No side




「……ここが、氷帝か……」


一人の少年が、目の前にそびえ立つ氷帝学園を見て呟いた。





「未永っ!またお前は……!」
「ひゃあっ!ごご、ごめんってば〜〜っ!」


ただ今、休日の部活中。
真っ昼間から跡部と未永の声が騒々しくコートに響いてます。


「また何かやったのか、未永は」
「そうみたいですね、宍戸さん」
「……はぁ、静かに部活ができる日は無いのか…」


呆れながら呟いたのは宍戸。
その隣では鳳も面白そうに笑っています。


「……流石に今回は跡部マジ切れだぜ?」
「…せやな。跡部のプライドが許さへんわな」


当たり前のように、向日と忍足も呆れてその光景を見ています。
こういう時ばかりは逃げ足の速い未永を不思議に思いながら。
さて、今回は何をしたのでしょうか。


「未永!よくも俺様の美しい顔によくも落書きしやがったな!」
「だだ、だって!景ちんが気持ち良さそーに寝てたから……!」
「俺様は今日、生徒会の仕事もあって忙しかったんだ!仮眠してる間くらい静かにしてろっ!」
「私も寝たい〜〜っ!」
お前は何もしてねぇだろっっ!


……との事です。
遠目から跡部の顔を見たレギュラー陣は盛大な溜息をつく。
頬にあるうずまきや目の下のまつげ。
漫画に出てくる泥棒のような、口の周りに円を描いたような髭。
思いつく限りの落書きをされている跡部。
もはや笑えるレベルではありません。


「何でも、油性ペンで書いたみたいですよ」
「……馬鹿だろ、あいつ」
「それにしても…逃げてる未永も可愛えなあ…」
「……侑士、きもい」


こういう事はいつものことなので、助けるという行動はしません。
二人の気が済むのを待つのが得策ということを学んでいます。
そうしていつ追いかけっこが終わるかとしばらく眺めていると、


「ひぎゃっ!」


未永が大胆に転びました。
それはもう顔面から。


「はっ、相変わらずドジだ「大丈夫?未永」


ようやく追いつき、腕を組む跡部の言葉を遮った人物が一人。
その人物は転んでいる未永のためにしゃがみ、手を伸ばしました。


「あ、ありがとう……」


未永は片手で鼻の頭を押さえながらその人物の手を掴み、立ち上がりました。


「……ん?この手の感触……」
「またドジやらかしてんの?未永」
っあああー!!


未永の大きな声はまたしてもコートに響きました。
その声を聞いて、レギュラーたちは何事かと未永たちに近づきました。


「未永っ!そんなに叫んでんじゃねーよ!」
「未永先輩。今のはうるさかったですよ」
「……少しくらい静かにできませんかね」
「未永ーどうしたんだよ?」
「また何で叫んだんや?」

「さっきまで誰も寄ってきてくれなかったのに」


薄情者、とでも言いたげに未永が呟く。
ですがそれも仕方がないことかもしれません。
未永と般若のような顔で追う跡部の間に入りたくはありませんから。


「そ、そんなことより!」


未永は手を伸ばしてくれた少年を見ました。


「な、なんで……」
「未永、部活頑張ってる?」
「何で永久がここにいるのっ!?」
「……は?永久だって?」


その名前を聞いて宍戸が反応しました。
そして少年の顔を覗くように見ると、視線がぶつかった。


「あっ、亮兄貴。久しぶりッス」
「お、お前……永久!?」


顔と声で確信したのか、驚きながら指を差す宍戸。
永久と呼ばれた少年はにいっと笑います。


「……宍戸さんも知り合いですか?」
「あ、ああ…」
「…一体誰なんや?自分」
「ん?俺?」
「…永久は私の弟よ」
「「「弟っ!?」」」
「どーも」


どこか憎たらしい笑みを浮かべ、短く挨拶をする未永の弟…永久。
レギュラーたちは、未永に弟が居たという事実からまだ思考が止まっているようです。
永久を凝視したまま一時停止しています。


「あんたたちが氷帝のテニス部員?大したことなさそー」


そんな、少し間抜けな顔をしているレギュラーたちに対し、くすっと笑って挑発を仕掛ける永久。
皆さんは、ようやく事が理解できたようです。


「……未永に弟がおったんや…」
「全然知らなかったぜ…」
「やっと理解した?理解力もないんだな、氷帝って」


その、明らかに馬鹿にしているような言葉を受けて立ったのは日吉。


「……お前、小学生のくせに生意気だな」
「俺は2年だ」


敵意剥き出しの視線で永久を睨みました。
その言葉にすかさず永久が反応し、負けないくらい鋭い視線で日吉を睨みました。
対峙する二人。
お、おい、と心配そうな表情で宍戸が日吉を止めようとしたが……、


「……2年生?小学2年生か?」
中学2年生だ
「…………」


どうやら遅かったようです。
永久の言葉に思考を巡らせる日吉。
それを見かねたのか、隣にひょこっと未永が表れて言います。


「ぴ、ピヨ……。永久はね、私と1つ違いの弟なの」
「……え?1つ違い…?」


日吉は眉を潜めて呟く。。
そして、自分より20cm程目線が下の永久を見ました。


「……てことは…俺と同い年か?」←172p
「そうだよ。れっきとした中2だぜ」←152cm
「ははっ、俺よりチビじゃねーか!」←158p
おかっぱは黙ってろよ
「っな!?」
「ちょっ、永久!がっくんは先輩だよ!」


まずいと思った未永が永久の肩を掴み落ち着かせる。
だが、当の永久は謝罪する気なんてさらさらないようで。


「……未永、こんな奴らと一緒の学園に居るのかよ?」


呆れた表情で大きな溜息をつき、未永に言いました。
その言葉に黙って居られない、と前へ出たのは我らが部長。


「……アーン?こんな奴らだと?」
「そーッスよ。大体、あんたの顔酷いし。ウケ狙い?」


少し今は威厳が80%減ですが。
オーラがまるでない跡部に、永久はぴしゃりと言いました。


「……永久、それは私がやったんだよね…」
「知ってる。冗談だよ。……まぁ、本当にしそうな人たちだけどさ」


おずおずと真相を話す未永に、また憎まれ口を返す永久。
相手を先輩だと思っていない口ぶりです。


「……てめえ、いい度胸じゃねーか」


もちろん、跡部の怒りを買う結果に。
でも跡部さん、そんな顔しても笑いしか生みませんよ。
空気が重たいことを知っていても向日と忍足が後ろで笑いをこらえています。
それに跡部が気付き、必死で真顔を演じる二人。
この重い空気はいつまで続くことやら。





Who are you!? 前編
(俺様にこんな口きくなんざ、躾のなってねえ弟だな、アーン?by跡部)


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