「あ、2年生諸君おかえり〜」
「未永先輩、応援してくれましたよね?」
「……いや、応援する間もなかったというか……」


チョタに笑顔で聞かれたものの、私は苦笑気味に答えた。
というか、チョタは応援なんてしなくても自力で何でもやってのけそうなんだもの。


「……こいつらは身長があるだけ有利なんですよ」


はぁ、と溜息をつきながらチョタと樺っちを見るピヨ。
ピヨも決して低いわけじゃないのに……やきもちだね!


「うふふ、ピヨの頑張ってる姿可愛かったよ」
「……可愛くなんてありません」
「そうだぜ未永。こんなキノコのどこがいいんだよ」


可愛いと言うと、少しだけ不貞腐れたように呟いたピヨ。
それに喧嘩を吹っ掛けたのは言うまでもなく永久。
二人の間に火花が散りそうになるのを止めるため、私は発言する。


「ピヨは生意気でツンデレで釣り目で少し意地悪で生意気だけど可愛いじゃない!」
「生意気って2回言いましたよね?」
「あはは、未永先輩は相変わらずMですね」
「Mじゃないよ!?」


全く、チョタは何を言い出すんだ。
ピヨに絞め殺されそうになるところから逃げ、チョタに反論すると、


「未永がMなのは昔からそうだった」
「ちょっとおおおお!永久は何言ってるの!?」


慌てて永久の口を封じ、皆へと視線を向ける。
きっと優しい皆のことだから聞き流してくれる!
そう思って皆を見つめていると、


「「「………」」」
「皆して、やっぱりか、っていう顔するのやめてええええ!」


誰も否定してくれなかったから私不安になってきたよ。


「ったく、んなことはどうでもいいんだよ。さっさと次の競技に移るぞ」
「け、景ちん!景ちんは嘘だって思ってくれてるよね?」
「………………。当たり前だろ。だから競技に集中……」
「その間は何!?」


とてつもなく長い間をおいて、私を憐れむような目をした景ちん。
それって下手に肯定するよりもよっぽど失礼なんだけど。


「大丈夫やって。俺はMな未永も大歓迎や」
「だから、Mじゃないって……」
「俺はどんな未永でも大好きだC〜」
「もう私にはジロちゃんしか味方がいないよ……!」


寝惚けながら言っているジロちゃんだけど、一番心強いよ……。
そうしている間にも、景ちんに首根っこを引っ張られて入場門に並ばせられた。


「あうあう……一人心細い」


今からやるのは借り物競走か……。
走順は足の速い人順だから、景ちんや亮ちゃんや侑士は前の方にいる。
もちろん、足の遅い私はアンカー。
一クラス一人ずつ走るから……とんでもなく遅いクラスは一人で走ることになることも有り得る。
………いやいや、それだけは避けたい!
ただでさえ遅いのに、一人になったらどうしていいか分かんなくてきっと泣いちゃうよ!
皆も永久も見てるし、そういう醜態だけは晒さないようにしなきゃ。
そう考えながら、移動して第1走者の人が準備をする。
そしてピストル音が鳴り、競技が開始した。


