「……わーってるよ。だから、早く行こうぜ」 「ふふっ、ようやく観念したのね。それでこそ亮だ!」 俺が溜息交じりに言うと、千鶴は嬉しそうに親指を立てた。 ああもう、俺の気も知らないで……。 「たく……もういいだろ、腕離せよ」 「嫌よ。離したら亮、逃げちゃうもん」 「もう逃げねえよ」 「前科があるので許しません」 そう言われると俺も何も言えなくなる。 俺が黙ると、千鶴は上機嫌な様子で俺の腕を引っ張って歩き始めた。 「お、今日はこれからデートですかー?」 「ひゅーひゅー!羨まC〜!」 「違えよ馬鹿!無理矢理だ、強制連行だ」 「失礼な!亮ったら乙女心分かってないんだから!」 「乙女ぇ?んなのどこにいんだよ」 「もう知らないっ!」 そう憎まれ口ばかり言っていると、千鶴はそっぽを向いてしまった。 こうしてすぐ拗ねるところも相変わらずだな。 俺はにやにやしている忍足とジローに違うともう一度釘を刺し、千鶴についていく。 「もう……ほんと、亮ってば何も分かってない」 「ん?なんか言ったか?」 「何も!」 ……なんだ、まだ怒ってるのか? 昨日ちょっと機嫌良かったと思ったら…最近の千鶴はよく分かんねえ。 靴を履き替え、未だ千鶴に引っ張られながら校門の外に出る。 ……店に入ってはいないといえ、3回もあの場所に連れてかれたら道くらいは覚えてしまう。 「おい、ここで曲がるんじゃないのか」 「えっ?」 「だから、あのピンクの店はこっちだろ」 「あ、そ、そうだったね…」 …こいつは店に行くのを楽しみにしていたんじゃないのか? 道を間違えるなんて初歩的なミスするなんて珍しい。 「つか、いつまで引っ張ってんだよ」 「え!?あ……こ、これは亮が逃げないためだよ!別に、亮に触れてたいわけじゃ…」 「何慌ててんだ?普通に隣歩けばいいじゃねえか。俺はもう逃げねえからさ」 「っ……そう、だね」 俺がハテナマークを浮かべながら言うと、千鶴は若干頬を赤くして俺の腕を引っ張るのを止めた。 その代わり、隣で顔を俯かせながら小さな歩幅で歩いてる。 ……今度は遅くなったな。 「……ね、ねえ、亮」 「なんだ?」 「その………手…繋いでもいい?」 少しだけ、頬の赤みが引いた千鶴が俺を上目で見つめながら聞いてきた。 なんなんだ今更。さっきまで思いっきり腕引っ張ってたやつが。 こうしてわざわざ是非を聞いてくるなんて、何か変なものでも食ったのか? 「別にいいぜ。ほら、」 「っ……」 まぁ、ちょうど千鶴の歩くスピードが遅くなってたし…。 今度は俺が少し引いていく感じで、調節できるしいいか。 俺が手を差し出すと、千鶴は少し熱っぽい手で握ってきた。 「…お前、体温高いのは変わんねえな」 「そ、そう?」 「ああ。昔からお子様体温だもんな」 「なっ…!違うよ、私が普通なの!亮が体温低いだけ!」 「ばーか。俺が標準だ」 そう千鶴をからかってやると、千鶴はいつものようにむくれて反抗してきた。 ったく、妙にしおらしいから本当に病気か何かと心配したが…普通じゃねえか。 余計な心配かけさせやがって。 「………あの店に入っても、絶対に離さないから」 「…そこまでするほど俺の信用は低いのか?」 確かに前科はあるが…今日はちゃんと腹くくってきたっていうのに。 俺がジト目で千鶴を見ると、少し慌てた様子で、 「そ、そうじゃなくて………っ。もう、何でもない」 「?」 何かを否定しようとしたが、途中で諦めたのかまたそっぽを向いた。 うーん……最近の千鶴はやっぱりおかしい。 もっと詳しく言うと、3年に上がってからの千鶴が、だが。 「あ、あそこ!ようやく着いたね!」 「……そうだな」 しばらく歩き、目の前に見えるのは例の店。 