「ったく、びっくりしたぜー」 「本当、何事かと思いました」 「あはは……」 着替え終わり、更衣室から出てみるとすぐそこに皆が待機していた。 どうやら女の子たちの声があまりにも大きくて心配になったらしい。 でも中には入るわけにはいかないから、こうして近くで待っていると。 とりあえず事情を説明して岳人や若が安心したところで、私は苦笑する。 「……お前、話すの早えよ……」 脱力したようにうなだれている亮を横目に。 更衣室の前ではち合わせた時、あの子たちに意味深な笑みを送られたみたい。 「それより、やっぱ女の子たちは敏感やなぁ」 「ですね。未永先輩がずっと隠していた気持ちをあっさり見破るなんて」 侑士と長太郎が感心するように呟く。 ぐ……確かに、こういった色恋沙汰は女の子は好きだもんね……。 特別私が分かりやすいわけじゃないと思う、うん。 ただ亮と仲が良かったからそう思ってただけかもしれないし。 「でもま、よかったな」 「あっ……」 「もう、あんなことにならないで済むな」 私の頭に優しく手を乗せたと思ったら、そう言いながら笑う。 あんなこと……? 変なの、まるで何か知ってるみたいに……あ。 もしかして。 「覚えてた……の?」 「正確には思い出した、だな。お前の泣き顔があの面影とそっくりだから」 私が保健室で想いを巡らせていたあの記憶。 そうか……思い出してくれたんだ。ずっと忘れてると思ってた。 もう二度と思い出されることはないと思ってた。 あの事を覚えているのは私だけでいいと思ってた。 泣き虫を私を見つけてくれた、無愛想な救世主。 私が忘れなければ、景吾の優しさは消えないから。 でも、景吾の中にも……ちゃんと、あの時の小さい私が存在していたんだね。 それを思うとすごく嬉しくなる。 「あの女共、後から『あの子が宍戸くんを取るから〜』とかわけわかんねえこと弁明してたからな。あの時は宍戸のアホのどこがいいのかと思ってたが」 「おい、俺の知らねえところで俺の名前出すなよ」 「今でも思ってるぜ。お前、このバカで本当にいいのか?」 「跡部……お前な……」 景吾らしく、亮を貶しながらの発言に亮が反応する。 それを全く気にせず、つーんとそっぽを向いている景吾。 なんというか……これは私のせい、なのかな? 景吾がこんなにあからさまにやきもちを焼くなんて珍しい。 亮も訳が分からないまま貶されて、腹を立てている表情で景吾を見たけど、 「つか、さっきは何の話してんだんだよ」 今度は不思議そうな顔をして私と景吾を見た。 亮は、私が小さい頃景吾に助けてもらったことがあるなんて知らないから、そんな顔をするのも当たり前だよね。 「もうっ、亮ったら恋人になった途端に嫉妬深いよ!それだけ私のことを愛してくれることは嬉しいけれどもっ!」 「ち、ちっげーよ馬鹿!」 飛び跳ねながら亮に抱きつくと、亮は驚いたように肩をびくりとさせた。 それでも離れないでいると、背後で景吾が溜息をついたのが分かった。 「……お前には教えねえよ、宍戸」 「……?」 そして何かを諦めたような、少し寂しげな表情でそう吐いた。 私と亮が意味が分かっていないように首を傾げていると、見かねた長太郎が私を亮から引っぺがした。 「はいはい、イチャつくのは帰り道にしてください。言っておきますが、宍戸さんと両思いになったからって虐めるのはやめませんからね」 「なんで!?」 「それが俺の愛情表現です」 「相変わらず歪んでるよ!長太郎の将来が心配だよ!」 にこにこと表は爽やかなのに……きっとお腹は真っ黒なんだね。 いやもう、お腹だけじゃなく胴全部真っ黒な気がするよ。 「失礼ですね。不二さんや幸村さんと一緒にしないでください」 「うん、今の長太郎の発言の方が失礼だね」 あの二人に聞こえていないことを祈ろう。 「いつまでも突っ立ってないで、そろそろ帰りましょうよ」 「そうだな…。いつまでも樺地にジロー背負わせてんの悪いし」 「ウス……平気、です……」 動かない私たちを見かねて、若が声をかける。 それに岳人が便乗しながらジローを背負っている崇弘を見た。 あれからずっと背負ってたのね……それでも無表情で動じない崇弘がすごいよ。 「ごめんね、気遣えなくて。大丈夫?」 「ウス」 「よし、それならOK!じゃあ帰ろうか!」 そうして私が指揮を取ると、皆も笑顔で歩き始める。 他愛もないことを話しながら馬鹿みたいに笑って。 つまらないことで喧嘩したり、すれ違ったり。 そんなことができる大切な仲間。 そんな存在がこんなにもいること、私はもっと実感しなくちゃいけないね。 「皆、明日からまたよろしくね」 明日だけじゃない。明後日もし明後日も、ずっと皆は私の傍にいてくれる。 いつかは離れ離れになる日がくるけど、でもその日までは。 こうして同じ笑顔でいてくれる。 「「「おう」」」 皆で一歩、同じ空の下に出る。 大分陽が傾いて、陰が濃く長く伸びている。 人数分、確かにそこに存在している。 ああ、今日は本当に、とっても素敵な日和だね。 |