「………うわ、皆すごい探してる……」


ちらちらグラウンドを見ていると、それぞれ借り物の名前が書かれた紙を引くと、あれやこれやと駆け回って探してる。
借り物が本当に相応しいかどうかはゴールの先で先生たちが審査していて、相応しくないと思われたらもう一度やり直しもさせられる。
これはこれで見ていると面白いかも。
……あ、亮ちゃんが紙を引いた。一体何が当たったんだろう。
『幼馴染』とかだったら進んで私が出ていくのに。
こういった借り物競走の定番って、『好きな人』とかのカードよねー。
体育祭っていうイベントで告白するはめになる子がいると思うと、良い後押しになったりするのかも。
お、亮ちゃんが借り物を見つけたみたい。
借り物は……チョタ?亮ちゃんに手招きされて嬉しそうについて行ってる。
犬みたいで可愛いなぁ。何て書いてあったんだろ。
……『長身』?だと、樺っちもいるし……あ、もしかして『腹黒』かも。
そうだよね、チョタが選ばれるなんてきっとそうだよ。うん、納得。
亮ちゃんが無事ゴールした後は侑士か……大丈夫かな。
あ、がっくんも侑士と同じ走順で走ってる。ぴょんぴょんと可愛いな。
二人とも紙を見た瞬間、あーなるほど、っていう顔をした。
そしてお互いの顔を見つめる。そして息が合っているのか、服を引っ張り合ってゴールを目指し始めた。
何なんだろう?紙に書いてあることがお互いの特徴に当てはまってたのかな?
それにしては二人ともぎゃあぎゃあ言って納得してなさそうだけど……。
だけど無事ゴールできたし、良かったのかも。
……っと、そうしている間にも景ちんとジロちゃんとたっきーまで出てきた。
ちょっと走順に優劣が出始めたから、3人が揃ったのは偶然だね。
私のクラスはちょっと有利になってる。うんうん、このまま突っ走って欲しいな。
3人が紙を引くと、少し困っているみたい。うわ、何が書いてあったのか気になる。
……ん?景ちんが何か私の方を凝視してる。すごく怖い目で。
私何か悪いことしたかな……。じゃなくて。もしかして紙に書いてあることが私ぴったりなのかな。
何だろう。可愛いとか明るいとか頑張ってる子とかかな。うん、自分で言うことじゃないか。
景ちんは私を凝視してしばらく迷った後……こっちに向かって足を踏み出したが、方向を変えて樺っちの方に向かって行った。
これはどういうことだろう。私と樺っちに何か共通点があったかな……。
だめだよ、何も思いつかないよ……私と樺っちなんて違いすぎるもの。
……あ、分かった!『純粋』だ!樺っちは皆から認められている純粋な子だもの!
きっと景ちんは、樺っちと迷うほど私のことも純粋だと思っている……と思いたい。
景ちんがゴールに向かって走り出していると、ジロちゃんとたっきーも借り物を見つけたのか何か持ってゴールに向かってる。
ジロちゃんは応援席の子供から借りてきたのか、くまのぬいぐるみを持ってるし。
たっきーは……何ていうか、ツッコんだ方がいいのかな?
何で太郎ちゃんを引っ張って走っているのか……。
しかも太郎ちゃん若干喜んでるし。久しぶりの登場だからって喜んでるし。
喜んでるところ悪いけど、一言も喋ることなく即退場だからね。
……たっきーの紙には何て書いてあったんだろう。
『変態』?『ポマード臭い人』?『ロリコン』?『43』?
……借り物競走で出すようなワードじゃないか。
おっと、考え込んでいる間にも私の番が来た!
私の前の子が借り物を手にゴールに向かう。そして無事ゴールできた。
よしっ、私の番だ!


「未永、惨めな姿見せんなよー」
「永久くんに同意です。頑張ってくださいね」
「……このまま行けば1位ですからね」
「ウス」
「あ、皆!応援ありがとー!」


2年の子たちが応援席から声をかけてくれた。
若干、応援なのかどうか怪しいけど……。
私はそれに手を振って答え、走って紙の置いてある場所に向かう。
拾うのはどれでもいいみたいだけど……どれにしようかな。よし、真ん中だ!
どうか簡単な物でありますように!


「えっ………」


拾った紙を見た瞬間、私は固まった。
まさか。このお題が私に当たってしまうなんて。
一体どうすれば……。


「未永!しっかりしろよ!」
「さっさと探しに行け!」
「ぼーっとしとったら抜かれてまうで!」


少しその場で立ち止まっていると、既にゴール済みの亮ちゃん、景ちん、侑士が声をかけてきた。
……もう、分かってるよ。
さっき固まってどうしようって考えてたのはフェイクだって知らないな!
私は3人に向かってピースをして、余裕の笑顔を見せる。
その表情に3人は不思議そうな顔をしていた。
そして、私は大きく息を吸って、叫んだ。


「氷帝男子テニス部正レギュラー集合!」


思ったよりも大きな声が出て、グラウンド全体が私に注目していることが分かった。
ちょっと恥ずかしかったけど……こうした方が手っ取り早いもんね!


「ちょっと……大声出さないでくださいよ。恥ずかしい」
「未永先輩らしいですけどね」
「ウス」
「どうしたんだー、未永?」
「俺たちに関することなの〜?」
「集合するのはいいが、もうちょっと考えろよ……」
「せやで。びっくりしてどないしていいか分からんくなったわ」
「まあいい。今はそれよりゴールへと向かうぞ」


上からピヨ、チョタ、樺っち、がっくん、ジロちゃん、亮ちゃん、侑士、景ちん……。
皆がすぐに勢揃いしてくれたおかげで、1位になれそう!


