「ねぇねぇ聞いて若!」 千鶴と宍戸さんがくっついて1週間。 どうやら二人とも順調な感じで、片想いの頃感じていた違和感もほとんどなくなった。 「恋人」という響きに緊張してぎくしゃくしたらどうしようかと、少し考えていたが……。 そんな心配は必要なかったようだ。 千鶴は片想いの頃より大分オープンになった。 宍戸さんを見ると犬みたいにすぐ駆け寄るし、いつもの笑顔を見せるようになっていた。 そして、 「明日ね、亮先輩と2回目のデートなの!」 日に日に、俺への惚気もヒートアップしていく。 なんだこれは。嫌がらせか? いや、前に一度「両想いになったら惚気くらい聞いてやる」的なことを言ったのは覚えている。 だけど……ここまで惚気られるとは。 「……俺に言うなよ。他の女友達とはしゃいでればいいだろ」 「えー。だって、友達に言うと怒られちゃうもん」 どうも、千鶴の周りの女子は祝いつつも、やはり嫉妬や羨望を感じているようだ。 からかわれて、相談もできないらしい。 「……俺だって独り身だが」 「若は将来、絶対に良い人が見つかる!私が保証する!」 「…お前に保証されてもな」 「だから、若に彼女ができて惚気られる前に、私がいっぱい惚気ちゃうの!」 はた迷惑な話だ。 だが、どうしても憎めないのは、俺も千鶴と同じで嬉しいからだ。 応援する側としても、片想いの時みたいに「どうしよう」と話を聞くよりは、こうやって幸せな話を聞く方がずっといい。 「俺はお前と違うから惚気たりしない」 「嘘だぁ。若は表には出さないけど心の中で舞い上がっちゃうタイプだもん。私分かるよ!」 「………。そんなことより、デートがどうしたんだ?」 こいつの思っている俺はどんなのだろう。 少し心配になってきた。 あまり自分について言われるのは好きじゃないから話を変えた。 「あっそうそう!昨日亮先輩から誘われたんだ〜。前回は私が遊園地に誘ったから、今回は亮先輩がパフェ奢ってくれるの!」 「へえ。よかったじゃねえか」 「うん!もう若の力を借りなくても、二人でなんとかやっていけるかもって、嬉しくなっちゃって!」 千鶴が宍戸さんのことを話すときの顔はすごく輝いてる。 そりゃあ、好きなことを話しているからそうなるんだろうけど。 今まで俺に見せなかった顔も多々見せるようになってきた。 少し顔を赤らめて無邪気に話すところとか、 子を想う母のように温かい目で宍戸さんを眺めてたりとか。 恋は人を変えるって、本当なんだと思った。 「………そう思うとなんだか変な気分だな」 小さい頃から何か困ったことがあると俺にひっつき回って離れなかったあの時が懐かしい。 ……あの時は大抵跡部さんに虐められた後とかだったな。 俺は跡部さんのことを知らなかったから、何の解決にもならなかったが。 まぁ、飴でもやって頭を撫でてやれば気を良くしていたから扱いは簡単だった。 懐かしい記憶だ。 「あ、もしかして若、寂しいの?」 「は?」 「私が宍戸さんばっかりになっちゃってるから〜」 急に何を言い出すかと思ったら……。 また、馬鹿みたいなことを。 「あはは!なんてね!若はそんなこと思ったりしないよね〜」 千鶴は冗談冗談、と笑う。 全く。こいつは話の脈絡がないから困る。 いつもそうだ。 振り回されるのは俺で……。 だけど、俺も頼られるのが嬉しかったのか、いつでも力になろうとして……。 確かに、妹みたいだとは思っていた。 だが、それだけ。 それ以上でもそれ以下でもない。 千鶴は俺のたった一人の幼馴染だから。 「そうだぜ。俺はそこまでお前なんかに依存してないからな」 「あっ!失礼なこと言うなーっ」 小さい頃、事あるごとに泣いている千鶴を見て……。 こいつは俺なしじゃだめだな、とか思っていたのは内緒だ。 だからと言って千鶴のことが好きだったとかはない。 俺はとことん、千鶴の保護者だったってわけだな。 「おーい、千鶴ー」 ここで宍戸さんが教室に迎えに来たみたいだ。 今日は部活がない日。 そんな日は二人一緒に帰るのが日課となるみたいだ。 「あっ亮先輩!」 「あまり待たせんなよ」 千鶴は話すのに夢中で帰る準備をしていなかった。 急いで自分の席に戻り(と言っても俺席のすぐ近くだが)、荷物をまとめる。 その間、宍戸さんは待ちきれないのか教室に入り千鶴の様子を眺める。 「あんまり急がなくてもいいぜ?ゆっくりでいいからなー」 「あ、はいっ」 宍戸さんもまた、俺達後輩や同級生の仲間に見せない様な笑顔、眼差しで千鶴を見つめる。 その目が優しくて、この人なら俺以上に千鶴を守ってくれる気がして安心する。 「………」 それはいいが、少しだけ千鶴のクラスの男子やテニス部の奴には警戒心があるみたいだ。 千鶴は宍戸さん大好きだが、元々愛想がいいからな。 宍戸さんにとってはそれが不安なんだろう。 ぱちっと、宍戸さんの気を張っているような厳しい視線と目が合う。 「そんなに心配しなくても、俺はただの幼馴染ですから好きになったりしませんよ」 「なっ!ばっ、そんなんんじゃねーよ!」 図星をついてしまったのか、宍戸さんは慌てて俺から目線を逸らす。 そんなところも、想い合ってる様子がうかがえて微笑ましいといえばそうだ。 「終わりましたっ!」 「お、おう。じゃ、帰るか!」 「はーい!」 千鶴は俺に「またね」と手を振って教室から出ていく。 その背中がすごく楽しそうで、幸せそうだった。 ………千鶴を見ていると、恋っていうのも悪くないと思えてしまう。 かといって、そんな相手もいないが。 もしできたとしても、千鶴には相談しない。 今は自分たちのことで精一杯だろうからな。 それを邪魔したくもないし、また宍戸さんを心配させるわけにはいかない。 ……まぁ、これからも思う存分千鶴の惚気を聞いてやるか。 これもいらない心配かもしれないが、 二人とも、ずっとずっと、お幸せにな。 End. ここまで読んでくださりありがとうございます。以下はあとがきです! 宍戸さんとの恋を日吉くんに応援される……。 私にしては両手に花のような状況の夢でした。 もうひとつのお題とは違ってギャグっぽい内容なので、自分でも楽しんで書きました。 恋に鈍感な二人を応援するキューピッド日吉……苦労人でしたね。 書き進めるごとに展開が分からなくなって……自分でも冷や汗ものでした。 時間をかけて書いた割には何の変哲もない恋愛に。 スマートさが一番ですよね!ごめんなさい! しかも3周年記念に突入してしまっていました!申し訳ありません! 深々と反省しつつ、また別の機会にお会いしましょう! 2周年ありがとうございます!! 20100520. |