「………」


あれから、私たちはあまり喋らなくなった。
喋らない、じゃなくて、喋れない。
……だって、怖いもん。


「璃乃、おはようさん」
「……あ、おはよ…」


ブン太に嫌われたかもしれない。
そんな感じが、頭を過ぎる。


「……まだ、話せんのか?」
「……うん」


話したい。
笑いたい。
でも、できない。
ブン太は教室に居る時間が少なくなった。


「……璃乃、俺が言える立場じゃないかもしれんが、」


仁王が、頭に手を当てながら言った。


「このまま、何もせんよりも、何かした方がずっといい。……元はと言えば、俺が原因なんじゃがな」


最後、少し目を伏せた。


「……ん、そだよね…。ありがと、仁王」


だから、そんなに落ち込んだ顔をしないで。
だって、こんなにブン太と近づけたのは貴方のおかげだと思ってる。


「……私、行って来る」
「!璃乃…」


私は走った。
とりあえず……屋上に。
屋上の扉を開けると、誰かの姿が見えた。


「あっ……璃乃…先輩?」


赤也だった。


「…赤也…。ねぇ、ブン太知らない?」
「……知らないッス」
「……そっ、か」
「……すんません」
「いいよ、謝らないで。赤也は悪くないんだから」
「っでも……」


この顔は、仁王と同じ。
昨日のことを反省してる。
まったく…ただの遊びだったんだから、そんな顔しなくていいのに。


「ほんとにいいって。誰も悪くないんだから」


一言言って、その場から去ろうとした時、


「っ璃乃先輩……!」


赤也が私を引き止めた。


「なに?」
「……あの、ブン太先輩…、もしかしたら中庭にいるかもッス…」


俯きながら、言ってくれた。
精一杯、私に伝えようとしてくれたのが分かる。


「……ありがとう」


私は、中庭に向かった。





「……ほんとに、いい人ッスね。璃乃先輩は……」


ブン太先輩、
ほんとは、仲直りしたいって思ってるのはすぐに分かるッス。
……もう、璃乃先輩を泣かしちゃだめッスよ―――





「っはぁ……ここ、かな?」


屋上から中庭まで、少し走ってきた。
辺りは草むら。


「……ブン太ー…」


少し小さい声だったけど、名前を呼んでみた。
………。
返事は返ってこない。


「……どこにいるの…?」


キョロキョロと見回す。
すると、ある一点で目が止まった。


「……あれ」


緑の中に、ポツンとある赤色。
知ってる。
あの綺麗な赤色。


「ブン太…っ」


急いで駆け寄った。


「あ……」
「………」


寝てる。
少し、私の胸の鼓動が高鳴った。
寝ている時のブン太の顔は、子供のような顔をしてた。


「………」


私はブン太の横に座った。


「……ねぇ、ブン太」
「……ん〜……」


起きない……よね?
……だったら、少しだけ。


「……すぐに、いつもの笑顔向けるからね」


少しだけ、隣で休ませて。
少しだけ、心を落ち着かせて。





ブン太side




「……ん?」


俺は横に誰かがいるような違和感を感じ、目を開けた。
すると案の定、隣には誰かのぬくもりが。


「……っ?え、璃乃……」


俺の横には、静かな寝息を立てて寝ている璃乃。
一瞬、すっげえ驚いた。


「……俺を探してくれたのか?」


普通なら今は授業中。
璃乃が授業をサボるのは初めて見る。


「……ん、…ブ…ン太…」


寝言なのか、璃乃の口から俺の名前が聞こえた。
その顔は、少し切なげだった。


「……璃乃」


そう言った俺の声は、ガラにもねえほど優しい声だった。


「…悪かった。俺が変な意地張って……」


璃乃の為だと思ってたけど、逆に璃乃を傷つけちまったんだな…。
正面から言うのは恥ずかしいから、今しか言えねえけど。


「……好きだぜ、璃乃」


璃乃が起きたら、前みたいに笑って話しかけよう。
前のひずみを埋められるくらい、楽しく。
俺は璃乃が起きるまで、もう一度横になり、空を見る事にした。





璃乃side




「………ん」


目が覚めた。
少し、ボーっとして空を見た。


「…あ、起きたか?」
「………えっ!?」


隣から声。
……って、当たり前か。
私は隣に居るブン太を見る。


「……ほら、まだ横になってろよ」


飛び起きた私の腕を掴み、隣にまた寝かせた。


「…あ、あのね、ブン太…「あのさ、璃乃…」


ブン太が私の言葉を遮った。


「な…何?」
「お前……寝てるとき……」


横になりながら見詰め合う私たち。


寝言言ってたぜ
「……はあっ!?う、嘘っ!何て!?」


ブン太の横で!?
どうしよう!私食べ物の夢見てた!!


「あっはは!嘘だよ、嘘ー」
「……へ?」


すごく間抜けな声が出た。


「寝言なんて言ってねえよ」


意地悪っぽく笑うブン太。
ああ、戻った。
いつもの私たちに。


「……もう、ブン太ったら!」
「ははっ、悪い悪い!」





やっとできた仲直り。

……喧嘩じゃないかもしれないけど。


それでも、前のように笑うことができた。


綺麗な緑の中に見つけた一点。

緑が私たちを包んでくれて

私に勇気を与えてくれた。


柔らかい芝生。

ありがとう。



緑色―――





みどりいろ
(二人で寝転んで、優しく芝生に包まれた)