「ほらっ、皆早く!1位取れなくなっちゃうよ!」
「ちぇー、敵チームの手伝いしてるみたいで気が引くぜ」
「ごめんねがっくん?でも、がっくんも必要だから」
「そうなのか……?なぁ、一体何て書いてあるんだよ」
「俺も気になるC〜!」


笑顔でがっくんに言うと、ジロちゃんも笑顔でそう言ってきた。
私は紙を後ろ手に隠す。


「ふふっ、秘密だよー」
「なんやケチやなぁ」
「悪口じゃねえだろうな?」
「そんなんじゃないよ!」


侑士と景ちんが不満そうに漏らす。
皆には恥ずかしくて見せられないよ!


「今はそんなことより、仲良く皆でゴールしようよ!」
「……それもそうですね」
「せっかく1位になれそうなんだからな」
「ウス」


ピヨと亮ちゃんと樺っちは、私の言葉に賛同してくれたのかスピードを早くする。
こうして皆で一斉に走るのって、意外と初めてで楽しいなぁ。


「よーし、いっちばーん!」


そして、全員でゴールラインをまたぐ。
私は全身で喜びを表現しながら審査のため先生の方に向かった。


「あ、皆はこっち来ちゃだめだよ!」
「えー。気になりますよ」
「だーめ。亮ちゃん、チョタを押さえててね」
「お、おう……」


意地でもついてきそうなチョタを亮ちゃんに任せ、私は紙を審査員席にいるうちの一人の先生に渡した。


「って、ナオちゃんじゃないか!」
「何だよ。俺で悪いのか?」
「そんなこと言ってないよ〜」


体育祭で会うことがあまりなかったから驚いただけなのに。
ナオちゃんってば相変わらずだなー。
そんな会話をしながら、ナオちゃんは紙の内容を見つめる。


「……お前、これ」
「きゃっ、ナオちゃんに知られちゃった!恥ずかしい!」
「やめろ。気持ち悪い」


私の精一杯の恥じらいを気持ち悪いとは。


「つーか、この内容であんなに大勢はだめだろ」
「えー。だってだって、一人じゃなきゃだめなんて書いてないし」
「それはそうだが……」
「じゃあナオちゃんは私の気持ちを疑ってるって言うの?」


ちゃんと紙に書いてある内容に相応しいと思ったから、皆をつれてきた。
そのことを真剣に伝えようとナオちゃんを見つめる。
するとナオちゃんは観念したように溜息をついた。


「あーはいはい分かったよ。お前は馬鹿だからな。これくらいがちょうどいい」
「馬鹿だからって何よ!」
「うるせえ。OKにしてやってんだから文句言うな」
「はーい!ありがと、ナオちゃん!」
「未永先輩、もう終わりましたか?」
「ぎゃああああああああチョタあああ!」


亮ちゃんの制止から逃れ、私の背後に現れたチョタ。
私は慌ててナオちゃんから紙を奪い取る。


「………おい」
「ご、ごめんねナオちゃん。だけどこれだけは見られるわけには……」
「んだよ。自分で集めておいて」
「そうですよ。俺たちには知る権利があります」
「それでもだめ!皆には内緒!」


私は紙を畳んでポケットに入れると、その場から全力で逃げた。
チョタに全力で追いかけられたけど逃げ足だけは速いからね!
でもそのあと、景ちんに怒られたけど。
しつこいチョタが悪いと思うんだ!


「ったく、せっかく1位になったんだから少しは落ち着けよ」
「何言ってるのよ。1位だから嬉しくてはしゃいじゃうんじゃない」
「まぁ、そうだけど……せめて競技が終わってからにしろよな」
「亮ちゃんが言うなら!」
「……相変わらず、宍戸も未永もお互いに甘いんやなぁ」


侑士には呆れられたけど、気にしない!
この競技で帝組と氷組は同点になるという接戦した状況にあるのも嬉しいし。
そうだ、後で皆何てカードを引いたのか聞いてみようっと。
そんなことを考えながら、無事借り物競走を終えて次につなげることができた。


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