「全員揃ったな」 この意味の分からないバトルが始まって3時間。 俺たちは橘さんに言われた通り、民家に集まった。 「少なからず寝泊まりできるような場所があるはずだ。そこに集まろう」 ……あの場でそう冷静に考え、俺たち皆に伝えてくれた橘さん。 そんな橘さんの言葉を守り、たった3時間なのにもう全員集まってる。 地図で見ると、3つある民家のうちの一番北にある民家に。 ……全く、皆必死すぎるよなぁ。 まぁ、そういう俺もすぐに駆けつけて来たけど。 こういう時に一番頼りになるのは、やっぱり仲間だ。 俺たち不動峰には……こんな状況になっても切れない絆がある。 「橘さん、これからどうするんですか?」 「……そうだな。とりあえず、今外を歩くのは危険だ。隠れ場所など探している奴に遭遇してしまうだろう」 「でも、こんな目立つところにいたらそれこそ誰かに会うんじゃ……」 「最もだ。だから、ある程度時間を置いて場所を移動しよう」 森の言葉に橘さんが頷きながら答える。 ……皆、逃げるのに必死なんだろうなぁ。 ていうか、このゲームに乗る奴なんているのか? もしいたなら、とびっきり軽蔑してあげるよ。 ゲームに参加する意欲があるということは、人を殺せるということだからね。 しかも、こんな顔見知りばかりが集まっている中。 「深司、どうした?」 「……別に、何でもない」 こういう時になると神尾も大人しくなる。 ま、こんな時にリズムなんか言ってられないよね。 それは分かるけど、こうも静かだと……なんかこっちまで調子狂う。 「……このバッグには何が入ってるんですかね」 石田がバッグを恐る恐る見つめながら聞いた。 それに伴うように、皆の視線がバッグ集まる。 「知りたいのなら、見てみればいいじゃん」 「………」 なんて、人殺しの道具が入ってるバッグをそんな簡単に開けれるわけないか。 俺も言っておきながら、誰かが開けるだろうとは思っていない。 「……ま、食料とかもあるだろうし、開けてみましょうよ」 桜井が言った。 「じゃあ、桜井開けてよ」 「う……」 言っても、自分で行動を起こさないんだよなぁ……。 「まぁ、そう焦る事は無い。こうも早くから腹も減らなければ、武器を使うことも無いだろう」 橘さんが苦笑気味に言う。 ……そういうものかな。俺は特に中身に興味はないけど。 そんな俺とは違って、石田とか神尾は若干気になってるみたい。そわそわしてる。 全く、分かりやすいなぁ。しょうがない、少しでもバッグを開けやすい空気にしてみようかな。 「でももしかしたら今使えるものが入ってたりして……」 「……じゃあ深司、開けてみろよ」 神尾が真顔で言う。……なんでそうなるんだよ。 せっかく後押ししてみたのに。皆が皆、他力本願なんて。 嫌にになるよなぁ……。 でもこのままの空気でいるのも、気まずくなるよなぁ……。 「……別に、いいけど」 そう答えると皆が驚いたような顔をした。 ……なんだよ、開けろって言ったのはそっちじゃん。 全く、矛盾してるよなぁ……。 「………」 俺は短く溜息をついて、無言のままバッグを開けようと腰を下ろす。 「……おい、マジかよ」 「開けなきゃ始まらないじゃん」 そして俺はチャックをジジジとゆっくり開けた。 皆もよっぽど気になるのか俺のバッグを覗きこむ。 「ほう。一通り食料も揃っているな」 何だかんだ言って橘さんも自分のバッグを覗いていた。 橘さんの言う通り、バッグの中には水やパン、保存食などが期日分揃っていた。 他には地図、方位磁石、懐中電灯、そして……。 「………何、この球」 「…さぁ?使えんのか?」 俺はバッグの中にあった妙な球を持って、近くで見た。 表面は少しざらざらしてて、軽い。他には変わった様子は無い。 「……神尾は?」 「え?俺?」 「開けてみてよ」 「う、わ、分かったよ…」 神尾は自分のバッグを持ってきた。 そして、開く。 「「「………」」」 バッグを開けた瞬間覗いた鋭い刃。 一応バッグが切れないようにカバーがかけられてあったけど、その嫌なほどの存在感。 それは、草を刈る時に使うような鎌だった。 「こ、こんなのが……」 「ちょっと、危ないからしまってよ」 「お前が開けろって言ったんだろ!」 「まぁまぁ、神尾も深司も落ち着けって…」 石田が止めに入ったから、俺は仕方なく口を開くのを止めた。 神尾も不満そうに口を閉じ、バッグもチャックを閉めて置いた。 「ふっ…。全く、お前らという奴は…」 一瞬、今この状況がBRだということを忘れていたかのように。 いつもするように口喧嘩に発展した俺たちを見て、橘さんは笑った。 「は、はは…っ」 そのことに俺たちも気付き、橘さんにつられるようにして、俺たちも笑う。 俺も声は出さないけど、少し口元が緩んでしまうのが分かった。 ああ………これが、もっと続いけばよかったのに。 これが、俺達。 これが、日常 これが、平凡。 これが、幸福。 「へぇ、随分楽しそうじゃん」 それを壊したこの言葉に、恨みを抱くのはもうすぐあと――― |