また夢を見た。
それは昔の夢。

小さな私が、小さな亮ちゃんと一緒に遊んでいる夢。
夢は加速して、その場面は一気に別れへと変わった。
………あれは、凄く哀しかった。
亮ともっとたくさん話したかった。
たくさん遊びたかった。
大きくなるまでの過程を、一緒に過ごしたかった。

たった一人の、幼き頃からの理解者と。

「うえぇっ……亮…、りょおっ……」

転校したての時、あまりの寂しさと物足りなさに何度も夜泣いた。
心から何かが、ぽっかりと無くなってしまったどうしようもない気持ちに押し潰されそうになって。

その間は、世界に色が無いみたいだった。

何度も自分に言い聞かせた。
強くなって、亮とまた会うんだ。
今度こそ、跡部くんや忍足くん達に近づかないでと言われないように。
楽しく学校生活を過ごすんだ。

言い聞かせても……行動には移せなくて。
悩んで、悲しんで、背負い込んで………。


「……さん、……未永さん?」


ああ、この声は一体誰のもの?





No side



祐太は戸惑った。
跡部達に「未永を起こしてくれ」と半強制的に頼まれて、一人で未永の部屋を訪れた。
そこで見たのは、


「……う、……っ」


少し魘されている未永の姿。
初めは、悪い夢を見ているのかと思い起こそうと身体を揺すった。


「未永さん?」


何度も名前を呼んだ。
いつも飄々としている未永が魘されているのは祐太にとって考えられない光景だったからだ。


「ん……っ?」


うっすら、未永の瞼が開いた。
焦点を合わせ、目を細くして祐太を見た。
そして、呟いた。


「………っ、亮……」
「えっ?」



その名前を聞いて初めに思い浮かぶのは、

「亮ちゃんっ!」

未永の明るい声で呼ばれる宍戸。
寝ぼけているのだろうか。
否定しようとしたが、その前に未永が強く、祐太の手を握った。


「りょう…っ、りょお……ごめ、んね……」


涙交じりで何度も繰り返し呟く。


ごめんね

祐太は理解のしようがなかった。
未永がどうしてこんな状態になっているのか。
何故。
普段のあの明るさは?
身体の底から溢れるようなパワーを持った未永さんは?


「わたし……、本当はっ……離れたく……なかったよ………」
「……っ、未永さん、違います!俺は、宍戸さんじゃ……」
「ずっとずっと…っ……!……お願い、許して、っ……」
「っ未永さん!!」


祐太は限界だった。
この未永の状態を見るのも。
震えた声で呟かれるのも。
強く未永の名を呼ぶと、未永ははっとしたように目を見開いた。


「………あ、」
「……未永さん」


未永は覚えているのか否か、祐太の顔をまじまじと見た。
祐太は少し押されそうになったが、次の言葉を待った。


「……あ、あはは!びっくりした、裕ちゃんじゃない!起こしに来てくれたの?」
「え、あ、まぁ……」
「わざわざありがとう!どーせあのあほべに頼まれたんでしょう?後で私が言っておくからね!」
「あ、未永さん……」
「それじゃ、起してくれてありがとう!」


まるで、この場から逃げるように言葉を並べて部屋から出て行った。


「………」


俺は何も言えなかった。
未永さんは、気づいている。
俺を宍戸さんと勘違いして言ってしまった言葉を。
その事について俺に何か言われることを恐れ、無理に笑ったことを。


「………祐太」
「!?……あ、兄貴……」


どうして兄貴がここに。
しかも、そんな辛そうな顔をして。


「……今のこと、深く未永に聞いたりしないであげてね」
「……兄貴は、何か知ってるんだな」
「………」
「教えてくれよ。何で、未永さんは……」


言い掛けると、兄貴は悲しそうに首を振って人差し指を口に当てた。
言えない、と雰囲気で訴えている。


「……これ以上他の人が知ると、最終的に未永が傷ついてしまう」
「………」
「だから、祐太も今のことを誰にも言わないで」
「……分かったよ」


兄貴は冗談ぽく笑って誤魔化したりしなかった。
ということは、真剣に未永さんのことを想って言ってるんだろう。
俺は今の出来事は心の中だけに留めておくことに決めた。


「……ごめんね、祐太」


謝る兄貴に、兄貴は悪くない、とだけ返して俺は部屋から出た。
兄貴はその後しばらくその場に立っていた。


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