それから次の日。
ベッドから出て、まだ寝ぼけた手つきで制服を着る。
実は、あんまり昨日眠ることができなかった。
丸井先輩に振られてしまった事実。
切原に全てを打ち明けてしまった事実。
全てが、急に身に染みたように思いだして……。

「………私、頑張る」

昨日のあの言葉が、自分で言っておきながら、何であんなことを言ったんだろうと思ってしまう。
だって……私は、ほとんど丸井先輩と初対面みたいな関係なのに。
それなのに……、丸井先輩の初恋の傷を癒そうとしている。
傍からみたら、お節介もいいところ。
……それでも私は諦められない。

「わかったよ。じゃあ俺も協力する」

でも、昨日の私に言ってくれた切原の言葉。
それがあったから……私、こんな気持ちになるんだと思う。
こんなに前向きに、丸井先輩と向き合いたいなんて……。


「………大丈夫」


家を出る前、鏡を見てそう呟いた。
自分が自分を信じられなかったらだめだよね。
私は決して、間違ったことをしようとしているわけじゃないんだ。
ただ、丸井先輩の悲しみを、少しでも取り除いてあげたいだけ……。


「っがんばれ、私」


自分の手で、頬を叩き、家を出た。
まるで今までの自分じゃないみたいに、足取りが軽かった。
やっぱり、丸井先輩に想いを伝えてよかった。
片想いのままだったら……私、こんなに前を向いて歩けなかったと思うから。


「おっす、千鶴ー」
「おはよ、切原」


教室に入るなり、切原に声をかけられた。
元々私たちはよく話すし、これくらいは普通だ。
冷やかすようなクラスメイトもいない。
……というより、切原はどんな子ともよく話しているからそんなことはないと思うんだけど。


「今日さ、昼屋上で一緒に食わね?」
「え、どうして急に…」
「ほら、昨日のこと!いろいろ考えなきゃいけねーだろ?」


笑いながら、切原は自分の頭を指差した。
そんな仕草に私は元気づけられながら、


「わかった」


そう返事をした。
切原もにいっと笑って、午前の授業を受け始めた。
そしてお昼休み。
お昼休みの鐘が鳴ったと同時に、切原は屋上へと誘ってきた。


「っし、誰もいないな」
「………寒い」
「しょうがねえだろ。こういうところでもなきゃ、他人がいるし」


確かに、今の時期は屋上でご飯を食べるには肌寒い。
そこを切原は狙って屋上へと誘ってきたんだろう。
切原はどかっと座り、前に座るように私を促した。
下のコンクリートが冷たそうで少し座るのを躊躇したけど、我慢して座った。
そしてご飯を食べるのかと思いきや、切原は急に真面目な顔をして、


「昨日から気持ちは変わってないか?……今なら、そんな辛そうなこと止められるんだぜ?」
「?なに言ってるの。私はしっかり決めたんだから。今更そんなこと言ってもだめだよ」
「……そっか」


切原は目を伏せた。
何だか…一瞬、悲しそうな顔をしたと思ったけど、


「わかった!んじゃ、丸井先輩に近づくために作戦会議開始!」


すぐにこんな調子に戻った。
……さっきのは、私の気のせいだったかな?


「作戦って…そんな大袈裟な、」
「これくらいじゃないと気合い入らないだろ?」
「………」


気合いの問題じゃないと思うんだけどな。


「そういや、千鶴が告白したとき、丸井先輩は名前聞いてきたんだろ?」
「あ、うん…」
「ってことは、一応覚えられてるんじゃねえか」
「……分からないよ。先輩、3日もしたら忘れる≠チて言ってたし…」
「ばーか。そんなの、お前が諦めるように仕向けた言葉だよ」


切原は頬杖をついて私に言った。
……その言葉が間違いだと思えないのが悔しい。
やっぱり、切原の方が丸井先輩のことよく知ってる。
なんだか心強いような……そうでもないような。


