「……嘘、だろぃ…」

まるで他人事のように告げる先生たちの様子に、俺は小さく呟く。
未だに信じられねえ。
つーか、「殺し合ってください」「はい分かりました」って言えるような神経は持ち合わせてねえけど。
BR……バトルロワイヤル、か。なんでそんなのに俺たちが選ばれたんだ?
いずれも、全国大会や各地域の大会で名を残した学校ばかり。BRなんてものとは無縁のはずだ。
こんな大きな事態に、どうして俺たちテニス部が?疑問は山ほどある。
それになんなんだよ、この顧問たちはよ。
全員……眉一つ表情が変わらねえ。
今まで一緒に全国を目指してきた生徒たちを目の前にして……残酷、だよな。
所詮、俺たちは学校の名を売るための道具だったってか?

そうなると……言っている事は全て真実なんだろうな。わざわざこんな手の込んだ嘘仕掛けることもない。
……こうなったら、何を言っても無駄。そう切り捨てるしかない。
自分たちで勝手に決めた事を、何でも非力な子どもに押し付けて。
それを高みの見物……ってか。こういうもんなんだよな、大人って。


「それでは、名前を呼ばれた者はこの扉を―――」
「誰がやるかだーね!」


はぁ……馬鹿だな。刃向かったって、無駄だろぃ。
あいつには見えねえのか?
この、既に腹を括った奴みてえな冷酷な目を。


「……出席番号50番、柳沢慎也。……少し、静かにしていろ」
「嫌だーね!こんな所、すぐに帰らしてもらうだーね!」
「大人しく従え」
「無理だーね!俺は絶対に、BRなんて参加しないだーね!」


一瞬、榊とかいう偉そうな奴の目が揺れた。……揺れた?
そして何やらポケットに手を忍ばせた。
次に、その手に握られた黒い物体を真っ直ぐ柳沢へと向けた。

―――パァァン!


「柳沢!!」


一瞬の出来事だった。耳をつんざくような音が鉄の部屋に響いた。
そして瞬きをする間もなく、俺の視界に赤色が舞った。ひらひらと。
そう、榊の手には拳銃が握られていて、柳沢とか言う奴を……撃った。
俺と柳沢の距離は結構離れてたから、飛び散った血は付かなかったが……一番近くに居た赤ハチマキの服には血がべったり付いた。
遠くからでも分かる。赤ハチマキの白いジャージに、赤黒い血が染みわたっていくのが。
小さい頃、思わずジュースを服にこぼしてしまった……それとまるで同じように。
人の死ってのは……こんな、日常に扮したようなものなのか?


「や、なぎ…さわ……っ?ねぇ、柳沢!!」


でも赤ハチマキはそんなの気にせず、多分即死だろう柳沢に駆け寄った。
自分の顔や服が血でべたべたなのにも関わらず。
……あいつら、確かダブルスのパートナーだったよな。


「「「……っ!!」」」


皆、目の前で人が死んだのを見たせいか固まって動けない。
少しの言葉すら、発することができない。それは、戸惑いと恐怖からだろうか。
下手をしたら……呼吸まで止まってしまいそうだ。
俺も、だけど。


「……さて、少し邪魔があったな」


当の撃った本人は特に気にした様子も無く、淡々と言葉を発した。
小さいながらも、その存在をありありと主張している拳銃の銃口を床へと下げる。
手離さないのは一種の脅しだろう。


「出席番号01番、葵剣太郎」
「…は、はい!!」


さっきの事で恐怖が植え付けられたのか、葵とか言う奴は目を見開いて扉の前まで行った。
そうか……今のは、いわゆる見せしめ≠ゥ。
大人たちの言っていることは本気だと。
今すぐに死んでしまうくらいの覚悟を持てと。
もう、BRとやらは始まっているんだと。


「そこにある荷物を取り、扉をくぐれ」
「っはい……」


葵が手にしたのは旅行に持っていくような大きさの黒いボストンバッグ。
あのボストンバッグに、武器やら食料やらが入ってるみてぇだな。
全部が同じ形、同じ色をしている。中身に違いがあるのかさえ分からない。


「次。02番、赤澤吉郎」
「は、はい!」


次に呼ばれた赤澤は無意識に背筋を伸ばし、同じように荷物を取り扉をくぐった。
俺が呼ばれるのはまだまだ後。とりあえずちらりと周りを見る。
皆、似たり寄ったりの表情をしていた。
諦め。不安。覚悟。恐怖。そして……狂気。

……俺は。
人があんなに簡単に死ぬところなんて、初めて見た。





……なかなか、魅入ったぜ。
人が死ぬ瞬間ってのは、意外と美しいものなんだな。
血液の赤も映えるし、倒れゆく姿も流れるように綺麗だ。
ま、今の惨劇を見てどう思うかは人それぞれだろうが。
さて、この殺人劇。
乗るやつが多いか。絶望するやつが多いか。
結構、楽しそうじゃねぇの……。

勿論、俺は……―――








死亡者:柳沢慎也

残り51名。