「やいこら!仁王雅治ぅーっ!」 私は道場破りのように声を上げながらテニスコートに出た。 あ、ちなみに朝食は済ましたよ。 仁ちゃんったら、いつまでたっても眉を寄せてるから私まで眉間が痛くなっちゃって……あいたた。 でも、落書きを落とせなくて困ってる私を助けてくれたのも仁ちゃんだけどね! 意外とお世話してくれるよね! 「ん?何じゃ、未永」 目的の人物は何食わぬ顔で出てきた! さて、どうしてくれよう。 「初めて名前も呼んだのう。結構ぐっとくるぜよ?」 「知ーらーなーい!私の顔に落書きするなー!」 「落書きじゃないぜよ。俺のおまじないじゃ」 決して自分が悪いと思っていない顔でニオっちは言った。 「……おまじない?」 「ああ。未永が猫のように大人しい子になるようにーってな」 「余計なお世話だー!」 大体あんたたちが色々言って私が返してるだけなのに私がうるさいって思われてるんだよ!? 酷くない!? 「当然のことナリ」 「ちーがーうっ!私は元は大人しくて良い子なのよ?」 「へえ、どの辺がッスか?」 「んー……全体!」 おっと、よく見たら赤やんまで居るじゃない。 「えー?そんなん全然想像できないッス!未永さんが大人しいなんて!」 「ちっちっち。赤やん、人を性格だけで判断しちゃいけないのよ」 「大体の人は性格で判断するんスけど」 赤やんったら、珍しく普通なこと言うんだから。 「私だってね?可愛い時期があったのよ……」 「過去形じゃないッスか」 「しかも遠い目になっとるしのう」 「るさいっ!じゃー逆に聞くけど、赤やんは大人しい私の方が良いって言うの!?」 そう言うと、赤やんは、うっと黙った。 「私が礼儀正しく、『おはよう、赤也くん』ってお辞儀は美しく30度!笑うときも『おほほほほ』って笑う私が想像できるのか!」 「……想像できないッスね」 「でしょ!?人は今のままが一番良いのよ!」 珍しく正論を言った! ザ・勝利! 「単になれねーからいい訳してんだろ」 「誰!?ズバッと図星を言うのは!?」 「あ、図星だったんスね……」 私はキョロキョロと左右を見る。 「後ろだよ」 ゴツッ。 私の後頭部に衝撃が走った。 「なっ…!私の背後を取るなんて、やるわね!」 「誰だよお前」 「プリッ!」 「仁王じゃねーよ」 この声、鋭いツッコミ……もしかして、 「景ちん!?」 「見てから何秒経つんだよ、お前」 「いやー、ちょっと朝は脳が回らなくて……」 「ああ、そうだったな。地球が回ろうがお前の脳は回らねーよな」 なんだかどうでもよさげな顔で言う景ちん。 あれだ、『はいはい』で子供の話を何気にスルーしようとするお母さんにそっくりだ。 しかも首根っこを掴んで私を連れ去ろうとする。 「く、苦しっ!ちょっと待って景ちん!まだニオっちに制裁が……!」 「落書きに気付かず寝てるお前が悪い」 「贔屓!?」 私の声は多分全部のコートに響き渡ったと思う。 「保護者さんも大変じゃのう」 「そうッスね。未永さんをあんな風に抑えられるのは跡部さんだけじゃないッスか?」 「いや、氷帝の一部は出来るじゃろ。日頃の行いじゃな」 「……大変なんスね、氷帝って」 「……氷帝だからじゃろ」 「へ?」 「いや、何でもない。早く練習しんとまた幸村に怒られるぜよ」 「わわっ、それは勘弁して欲しいッス!」 急いでコートに戻る赤也を見て、仁王はふと微笑んだ。 仁王は最近ある疑問が浮かぶようになった。 もし、小さい頃未永が虐めなんか受けていなかったら。 今の未永のようになっていたのだろうか。 好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと単純に言える、素直な子になっていただろうか。 そんな疑問が頭を過ぎるが、仁王は考えないようにする。 考えたら、今の未永を否定する事になるかもしれないから。 ×
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