「丸井先輩は千鶴のこと覚えてる。……それだけでも、結構有利だぜ?」
「……そう、だよね」


丸井先輩のことを好きだっていう人は多い。
その大多数が憧れだから、告白までとはいかないみたいだけど。
……私は、その大多数≠ゥら何とか抜け出せそうみたい。


「ってことで、早速今日から毎日部活応援しに来いよ」
「えっ……でも、私振られたばっかなのにそんなことしても…」
「そこはお前の頑固さでカバーだ!」
「……そんな、親指立てられても…」


丸井先輩については頼りになるけど、やっぱり少し馬鹿だからな……。
なんて思っていると、


「今ならこの俺の活躍する姿も見れて一石二鳥!」
「切原はいつも見てるからいい」
「なっ!お前なぁ、普段の俺と部活の俺、全然違うからな?」


すぐムキになって。
それを見て、さっきまで悩んでいた私の心も明るくなる。
思わず笑ってしまうのは、切原のせいだ。
……おっと、話が逸れちゃった。


「わかった。頑張って今日から応援しに行ってみる。……本当なら、直接話をしたいけど…」
「え?しねえのか?」
「しないのかって……。ギャラリーや部活で忙しいし、」
「じゃあ、部活終わるまで待ってろよ。俺が何とかしてやるからさ!」


その言葉、信じていいのかなぁ。
……きっと私は、普段の切原だけを見てたら信用していないと思う。
でも今は、真剣な切原の姿を見てしまったから。
この言葉も、信じられる。


「わかった。………じゃあ話はこれくらいにして、ご飯食べちゃおう」
「よし、りょーかいっ!」


ありがとう、切原。





切原side


本当なら、千鶴が丸井先輩に近づくことに協力したくなかった。
俺だって千鶴のことが好きだからだ。
だけど……昨日の千鶴の姿を見ていると、放っておけなかった。
あんなに…、丸井先輩の事を想っていたなんて。しかも2年間も。
……そんなこと、全然気付けなかった。
2年間という期間は、俺が千鶴のことを好きでいた期間よりずっと長くて。
しかも、自分から告白をする勇気を持っていた。
だから……俺も昨日一生懸命考えた。
俺は千鶴が好きだ。
千鶴が幸せなのが、一番いい。
…そう、俺は決めたんだ。
千鶴の恋を最後まで応援するって。


「昨日から気持ちは変わってないか?……今なら、そんな辛そうなこと止められるんだぜ?」


だから俺はもう一度聞いた。
千鶴の気持ちを確かめる為に。
俺の決意を固くする為に。
千鶴の言葉は、思っていた通り、自分の気持ちは変わらないと言う言葉。
……もし、ここで千鶴が弱気な事を言ったら、
強引にでも……丸井先輩のことを諦めさせようとか、思ってた。
ごめんな…千鶴。
俺も、少し諦めが悪いみたいだ。


「んじゃ、丸井先輩に近づくために作戦会議開始!」


こうやって、無理矢理笑って明るくしてないと……俺、絶対千鶴に見せたくない顔を見られそうだった。
自分は応援するんだって、何度も言い聞かせてた。
千鶴も、俺の事を頼りにしてくれているんだ。
そんな千鶴の気持ちを……裏切りたくない。
だから俺は頑張って千鶴に色々提案した。
部活の応援に来るように、放課後丸井先輩と話すように。
話せるかどうかは、俺の力量によるかもだけど。


「何だか切原に頼ってばかりで、ごめんね」
「いいっていいって。多少俺のお節介も入ってるけどな」


千鶴の期待には応えたい。


「それにしても、切原のお弁当……結構凝ってるね」
「う…。そんなに見るんじゃねえよ。今日は姉貴が作ったやつだし…」
「そうなんだ?いいお姉さんだね」
「いいお姉さん?冗談だろー?」


好きな奴と、向かい合って食べるお弁当。
途切れることのない些細な会話。
ずっと……恋人≠ェできたらやってみたいことばっかだった。
相手は千鶴で、願ったり叶ったりだけど。
恋の相談相手≠フ立場は正直辛い。
でも、