相変わらず……ピンクでファンシーでキラキラしてる…。 どう考えても俺は場違いだろ。絶対そうだろ。 しかも客は全員女……放課後に女友達で買い物をしている、ってとこだな。 前回までの3回は、この雰囲気の中にどうしても混ざりたくなくて逃げてたんだよな…。 でも、懲りずに千鶴はまた誘ってきたからな…仕方がない。 俺は改めて心を決めて、その店に向かう。 「……本当に、逃げないの?」 「なんだよ、逃げてもいいのか?」 「それは絶対だめ。逃げたら跡部に相談してレギュラー落ちさせるレベル」 「そんなに酷いのか!?」 千鶴の顔がマジだから怖い。 「大体…こんなとこ、俺とじゃなくて女友達と来ればいいじゃねえか」 「それじゃあ意味ないの!」 「意味?」 「じゃ、じゃなくて……あ、亮見て!あそこのぬいぐるみ可愛い!」 店内に足を踏み入れてすぐ隣に、大きなくまのぬいぐるみ。 確かに、かなりデフォルメされていて憎めない顔をしてる。 …俺には可愛いかどうかなんかよく分かんねえけど。 「それに、こっちの髪飾りも!」 「うおっ…そうはしゃぐなよ」 ようやくこの店に入れて嬉しいのか、千鶴が楽しそうに店内の雑貨を見て回る。 のはいいんだが…俺を引っ張り回すなよ。 「こっちのハンカチも、あっちのキーホルダーも可愛い!」 「ああ、そうだな…」 「亮、私ね…こういう可愛い物好きなの」 「んなの、今更言わなくっても分かるって」 千鶴の持ち物といったら、大体ピンクでファンシーなものが多いからな。 大体、幼馴染で今まで何年一緒に居ると思ってるんだ。 千鶴の好きな物くらい……。 「………!?」 当たり前、とでも言うような顔をして俺が呟いた後、千鶴は驚愕の表情を浮かべていた。 そんな表情をされることが俺にとっては心外なんだが。 「う、嘘……亮、私の好み知ってるの…?」 「当たり前だろ。幼馴染なんだから」 「……いやだって………え?」 物凄く理解しがたそうな顔で俺をまじまじと見る千鶴。 いや、そんな顔で見られても。 「……なんで信じられねえんだよ」 「だって亮……去年の私の誕生日プレゼント、何くれたか覚えてる?」 「誕生日プレゼント……?」 去年……そういや、何をやったっけ。 こいつの誕生日はちょうど今の季節……夏だったから。 「ああ、冷却枕か」 凍らしてタオルでくるんで枕にすると気持ち良いやつ。 あれって結構涼しいんだよな。 「……一昨年は?」 「あーーー………。あ、思い出した!冷却シート1ヶ月分だ」 額に貼るとひんやりしてて気持ち良い… 「どうしてそう私の頭を冷やそうとするの!?私の頭に何か恨みでもあるの!?」 思い出に浸っていると、千鶴がヒステリックにも似た様子で叫んだ。 「毎年毎年…誕生日プレゼント楽しみにしてたのに…。あれじゃあ、遠回しに頭を冷やせって言われてるのかと思うじゃない…」 「千鶴……まあ実際、そういう意味なんだけどな」 「!?」 落ち込んでいる千鶴にそう言うと、更に落ち込んだようでがくりと項垂れた。 おっと……今のは言い方が悪かったな…。 「だ、だから、深い意味とかなくて…。ほら、お前夏の暑さに弱いだろ」 「……そうだけど」 そう、こいつは暑さにめっぽう弱い。 毎年必ず熱中症とか起こすし夏バテになるし。 ちらりと千鶴の顔を見ると、まだ不貞腐れているようで口を尖らせている。 俺は短く溜息をついて、プレゼントの真意を話すことを決めた。 「覚えてるか?1回、体育の授業でぶっ倒れて意識不明になったの」 「……体育で倒れるのは日常茶飯事」 「そうだけど、特に酷かったのあるだろ。病院にまで運ばれたやつ」 「ああ……うん、あったね」 中1の頃だったかな。 