「えへへ」
「……なんだよ、やけに上機嫌だな」
「だってさー」


亮と二人きりの帰り道。
そんなのいつものことなのに、今日は全然意味が違う。
幼馴染ではなく、恋人というこの距離に……私はついついにやけてしまう。
そのことに気付いた亮は、少しだけ不思議そうな顔で私を見た。


「こうやって手を繋ぐでしょ?」
「お、おう……」
「そうしたら、もう私たちは立派な恋人同士なんだもん」


亮の手をぎゅうっと握りながら言うと、亮は驚きで目を見開いてた。
でもすぐに言葉の意味を理解して……顔を赤くする。
お互いに恋人を作るのは初めてのことだから、少し緊張しちゃうよね。


「ったく……調子の良いこと言いやがって」
「亮は嬉しくないの?」


恥ずかしそうに言う亮に、首を傾げて聞いてみる。


「……バーカ、嬉しくねえわけねえだろうが」


すると、私よりも強い力で私の手を握った。
手を通して、もう離さないと言われているみたいで嬉しい。
私も、もう逃げないよ。ちゃんと亮と向き合う。さっき、そう決めたもんね。
二人で歩くこの道を、見失わないように。


「……恋人同士、かぁ」
「なんだよ……」
「うーん、幼馴染でいる期間が長すぎて、いまいちどうしたらいいのか分かんないや」
「あー、そうだな……」
「どうしよう、大好きーーーって叫べばいいかな?」
「んなことしなくていい!っつーか、それでも今までの未永と変わらねえし」


口を尖らせて言う亮。
んー……確かに、私はいつも亮のこと好き好き言ってた気がする。
大声で叫んでたかは別として。
亮だけじゃなくて、他の子たちにもね。


「だけど、その好き≠ニはもう意味が全然違うよ?」


子供が言い合うような軽々しい好き≠カゃない。
うーん、例えが難しいけど……LIKEがLOVEになったような?
そんな深い意味の好き≠ナ……。


「どうしたの亮、耳真っ赤だよ?」
「っお前……ほんと、よくそんな恥ずかしいこと素で言えるよな」


わお。
もしかして亮は、本気の好き≠ノは弱いのかな?
今までは私が好きーって言ってもあんまり気にしなかったのに。


「あはは、亮照れてるー」


そっか。亮って、恋をするとこんな反応に変わるんだ。
知らなかったな……そして、いつにも増して可愛く見える。
赤くなった耳に触ってみると、すごく熱かった。


「ったく……お前はほんとにいつも通りだな。馬鹿だからか?」
「一言余計だよっ!でも、別にいつも通りってわけじゃないんだけどなぁ」


呟くように言うと、亮は信じてないような目で私を見てきた。


「多分、私がずっとずっと亮に片想いしてたから……その時から、亮への接し方がこんなんなんだよ」
「ずっとって……」
「物心ついたときからね!」


Vサイン満面の笑顔で言うと、亮は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
そして少しだけ真剣な顔をして、


「えっ……?」


道の真ん中で、私を抱き締めた。
優しくてあたたかい、亮の抱擁。
更に私の頭をぽんぽんと撫でてくれている。


「ごめんな、もっと早くに気付いてやれなくて」
「………っあ、う……」


突然のこと……しかも亮からっていう、珍しいバージョンに私の思考が追い付いていない。
え、え、急にどうしたの?
慰めてくれてるの……?


「俺は……この気持ちが恋なんだって、お前が居なくなってから気付いた」
「亮……」
「お前を守りたい、離れたくないって喚いてたあの日まで、これは幼馴染の駄々だって思ってた」


あの日……私がこの土地を離れる日のことかな……。
……そうだよね、鈍感で面倒見が良い亮のことだもん。
小さい頃の私が放っておけなくて、心配してくれていただけなんだよね。


「未永のことが好きなんだってその時までに気付いてれば、もっと強く……お前を守れたかもしれない」
「……もう、亮ってばそればっかり」


私は、悔やんでいる亮が急に幼く見えて、背中をぽんぽんと撫でた。
がっしりしたその背中、今では本当に……頼もしく見える。


「私は今が一番ベストだと思ってるよ。これ以上望むと、きっと天罰落ちちゃう」
「未永……」
「今は、亮と両想いになれただけでじゅーぶん幸せ」
「………」


きゅっと、亮が私を抱き締める力を強くした。


「……なんだか最近、未永が可愛く見えてくる……」
「ちょっと、なんでそんな幽霊が見える的なトーンで言うの?」
「自分でも不思議で仕方ない……」
「もう、亮のばっ……」


馬鹿、と言おうと思ったら。
亮の耳が本当に真っ赤なのに気付いた。
そうか、これは照れ隠しなんだね。


「えへへ、亮は恋をすると照れ屋だね」
「……頭撫でんな」
「大体、私が可愛いのは当然でしょ?」
「いや、俺は可愛く見える≠チて言って……」
「だって私は亮の彼女なんだから!」


そう言い切って、亮から離れる。
そしてもう一度手を繋ぎ直した。


「これからもどんどん可愛くなってみせるからね!覚悟しててよ、亮!」


ぶんぶんと繋いだ手を振り回しながら宣言すると、亮は肩の力が抜けたみたい。


「……ああ。期待してるぜ、未永」


そう、優しい笑みを浮かべて言った。
亮のその笑顔を見るだけで、こんなにも嬉しくなる。

私は今まで知らなかった。ううん、忘れようとしてた。
恋って、愛って、こんなにも楽しくて抑えられないものだったなんて。
今まで閉じ込めていた好き≠フ気持ちが、こうも簡単に暴走するものなんだって。
気付けて、取り戻せてよかった。

こんな幸せな気持ちになれたのはもちろん、


「亮、」
「ん?」
「今までも、これからも、ずーっと愛してる!」


いつも私の傍に居てくれた、亮のおかげだよ。





−END−


×