それは、ある日の会話。


「なぁ、璃乃」


前に座っていたブン太が、真剣な顔して声を掛けてきた。


「……何?ブン太」
「頼みたい事があるんだけどよ…」
「……頼みたい事?」
「ああ。璃乃にしか言えねぇ…」


私、だけにしか……?


「な…に?」






「あのよ……………………宿題見せてくれ!


……………。
どうせこんなことだろうと思ったよ。


「はぁ!?やってきてないの?」
「いーじゃん!なぁ、頼むよ〜」


ブン太が両手を合わせて頼んできた。


「何やっとるんじゃ、お前さんら」
「あ、仁王」
「ブン太がね、宿題やってないんだって」
「へぇ、それで璃乃に?」
「ああ。すぐ後ろだし」


どんな理由よ……!


「ほぅ…。んで、璃乃、見せたるんか?」


そう言った仁王の顔は、明らかに笑っていた。
………絶対面白がってる!


「なっ?今日だけ!」
「そう言ってこれで何回目よ」
「じゃあいいじゃん!」
「良くないっ!」
「ちぇ〜、ケチ」
「なっ…!…もう、しょうがないなぁっ」
「マジ!?っしゃぁ!」


これが、私たちの日常。







「ブン太〜、飯一緒に食わんか?」
「ん?食う食う〜!」


昼休み。
仁王が、ブン太を昼食に誘った。


「どうじゃ?璃乃も」


……………。
えぇっ!?私っ!?


「ででで、でも……」
「おっ、いいじゃん!璃乃も来いよ!」


ブン太が笑顔で言った。
…………ありがとう神様!!
と、いうことで、私たちは屋上でお昼ご飯にすることにした。






「璃乃先輩、どもッス!」


誰、この子?


「あれ?私、君と会ったこと……」
「俺たちの部活の後輩だぜぃ」
「赤也言うんじゃ」
「ちょっと!自分で自己紹介しますって!」


私の話は無視ですか?
……でも何だか、凄く楽しそうに話してる。
仲が良いみたいね〜。


「俺、2年の切原赤也ッス!赤也でいいッス!」
「私は夏木璃乃。よろしく、赤也」


うん。元気があって楽しそうな子だな〜。


「(この人が璃乃先輩か〜。優しそうな人ッスね)」
「(……優しいかは分かんねぇけど、楽しい奴だぜ)」
「(はぁ……折角璃乃とブン太を二人きりにしてやろうと思ったのにのう)」


まぁ、人数が多い方が楽しいしね!
この日は楽しくお昼ご飯を食べることができた!








「璃乃、今から帰るんじゃろ?」
「え、あ……うん」
「なになに?何話してんの?」


私と仁王が話してると、ブン太も入ってきた。
やっぱり仁王と話してるからかなぁ!
……………ちょっと悔しい。


「おお、丁度良い。ブン太、俺等と帰らんか?」
「っえ!?」


ちょっ、仁王…いきなりはっ!!


「いいぜ」


えっ?いいの??


「それなら、玄関に行こうかの」
「で、でも、部活は?」
「今日は休みだぜぃ」


あ……そうなんだ。
チラ、と仁王を見ると、笑っていた。
……何か企んでるな。
私にとって良いことならいいんだけどなぁ……。







「皆さん、今帰りなんスか?」
「「「………」」」


玄関に来て、能天気な笑顔で来たのは赤也。
……可愛いなぁ…。


「今から皆で帰るんだぜぃ」
「え?皆でって……3人でッスか?」
「ああ。そうだぜ…………って、うおっ!」


すると、赤也はいきなりブン太を引っ張って少し離れた。


「(何やってんスか!普通璃乃先輩と二人きりっしょ!?)」
「(なっ、何だよ…そんなにムキになってよ…)」
「(言ったじゃないッスか!俺、協力するって!)」
「(そ、そうだけど……)」
「(いいッスか?俺が仁王先輩と一緒に帰るッスから、ブン太先輩は璃乃先輩と帰って下さいよ!)」
「(はっ…!?)」

「……何か、話し込んでるね」
「そうじゃの。…そんなコトより、璃乃」
「ん?何?」
「俺、もう一人の邪魔者連れてくけえ。ブン太と二人で帰りんしゃい」
「はぁ!?(じゃ、邪魔者って…)」
「安心しんしゃい。赤也がおるからの。後はついてかん」
「赤也が居なかったらついてくる気だったの!?」
「プリッ」


と、私も仁王と話していると、


「あはは〜、すみません。少しブン太先輩お借りしちゃって!」
「おい!借りるって何だよぃ!」


どうやら、終わったみたい。
……一体、何を話してたんだろ。


「仁王先輩、帰りにゲーセン寄りません?」
「ほう、奇遇やの。俺も赤也を誘おうと思ってたんじゃよ」
「「ってことでお二人さん、さようなら」」


話が合うのね、あの二人……。
1分も経たない内に行っちゃった……。


「………」
「………」
「あー…んじゃ、俺たちも行くか」
「う、うん……そうだね」


ちょっ、めっちゃドキドキするんだけど!!







今、私はブン太と帰ってます。
……凄く緊張してます。


「……なぁ、璃乃」
「な、何…?」
「…さ、寒い……な」
「あ、うん…そうだね〜」


今は秋と冬の間……微妙……。


「はぁ〜っ、手が冷たい……」


指の先が赤くなってる……。
私は手に息をかけた。


「……なぁ」
「ん?何?」
「…寒いんなら…手、繋がねえ?」
「え……っ!」
「あっ、い、嫌ならいいんだけどよ…」


そう言って眼を逸らすブン太。
……もしかして、照れてる…?


「…あはっ、可愛い……」
「な…っ」
「それじゃ、…はい」


私はブン太に手を出した。


「お、おう…」


ブン太は私の手をとって握ってくれた。
……あったかい。


「………」


……恥ずかしいっ!
それから、私もブン太も俯いて歩いた。






初めて握った貴方の手は

とても温かくて。


ちょっぴり恥ずかしいけど

嬉しさはすっごく大きいよ。


俯いてばかりの私たちが見ていたもの。

いつもと同じで、今日は違う、帰り道。


貴方と歩く帰り道は、特別だよ。

同じ色だけど、違う色に思える……


                   
灰色―――





はいいろ
(何だか、このまま帰るのがもったいないよ)