夏の暑い日に体育の授業を外でやってて……突然、女子の方で騒ぎが起きた。 何かと遠くから様子を見ていると、人だかりの真ん中で倒れてぐたりとしている千鶴の姿。 俺はまたかと思いつつも、心配になって千鶴の近くに行った。 いもは、倒れたと言っても少し呼べば意識が戻ってきて、すぐに辛そうに笑うのに。 その時ばかりは、いくら呼んでも頬をぺちぺちと叩いても目を開けなかった。 これじゃあやばいと病院にまで運ばれることになった時…俺は、本当に怖かった。 さっきまで元気に動いていた千鶴が急に動かなくなったんだから。 もしかしたらこのまま目を開けてくれないんじゃないかと思うと、無性に怖かった。 こいつは、周りに迷惑をかけたくないと思って、限界まで頑張っちまうからな。 その時に思ったんだ。こいつが無理しないように、俺がちゃんと見てやらなきゃって。 もう二度と、病院で動かない千鶴を、自分の非力さを呪いながら見つめたくないって。 「だから、少しでも症状を和らげられるように、翌年から冷却シリーズを…」 「…………」 そこまで言うと、千鶴は本当に、心から驚いているような顔で俺を見た。 ……だから言いたくなかったんだよ。 俺はそんな千鶴の顔を直視できなくて、目線を逸らした。 「……じゃあ、亮は私の為に…私のことを想って、あの冷却シリーズを…?」 「まあ…な。だから、別にお前の好みを知らないわけじゃ…」 「亮、ありがとうっ!」 「のわっ!」 感極まった、という表現が相応しい感じで、千鶴は俺に抱きついてきた。 店の中でやるなよ!周りの迷惑になるっていうのに。 注意しようか引き剥がそうか迷っていると、 「私……亮が、そこまで想ってくれていたなんて知らなかった。本当に、嬉しい」 「千鶴……」 少し震えた声で千鶴が言うのを聞いて、そんな気は失せた。 仕方ない、こいつが納得するまでこのままでいよう。 俺も…何も説明せずに物だけを渡すから誤解されてたんだろうしな。 泣いている子をあやすようにして、千鶴の頭を撫でると千鶴の力が少し強くなった。 「……落ち着いたか?」 「うん、亮、ありがとね」 「おう」 千鶴がにこりと微笑んだのに応えるように、俺も笑う。 「亮の気持ちが分かって良かった。でも、私だってちゃんと自分で暑さ対策してるんだから、そんなに心配しなくていいよ」 「……そう言いながら、この前も倒れてたじゃねえか」 「え!?何で知ってるの!?」 「跡部から聞いた。もっときつく言っておけ、だとよ」 何で俺が怒られないといけないのか不思議で仕方がなかったけどな。 跡部も跡部で、千鶴のことが心配だったのかもしれねえな。 「っ…!わ、分かってるよ!分かってるから、今年はもう冷却シリーズじゃなくていいからね!」 図星を突かれたためか、千鶴は頬を膨らませながら言った。 こう正面から言われたからには、冷却シリーズはもうだめか…。 今年は奮発して、ベッドに敷く冷却マットを考えていたんだけどな。 「……あ!これ、すっごく可愛い!」 千鶴が目線を逸らした先で、何かを見つけたみたいだ。 俺は、千鶴が指差した先にあるものを同じく見る。 「……これは…ネックレスか?」 「うん。ほら、ペアネックレスだよ!」 商品を手にとって、近くまで持ってきた千鶴。 よく見てみると、それぞれ大小のハート型のプレートに、何かメッセージみたいなのが書いてある。 「こういうの、凄い好きだな…。ねえ、亮はどう思う?」 「俺?」 「一緒に買ってみたり…しない?」 少し小さめの声だったため、聞き取りづらかったが…。 一緒にってことは、俺と千鶴でこのネックレスをつけるのか? こういったアクセサリー自体は別に嫌いでもなんでもねえけど…。 「これ、カップル用だろ?」 