「さーて、こっちも勝負所なのよね!」


目の前にあるのは……


「未永、これをやる」
「ん?景ちん……何、これ」
「日誌だ」
「いらない」
「無理だ」
「………。このノートをどうしろって?」
「毎日の練習の様子を書け」
「えー!」
「仮にもマネだろーが。じゃ、頼んだぜ」
「(仮って……私は正式マネなのに!)」



「回想終了!」


合宿の始めに言われたこのノート。
すっかり忘れてた。


「やばいよね、これって。かなりやばい」


他の臨時マネの子は外の仕事をやってる……。
私が頼まれたことだし、私がやるしかないか。


「しょうがない、適当に書こう!」


本当にあったことを書けば日にちなんて関係ないもんね!
そう思ってノートを開くと、


「………………あ、」


ノートは真っ白じゃなかった。
初めに目に飛び込んだのは綺麗な整った字。


「………景ちんの字だ」


ノートにはこう書いてあった。



『このノートは本来マネである未永が書く筈だったんだが、アイツがやるとは思えない。
 だから、俺達で書くぞ。いいな?
 俺様からの命令だ。

 注意、未永にはこのこと言うなよ?忘れてんだから。』



「………さすが景ちん。私が忘れるって予想済みだったのね」


その次のページから、もうページいっぱいに書いてあった。


「……あ、これはがっくんのだ」



『今日は、俺は誰よりも高く飛ぶことを目標にしたぜ!
 まぁ、目標にしたって誰にも負ける気はしねーけどな!
 勿論、菊丸になんかは特に!』



「元気だなぁ………。あ、下に何か書いてある」



『なにを〜!俺の方がアクロバティックは天才的だもんね〜!クソクソ向日!』
『俺のクソクソ℃謔驍ネっ!』
『おい、天才的≠ヘ俺だけが使うモンだぜぃ?』



「あははっ、ノートでも喧嘩してる」


一番最後には景ちんが、紙きれで喧嘩してんじゃねーよ、と書いてこのページは終わっていた。


「……次は、亮ちゃんかな?」



『今日はダブルスの試合があった。
 長太郎のサーブも特にミスがなく、スムーズに終わった。
 ……ただ、外野の声がうるさかった。
 未永のな。
 ……気になるんだよな。』



「そうだったの!?」



『今日は俺、宍戸さんの為に頑張りましたよ!
 それに、久しぶりの試合でしたからね。
 未永先輩も、そのことを思ってるんじゃないですか?
 思いつくかは分かりませんが。』



「チョタ……最後だけいらなかったよ」



『今日は≠カゃなくて今日も≠ノしろよ?
 ま、忍足たちを負かせたから気分はいいな。
 ……俺は思いつかねぇと思うぜ。』
『あはは、頑張ります。
 そうですね。でも、もう少し点差をつけたかったですね。
 向日先輩のプレーにも少し焦りましたし。
 俺も同感です。』



「最後が気になるなぁ……。でも、楽しそうだね」


また景ちんが、ここは交換ノートじゃねえ、とか注意して終わってるけど。


「あ、他校も書いてある」



『プリッ』
『……ファンタ飲みたい』
『メシ足んねえ』
『今日は未永ちゃんのパンチラが見れなかった。あんらっきー』



「……誰が誰だかすぐ分かる。内容も一言になってるし」


最後のはあとでシメておこう。
やっぱり、どれもそれぞれの部長からの注意を受けている。


「あは、個人差ありすぎ……」


ほんと、自由奔放な人たち。
そんな中にいるのが楽しいといえばそうなんだけどね。


「今日の分は、私が書いちゃえ」


後ろの方のページに、今日のことを書いた。
珍しく、最後まで埋めちゃった。
私はノートを閉じると、またいつもの仕事に戻った。



『皆〜!
 私に内緒でこんな楽しいことやってたの?
 ずーるーいー!
 私も混ざりたかったのに……。
 景ちんのばかぁー!
 そりゃ、忘れちゃってたのは確かだけど……。
 私も交換ノートする!
 今日はね、このノートを見つけた日!
 皆いろんなこと書いてて楽しかったよ。
 夏休み最後で私が頑張って書こうと思ってたけど、全然平気だったね。
 皆もいいとこあるじゃんか!
 もー、大好き!!』


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