「璃乃、今日部室に来んか?」
「……え、行っていいの?」
「平気じゃ。今日は部活は無いからの」


……なのになんで部室なんだろ。


「ブン太も呼んだるけぇ、来んしゃい」


結局仁王に腕を掴まれ強制送還。
部室に行くと、もうブン太が居た。


「ちッス!璃乃先輩!」
何で赤也もおるんじゃ?


何だか、いつもブン太と居るみたい。
仲良いなぁ……。


「ま、別にいいだろぃ?」


まぁ、楽しいから全然いいよね!


「はぁ……。まぁ、よか」
「……で、何するの?」
「ああ、何にする?」


決めてなかったの…!?


「何か意見あるかー?」
「はーい!俺、王様ゲームやりたいッス!」
「「王様ゲーム!?」」


私とブン太の声がハモった。
そこで、私は仁王に引っ張られ、


「ええか?俺が命令しちゃるきに、ちゃんとやれよ」
「…ちょっと待って。王様になるのは運次第だし、番号も分かんないじゃん」
「くく、俺に任せんしゃい」


……何をするつもりですか?


「(ブン太先輩!ちゃんとやって下さいね?)」
「(…やるって、何を)」
「(王様ゲーム、絶対璃乃先輩と当たりますから!)」
「(…その自信、どっからくるんだよ)」

「よし、準備はバッチリじゃよ」
「こっちも、OKッス!」


何だか完全に流されてるなぁ……。
こうして、強制的王様ゲームが始まった。







「お。俺が王様じゃ」
「また仁王〜?」
「これで何回目だよぃ」
「仁王先輩ばっかずるいッス!」


王様ゲームは盛り上がってます。
今まで出てきた内容は、デコピンだったり、秘密暴露だったり……。
久しぶりに楽しんでます!


「じゃあ、これでラストな。そうじゃの……1番と3番がキス」


……………………っあ、私1番だしっ!!
驚いて仁王を見ると、ニヤニヤ笑っていた。
………見たな!?


「で、3番は誰じゃ?」
「………俺」


そう言ったのは………ブン太。


「ってことは、ブン太先輩と璃乃先輩がキスっすね!」


ヒューヒューとベタに冷やかしを入れたのは赤也。
……ちょ、まじでやるの!?!?


「ほれ、王様の命令じゃよ?」


クス、と笑う仁王。
………仕組みでしょ!!


「…ど、どうしよう……ブン太……」


ブン太は無言のまま。


「ほら、ブン太先輩、命令ッスよ〜!」
「ブン太の方からな。あ、ほっぺでもいいぜよ」


仁王と赤也がブン太に言い寄る。
すると、ブン太は立ち上がった。


「ん?どうしたんじゃ、ブン太」
「あっ、キスするんスか〜?」


未だ冷やかす二人。
ブン太は、少しの間を置いて、


「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねーよっ!!」


叫んで、キスを拒否した。


「きっ…キスは、好きな奴とするもんだろっ!」


その言葉を聞いて、私は愕然とした。


「な、なのに……んなことできっかよ!」


そして、ブン太は部室を飛び出た。


「っブン太先輩!」


それを追うように赤也も出て行った。
それを、私は何も言えずに見ていた。



『キスは、好きな奴とするもんだろ』



その言葉が何度も頭を過ぎる。
ブン太は、私とのキスを拒否した。
ブン太は、私の事嫌いなのかな――?
思ったことは、その疑問。

私が嫌いだから、ブン太はキスをしたくないって言った――?


「……璃乃…」


仁王が声を掛けてきた。


「……あ、はは…。ねぇ、仁王……」
「………」
「…これって、フラれたのかなぁ……?」


いつの間にか、涙が込み上げてきて、視界が揺れていた。
瞬きをする度に、溜まっている涙が零れ落ちる。


「……すまん。…俺が、変なこと言ったからじゃな…」
「…ち、がうよ……。にお…は、悪くな……いっ」


涙がどんどん溢れてきて、何も言えなかった。


「ふえ……っ、うあぁ…っ!」


涙が止まらない。
すると、


「……っ、泣くのは止めんしゃい……」


仁王が、抱き締めてくれた。
その優しさが、嬉しかった。
でも
目からは涙が絶えず流れてきた―――





「………」
「っブン太先輩!待って下さいよっ!」


走って立ち止まると、後ろから赤也が追いかけてきたのが分かった。


「……なんだよ」
「なんだよ、じゃないッス!…何であんな事言ったんスか…?」


あんな事、とは……

「キスは、好きな奴とするもんだろ」

の事だろうな。


「……事実だろぃ」
「っ、そうッスけど……」


赤也は、何か言いたそうな顔をしたが、俯いた。


「…………俺は、璃乃が好きだ」
「………」
「…だから、キス出来なかった……」


あいつの好きな奴は、俺だと確定しているわけじゃない。
それなのに、キスなんてしたら………。


「……ブン太先輩…」
「っ、俺だって…あんな風に言いたくなかったぜ…」


気がつくと、頬に涙が伝っていた。


「……っ、」


好きだから故の行動。
俺がキスをして、傷つくよりはずっとマシだ。
ましてや、二人が居る前で。


「……璃乃先輩も、泣きそうな顔だったッスよ」


赤也が呟くようにして言った。


「……そう、か」


だからってどうすることも出来ない。
今から戻って、涙を拭くことなんて出来ない。
俺の目からも、涙が止まらないんだ。





二人の瞳からは、相手を思う涙が溢れていた。


とても、純粋な気持ちの涙。


まるで、綺麗な水のように。

汚れのない水のように。


そう



水色―――





みずいろ
(こんなにもっ、好きなのに……っ)(っこんなにも、好きだから……)