「うっ……」 「ほらこのメッセージ見てみろよ。Love≠ニか書いてあるし」 ただ同じものをつけるだけなら構わないが…こう、恋人用のものはな。 勘違いでもされたら、俺も千鶴も嫌な思いするかもしれねえし。 「こういうのは、ちゃんと恋人ができたら買ってもらえよ」 「………そう…だね。あ、あはは、私にはまだ早かったかな…」 多分、デザインが気に入っただけで恋人用だとは思わなかったみたいだな。 少しがっかりしてるのも……きっと、そのせいだと思う。 「……そろそろ、行こうか」 「何も買わないのか?」 「……元々、亮に私の好みをアピールするために来ただけだし。帰り道で亮にジュース買ってもらうからいいよ」 「げ、覚えてたのかよ」 「もちろん!」 昨日、千鶴の機嫌を直すために何かおごってやるって言っちまったからな。 でもまぁ、ジュースくらいならいいか。俺も喉乾いてたし。 「分かったよ。んじゃ、出ようぜ」 「うん」 こうして俺は、その店から脱出することができた。 多分、もう二度と来ることはないと思う…。 「あっちの自販機で買ってくる。お前はサイダーでいいか?」 「うん。って、私もついてくよ」 「だめだ。傍に日陰ねえし…お前は涼しいとこで待ってろ」 「……ん。ありがと」 そう言って千鶴を日陰に残し、俺は歩道を通って反対側の道に渡り、ジュースを買いに行く。 さて、俺は何にしようかな。……つっても、スポーツドリンク一択だけど。 金を入れて、ジュースのボタンを押して、2つ出てきたジュースを取り出す。 そうして、反対側の道にいる千鶴を見てみると、 「!?」 知らない男3人に絡まれていた。 しつこく話しかけてくる男たちに、千鶴は気丈な態度で断わっている。 千鶴のことだから、男たちについていくことはないが…それでも、あれはしつこすぎるな。 早く行って助けてやらねえと。 そう思って駆け足で千鶴の元に戻ろうとすると、 「だから、連れがいるって言ってんじゃない!」 「ったく、せっかく誘ってやってんのに、んだよその態度は!」 強気に出たからか、男たちが少し腹立たしそうに言い、千鶴を突き飛ばした。 思わぬ事態に、俺は無意識に声を荒げた。 「おいてめえら!何してんだよ!」 「あー?何、お前」 「もしかして連れってこいつ?」 見たところ、高校生くらいだろうか。 突き飛ばされて壁にもたれている千鶴は心配そうな顔で俺を見た。 「そうだ。だから諦めてどっか行けよ」 「んだよ、もしかしてこの女の彼氏か?」 「中坊のくせに彼女いんの〜?うわ、なんかすげえむかつく」 そんな千鶴から俺に、男たちの注目が移った。 俺は目で、千鶴に逃げるように訴えた。 だが、千鶴は首を横に振って叫ぶ。 「亮は…っ、その人はただの幼馴染です!だから何もしないで!」 「幼馴染ぃ?なんだ、そうなのかよ。おにーさんたちの勘違いね」 「だったらいいじゃん、幼馴染なんか放っておいて俺たちと遊ぼうぜ」 俺に向けられていた視線が、千鶴に移る。 途端、千鶴が困った表情で男たちを見上げた。 ……だから、さっさと逃げろって言ったのに。 そして、男たちは千鶴の腕を掴む。 ……こいつら、完全に調子に乗ってるな。 千鶴に勝手に触りやがって! 「おい、お前らいい加減にしろよ!」 「ああ?まだいたの、お前」 「幼馴染に用はねえから、どっか行っちまえよ」 男たちは鬱陶しそうに俺を見る。 そいつらに、俺は大声で一言言った。 「そいつは俺の大事な彼女だ!汚え手で触ってんじゃねえよ!」 男たちを挑発する言葉。 こういう単純そうな奴らは、こういう言葉にすぐ乗ってくる。 「はあ?お前今何つって…!」 千鶴の腕を掴んでいた男が千鶴から離れ、その他の男たちも俺に歩み寄ってきた。 