「あはは、そんなに嫌わなくてもいいのに」


千鶴の笑顔は守りたい。
……もし、丸井先輩が千鶴を傷つけたりしたら、俺はこの気持ちを抑えることができるだろうか。
でも例え、俺が丸井先輩を責めようとしても、千鶴は俺を止めるんだ。
それは予想ができる。
こいつは、優しいから。


「今日はありがとうね。少しだけ気分が軽くなったよ」
「はは、それなら良かった。俺、いつでも暇だから、何かあったら言えよー?」
「わかった。じゃあ、教室戻ろ」
「ああ、」


今はまだ、千鶴と丸井先輩の関係がうまくいくとは思えない。
丸井先輩も……今はすげえ辛そうだから。
1ヵ月前、あの短い期間……。
俺たちにとっても、真澄さんは大切な存在だった。
しかも丸井先輩は特別。
でも、今はただ、

「丸井先輩に今必要なのは、好きという気持ちを別の人に向けることじゃない」
「悲しんでる丸井先輩を、支えてあげられる人なの」


あの時の千鶴の言葉を信じるだけだ。





千鶴side


お昼ご飯を食べ終わって、私は切原と教室に戻った。
それからは普通に授業を受けて、いつもと同じように過ごした。
本当なら、放課後になるとテニス部へと向かう女の子たちを避けるように帰っていくんだけど。
今日から、私にも放課後の予定ができるんだ。


「………」
「千鶴、緊張してんのか?」
「……ちょっと」


思えば…自分からテニスコートに向かうなんて初めてだ。
今までこんなこと、しようとも思わなかったな……。
結局、初めから諦めてたってこと……だよね。
自分でも少し情けなくなる。


「ほら、ここ」


切原が立ち止まり、前を指差す。
それと同じように私も止まって、前を向く。
切原が指を差した方には、大きなテニスコート。
だけど、まだあまり人はいなかった。


「放課後になって、すぐコートに来るとこんな状態。好きなポジション選び放題だぜ」


切原は笑いながら言った。
そうか、放課後になったばかりだと、テニス部の人もまだ校内だから早く来ても意味がないのか。
さすがはテニス部員。
いろいろと分かってるんだね。


「で、」
「?」


切原はこっち、と手招きをして、ある場所に連れてってくれた。
そこは、一番奥のテニスコート近くのフェンス裏。


「ここ、最近よく丸井先輩がいるとこ」
「えっ……」
「あれからさ、ファンの人たちから遠いこのコートにいることが多いんだよな」
「……そうなんだ」
「でも、そこを上手く利用して、千鶴もアピールしろよ?」
「うん……頑張る、」


と言っても、ここから何をしたらいいのか分からない。
声を出して応援なんて、私にはできない。
恥ずかしいというか、相手に迷惑になるんじゃないかって不安がある。
ただでさえ、丸井先輩とは昨日のことがあるのに。


「…とにかく!俺はお前を応援してっからな!」
「あ、うん…。ありがと」
「おう。じゃあ、部活が終わったら部室側の校舎んとこに居ろよ。何とか丸井先輩を呼んでやるから」
「………わかった」
「よし。じゃあ俺、そろそろ部活行ってくるな!」
「うん、切原も頑張って」


そう言って、切原は走って部室まで行った。
……段々とファンの子たちも増えてきて、私の緊張も大きくなってきた。
私は人込みに紛れないように、フェンスにしっかりとしがみついた。
部活が始まる頃になると、フェンスはいつも通り人でいっぱいの状態になった。
その声援を受けて、テニス部の人たちがコートに入ってくる。
……やっぱり、レギュラーの人はオーラが違うなぁ。
こうして改めて見ると、近づきがたい雰囲気が見て取れる。


「(あ、切原……)」


切原がすぐ私に気付いて、笑ってくれた。
元気づけられたと思って私も笑顔を返す。
……ただ、切原の笑顔を私へのものと思っていない女の子たちは、キャーキャー言ってたのには切原も苦笑いしてた。
丸井先輩はまだいない。
……早く姿を見たいと探す。
脳裏にある丸井先輩の姿を思い出すだけで、少し心臓がどきどきしたのを感じた。


