宍戸side



「………未永、」


家まで送り、玄関から中に入る未永を見送った。
俺は小さく名前を呟き、歩みを進めた。

俺はなにも、気付いていないわけじゃなかった。
未永が俺の事を呼び捨てで呼ばない理由を。
再会してから今まで、何故かと聞く機会はいくらでもあった。
それでも俺は聞かなかった。
俺の中で、ある解釈をしていたから。

あいつが俺の事を昔のように呼ばないのは、昔を繰り返したくないからだと。
昔の自分ではないとアピールしたい為だと。
そんなこと考えるような奴じゃないとは思っていたけど、未永の様子を見るとそうとしか考えられなかった。
もともと未永は誰とでも仲良くなれる明るくて気さくな性格だったけど、再会した時のあれは違った。
跡部や、忍足と接しているのを見た時も思った。
無理をしているんじゃないか、と。
わざと大袈裟なくらい、明るく振る舞っているんだなと。


「…………なんだよ、」


いつまでも俺に心配かけさせて。
それを不器用な仕草で隠してばかりで。
何一つ、未永は俺に気持ちを明かしてくれない。

そんなにも俺は頼りないのか?
昔のことを忘れたいのか?
昔みたいな……幼馴染には戻れないのか?


「はっ……、俺も、何考えてんだか……」


あいつが大丈夫と言っているなら、信じてやればいいのに。
俺の心は疑心で埋まっている。
後悔でいっぱいだ。
未永を救ってやれない……。

どうしてこんなにも、辛くて苦しい思いをしているのか。
答えは分からない。
でも、もしこれが、
未永への罪滅ぼしにも似た気持ちなら……。


「………やっぱ駄目だな、俺」


俺は家に着き、まっすぐ自分の部屋に向かった。
そしてベッドに座り、すぐ隣のボードに貼ってある写真を見た。
いくつか無造作に貼ってある写真の中の一枚。
俺と、未永と、永久の3人で撮った写真。


「分かってんだよ、本当は……」


罪滅ぼしだとか、償いだとか、そんな綺麗事で片付くような気持じゃないこと。
本当は、俺が一番よく分かってる。


「くそっ……頭いてえ……」


もっともっと、私情で我儘にも似た気持ち。


「未永……」


俺だって、
俺だって……お前と離れた3年間、一時も忘れたことなんてなかったんだぜ?

再会の時、俺の知らないような笑顔を見せたお前を、
辛いと思った事さえ、あるんだからな……。





未永side



「ただいまーーー!」


私は家に帰るなり部屋にこもった。


「………あのな、未永」
「なによ」
「ノックもせずに俺の部屋に入ってくるのやめろよ」


そう、永久の部屋に。


「いいじゃない別に。隠してることなんてないでしょ」
「あのなぁ………」


永久は溜息をつくと、私の近くに寄ってきて、


「で、何かあったのか?」
「………」
「未永が俺の部屋に無断で来る時は、いじけてる時かテストの点が低かった時くらいだしな」
「ぶう……」


私は何も言わない。


「………おい、未永、マジで何か……」


そんな私をかなり心配したのか、永久が肩に手を置く。
そして、


「永久!これから腹筋30回!腕立て20回!背筋20回よ!」
「はぁ!?」
「私、応援団員でチアリーダーの衣装着なくちゃいけなくなったの!だから、これから体育祭までの間強力してよね!」
「え?チア?まじかよ、この世の終わりだな」
「だから手伝って!永久はお姉ちゃんの可哀想な姿見たくないでしょ?だからこれから毎日やるの!」
「なんで俺まで……」
「一人だと心寂しいでしょ!」


そう言って永久は仕方なさそうな感じだったけど、受け入れてくれた。
私はそんな永久の優しさだけで笑顔になれる。

気持ちのコントロールくらい、自分一人でできるようにならないとね。


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