その隙を俺は見逃したりしない。 俺は男たちと千鶴との間にできた隙に素早く入り込み、千鶴の手を掴む。 「なっ!」 「そんじゃ、こいつは諦めて他当たってくれよな!」 そうして男たちが驚いている間に千鶴と一緒に走り出す。 逃げていく俺たちを追いかける程、男たちも千鶴に粘着質なわけじゃないだろうし、こうすれば安全だ。 そしていつもの通学路に戻って、息を整える為に立ち止まった。 「はぁ……ったく、妙なのに絡まれてんじゃ…っ!?」 立ち止まったところで千鶴の手を離そうとしたら、千鶴は強く手を握って離そうとしなかった。 不思議に思い千鶴の顔を覗き込むと、今にも泣きそうな顔で弱弱しく呟いた。 「………っ、怖かった…」 「え…?」 「怖かったよ、亮…!」 そう言い、千鶴は両手で俺の手を握ってきた。 「お前……あんな男に絡まれたくらいで、そんな顔してんじゃねえよ…」 「違うの!……亮に視線が移った時…亮が傷つけられるんじゃないかって…それが、怖かったの…」 俺はその言葉に、何も言い返せなかった。 …千鶴がこうして泣くほど怖がっていたのは……。 自分の身の危険じゃなくて、俺の危険を思ってのことなのか? 滅多に泣かない千鶴が…俺の為に、こんなに心配してくれたってことなのか…? 「お……俺が、あんな奴らにやられるわけねえだろ…」 「それでも心配なの!亮は、何でも無茶するから…」 無茶……か。そういや、昔っから千鶴に心配かけることも多かったっけ。 同級生や上級生との喧嘩した時とか。レギュラー落ちからの特訓とか。 そういう時は…千鶴は呆れながらも、それでも心配してくれてた…。 「……ごめんな。でも、お前を助ける為なら、無茶くらいするだろ」 「………それに、あんな……嘘、までついて」 千鶴は涙を拭い、少し赤くなった目で俺を見上げる。 嘘……ってのは、ああ、あれか。 「あのまま、正直に幼馴染って言ってれば、あの人たちも怒らなかったのに…」 「しょうがねえだろ。あいつらが千鶴の腕を掴んだ時…なんか分かんねえけど、カッとなっちまってつい…」 「………そうなの?」 自分でもよく分からないが、あの時すごく嫌な気持ちになったのを覚えている。 そして咄嗟に、千鶴のことを恋人だって……。 ……ああ、俺はむかついたんだ。 どこの誰とも分からねえ奴が、千鶴に勝手に触るのを。 「………とにかく、何事もなくて良かった」 「…そうだな」 もしかして、嫉妬してたのか? 俺が、あの男たちに。 千鶴を………千鶴を、取られたくなくて。 「でも、ありがとう。亮のおかげで助かったよ」 「……ああ。次からは気をつけろよ」 「うんっ」 千鶴のこんな笑顔を見るだけで、気持ちが楽になる。 自然と、穏やかな気持ちになる。 ああそうか、 そうだったんだ。 ようやく分かった。 気付けた。 俺は、 「じゃあ、今日はもう帰ろうか」 「…おう」 千鶴が好きなんだ。 千鶴の笑顔を守りたくて、咄嗟に動いたんだ。 ……今まで気付けなかった。 それは幼馴染という関係に満足していたから。 いつだって傍にいてくれる千鶴。 それが当たり前だと思っていた。 だけど、 その気持ちが恋≠ニいうものだったことに、今ようやく気付けた。 ……忍足たちに散々からかわれても自覚できなかったのに。 さっきみたいなことで気付かされるとは。 「……亮?黙ってどうしたの?」 「いや…なんでもねえよ」 俺、お前のことが好きになっちまった。 ………全く、馬鹿だよな。 俺たちは幼馴染だってのに。 こんな気持ち抱いちまうなんて。 お前を、異性だと意識しちまうなんて。 「ふふ、変なの」 お前が知ったら……一体、どう思うだろうな。 Next... |