「きゃー!丸井くーん!」
「!」


ここで女の子たちが再び騒ぎ始めた。
丸井先輩が来たんだ。
私は部室の方へ視線を向かわせる。
………居た。
赤い髪と大きな瞳を揺らして、ラケットを片手にコートに入ってきた。
丸井先輩が来てレギュラーが全員揃ったらしく、部長の幸村先輩が号令をかけた。
そして、


「………っ」


レギュラーは準備運動が終わるとすぐに練習試合に入った。
1試合目、丸井先輩は試合がないのか、切原が言った通り……私の居るフェンス側のコートのベンチに腰をかけていた。
すぐ近くに丸井先輩。
後ろからの丸井先輩への声援なんか聞こえない。
少し押されたりもしたけど、それでもフェンスを強く握ってずっと丸井先輩を見つめていた。


「(目……合ったらどうしよう)」


なんて、淡い期待を胸に……丸井先輩を見てた。
丸井先輩は、友達の桑原先輩とよく話してた。
……そういえば、ダブルスの相手って聞いたことがある。
やっぱり、今から試合みたい。
丸井先輩は噛んでいるガムを膨らませて、コートに入っていった。


「…………丸井先輩」


先輩のテニスをする姿を見るのは初めてに近かった。
友達に誘われた時も、好きだって気付かれたくなくて、色んな人を見てた。
……でも今は、一人の好きな人として…見ることができる。
切原の応援もある。
私は……変わるんだ……。
私は丸井先輩のテニスをする姿から目を離すことができなかった。
今まで、見ることができなかった分……目に焼き付けようと思って。
大好きな先輩の、頑張っている姿。

私が好きになった、太陽みたいな笑顔を見たくて………。

そして部活終わり。
ファンの子たちが帰っていく中、私は切原に言われた通り部室側の校舎へと足を運んだ。
放課後なると、やっぱり人通りは少なくなる。
私はそんな中、鼓動が速くなるのを感じながら丸井先輩を待っていた。
……来るかなんてわからない。
でも、私は信じていた。
切原を。丸井先輩を……。
そして、


「………お前、」
「あっ……ま、丸井先輩っ」


やっぱり、来てくれた――――





丸井side


「丸井先輩ーっ」
「……なんだよ赤也」


部活が終わり、あの黄色い声援から逃げるように部室に戻ってきた。
……前までは、少し嬉しくて元気づけられていた応援。
だが、今ではこんなにうるさいと思えるものはない。


「ちょっと先輩に話があるんスよ〜」
「…だからなんだよ」


赤也が何か企んでいるような目で、着替えている俺に話しかけてきた。
……こういう顔をしている時は、ろくなことを考えていない。赤也の癖だ。


「実は、丸井先輩と話をしたいって奴がいるんスよ」


赤也は少し近づいてきて、小声で言ってきた。
……周りに気付かれないように気を遣っているんだろう。
確かにそれはありがたいが、話の内容は眉を寄せるほど嫌なものだ。


「で、お願いなんスけど、話してあげてくれないッスかねえ?」
「はぁ?お前、そういうのは断れって言ってんじゃんかよ」
「俺もクラスメイトの頼みは断れないんス。でも、可愛い奴ッスからお願いしますよ」


なにがクラスメイトだからだ。
今までそんなのお構いなしに断ってきたくせに。
大体こいつは何で今そんな話を持ってくる?
俺が、……真澄のこと忘れられてないってこと分かって言ってんのか?


「嫌だ。大体、昨日もそんなことがあったばかりなのに……」


そう言った瞬間、少し赤也の顔色が曇ったのに気付いた。が、


「そこをよろしくお願いしますよ!少しだけでいいッスから!」
「………」


しつこい。
こいつがこんなに頼んでくるなんて……どんだけ相手との約束守ってんだよ。
はぁ……気が乗らない。


「しょうがねえな。今日だけだぜ。だから、もう二度とこんな話受けてくんな」
「了解ッス!」


こっちは怒ってるのに、赤也の方は少し満足気なのが気に入らない。
俺は仕方なく、着替えを終わらせるとすぐに赤也が言ってた場所へと向かった。
俺は少し気分が下がり、下を向いてその場へと向かった。
一体誰だ、俺に話があるって奴は。
まぁ、どんな奴でも、俺の出す答えは一つ……。
そんなことを考えていて、ふと視線を上げると。


