「そういや、明日から昼休みに応援団の練習があったな」 「あー、そう言えば」 景ちんの言葉で私は思い出した。 ちょうど今は着替えが終わって、皆で校門に向かっている途中。 「あ、その話だけど、俺も応援団員だぜ!」 「えっ!がっくんもなの!?」 「おう!俺のアクロバットを披露できる絶好のチャンスだろー?」 楽しそうに告げるがっくん。 おおー、なんだか凄そうだ。 「他には応援団員おれへんの?」 「俺たち2年の中には居ませんよ」 「そうなの?いがーい。ピヨとか下剋上とか言ってやりそうなのに」 「………。人前で大声を出すようなことはできません」 それを常日頃している私は一体どうなんだろうか。 「そうか、ピヨは恥ずかしがり屋さんなんだね!」 「……やめてください」 そう言うと照れているのか呆れているのか、視線を逸らした。 全く、素直にならないなぁ。 「っつーことは、昼休みには3人は集まれねえってことか?」 「そうなるな」 「……え!?じゃあお弁当はどうなるの!?」 「体育祭まで、別々やなぁ」 侑士の言葉で私は開いた口がふさがらなかった。 「そんな……!私の唯一の癒しタイムが!」 「残念ですね。でも、未永先輩も決めたことですし、しっかりとやってきてくださいよ」 「ウス……頑張ってください」 応援されてるのは嬉しいけど……やっぱり少し残念。 「諦めろ。いいじゃねえか、俺様と一緒なんだぜ?」 「景ちんみたいな性格になっちゃったらどうしよう……」 「アーン?」 「あああ嘘だってば!冗談!だからこめかみだけはやめて!」 全く、冗談の通じない人になったね、景ちんは。 「じ、じゃあ、私たちはこのへんで!また明日!!」 「あっ未永……逃げたな」 景ちんが悔しそうに舌打ちをしていたけど、そんなのお構いなし! 亮ちゃんを連れてさっさと帰り道を進んだ。 「はぁ……疲れたぁあ……」 「おい、大丈夫かよ」 皆の姿が見えなくなったところで、私は歩くのを止めて亮ちゃんにもたれかかった。 亮ちゃんが心配そうに私の肩を支える。 「うん……なんかね、急に身体を動かしたから……筋肉痛がひどくて、」 「筋肉痛?なんで言わなかったんだよ」 「だって、言ったら景ちん怒るもん」 「あー……跡部は厳しいからな。でも、俺とか、他の奴に言ったら冷湿布くらい……」 「あはは、皆が頑張ってるのに、私だけ弱音なんて吐いてらんないよ」 「………未永」 私は亮ちゃんから離れる。 「だからね、亮ちゃんも内緒だよ?こんなの、すぐに慣れちゃうから」 そう言って笑った。 久しぶりに体を動かしたから筋肉痛になっちゃっただけだし。 すぐに体も慣れてくれるよね。 「……あんまり無理すんなよ」 「無理なんてしてないよ。辛いのは初めだけだもんねー」 「そうだな……」 「だから、体育祭の間だけでも頑張るよ!」 また笑うと、今度は亮ちゃんも優しげに笑った。 「……お前はほんと、真っ直ぐだな」 そして、頭を撫でられた。 私は急なことに驚いて立ち止まる。 「り、亮ちゃん……?」 「……っあ!わ、悪い!」 でもすぐに、我に戻って手を引っ込めた。 ああ……もう少し撫でてくれてもよかったのに。 「昔からの癖だな……悪い。もう俺もお前も、子供じゃねえのに……」 「……いいよ、私は好きだよ、亮ちゃんにそうやってされるの」 「……?」 「なんだか、昔みたいで楽しいじゃん」 あはは、と笑うと、亮ちゃんは少し困ったような……不満そうな顔をした。 「……お前さ、前から思ってたけど……」 「ん?」 「その…ちゃん≠付けるの、やめろよ」 「………」 「俺は昔から何も変わってないんだ」 そして真剣な顔をして、 「未永は、俺や……あいつらのことを見る目が変わったかもしれねえけど」 「!」 「俺は今も昔も、未永を……未永だと思ってる」 「………あ、はは……何言ってるの、亮ちゃん」 「っだから……」 「私だって、変わってないよ。亮ちゃんや、皆を見る目だって変わってない」 「………」 「そりゃあ、性格とか変わったかもしれないけど……それだけ。他は昔の未永と同じ」 ただ皆と仲良くなりたい私なんだよ。 友達が欲しいと思った私なんだよ。 亮ちゃんと仲良しな幼馴染でいたいと思ってる私なんだよ。 「だから、亮ちゃんもそんなこと言わないで!ね?私がそう呼びたいから呼んでるだけなんだし!」 「未永……」 「あ、そういえば今日はお母さんと一緒にご飯作る約束だった!急いで帰らなきゃ!」 そう言って私は無理矢理亮ちゃんの手を掴み、先を急いだ。 亮ちゃんは何か言いたそうだったけど、私が必死に話題を逸らしたからか、何も言わなかった。 ごめんね。 ……亮。 呼びたくないわけじゃないんだよ。 本当のことを言うと……亮って呼びたい。 幼い頃、なんの気兼ねもなく呼べていたように。 今だって呼びたいよ。 でも……私は決めたから。 もう、曲げられないの。 こんなこと言ったら、妙なところで頑固だって、怒られるかな? それでもいいよ。 皆と一緒に、幸せを感じられるならそれでいいよ。 それで――――――いいでしょ? ×
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