「………お前、」
「あっ……ま、丸井先輩っ」


そこには、昨日会った2年が、緊張した面持ちで俺を待っていた。





千鶴side



実際に丸井先輩を前にすると、急に何も言えなくなってしまう。
でも、そんな私だとだめだから。
しっかりと丸井先輩の顔を見ないと……。
そう心を落ち着かせて、丸井先輩の顔を見つめる。
丸井先輩は訝しげに、少し怒っているともとれる表情で私を見ていた。


「……丸井先輩、また呼び出してしまってごめんなさい」
「………。何だよ話って。お前のことは昨日全部答えを話したつもりだぜ」
「それは分かってます。……でも、私…どうしても先輩のことを諦められなくて、」


そう言うと、先輩は眉を寄せた。


「……俺、昨日言ったよな。俺に本気になるなって。それに、そういう気持ちも重いって、きっぱり言ったはずだぜ」
「…はい。きっと、いつもの丸井先輩からの言葉なら、私も諦めていたと思います」
「……?」
「でも、私聞いたんです……。切原に、」
「赤也に?」
「はい……その、1ヵ月前のことを」
「…………。赤也のやつ、」


丸井先輩は歯ぎしりをして、私から目を逸らした。


「でも、切原を怒らないでください。全部…私が勝手にしたことですから」
「………」
「そ、それで私、考えたんです。真澄さんを忘れてくださいなんて言いません。ただ、丸井先輩は人を愛せる人だから…」
「………秋月、」
「は、はいっ」


また丸井先輩に呼ばれた。
これだけで、私の心は喜んでしまう。
なんて単純なんだろう……。


「お前に何が分かるんだよ」
「えっ……」
「どうして俺が、人を愛せる人だなんて言えるんだ?…俺はそんな優しい人間じゃねえよ」


丸井先輩は、少し横暴な態度でそう言い放った。
私は唖然とした。
丸井先輩でもこんな顔するんだ……。
でも、その顔を見て逆に悲しくなった。
やっぱり、この人は怯えているだけなんだ。


「分かりますよ……。だって、丸井先輩最近ずっと笑ってないから」
「………」
「私、丸井先輩の笑顔に惹かれたんです。廊下で偶然すれ違った時も、部活の時も……いつも、先輩は笑ってました」


そう、先輩は人を愛することができる人。
だって……真澄さんを愛しているから、この人は自分から幸せになることを拒否しているんだ。
真澄さんの為に、自分は笑わないようにしている……。
私にはそう見えた。


「それなのに、最近の先輩は笑っていません。だから先輩…私でよければ先輩の傍に置いてください。きっと…いえ、絶対に先輩の笑顔を取り戻して、」
「秋月、それ以上言うな」
「……っ」


瞬間、丸井先輩はとても怖い顔をした。


「お前に俺の気持ちなんか分かんねえよ…。お前のその言葉だって、自分を利用してくださいみたいなこと言ってるけど、結局は俺と付き合いたいだけなんだろ?」
「ち、違います!私はただ……」
「どうせ、腹の底では俺に真澄のことを忘れさせようとしてるんだろ?…生憎だけど、俺は真澄のことを忘れたりなんか絶対にしない…」


丸井先輩の表情がどんどん切なそうに歪んでいく。
先輩……本気で真澄さんのことが好きなんですね。
少しだけ……本当に少しだけ悔しいです。
でも、凄く羨ましいです。


「知ってますよ……」
「え…?」
「先輩が、真澄さんのことを忘れたりなんか絶対にしないって、分かってます」
「っ、どうしてそう思えるんだよ…」
「先輩が好きだからです」
「………っ」

「どうしようもないくらい、大好きなんです」


だから先輩、お願いです。
私の事は嫌ってくれても構いません。
でも、人を嫌いになんてならないでください。
先輩は優しい人だから。
大丈夫。
きっと先輩は……幸せになることができます。





Next...