「これから、お前達で殺し合いをしてもらう」


隣にいた大石先輩に起こされ、まだしっかりしない意識の中……。
氷帝の顧問……らしい人の口から言われたのは、とんでもねえ言葉。
殺し合い……?何変な事言ってんだよ。現実味がなさすぎる。
一瞬、俺の聞き間違いかと思った。
その証拠に、周りの人たちの反応も俺のそれと全く同じだった。


「監督?何冗談言ってんスか?」


一番に氷帝の宍戸さんが口を開いた。
深刻というよりは、嘘はやめてくださいよとドッキリのネタばらしを求める要領で。
だが顧問の先生たちは全員、黙ってこっちを見据えていた。


「……っ」


予想していたものとは違い、先生達は無に近い表情を崩さなかった。
何かを言うわけでもなく、察しろと目で告げているような感じだ。
こんな表情、雰囲気に包まれたら……冗談でないという気がしてくる。
この嫌な空気に、聞いた宍戸さんだけでなく他の人たちの表情もだんだんと暗くなっていった。
………まさか……本当に……本気、なのか……?


「竜崎先生、これはどういう事ですか?」


重い空気を破ったのは、手塚部長。そのため全員の視線が部長に集まる。
いつものように冷静な口調でも、若干焦りが混ざっているのが分かった。


「言葉の通りだよ」


そんな手塚部長の問いかけにも、眉一つ動かさず返す先生。
なんだかいつも俺たちが見ている先生じゃないみたいで、反応に困る。


「……おい、意味が分からねぇぞ」


説明の何も無い事からか、山吹の亜久津さんが舌打ちをしながら苛々した様子で声を出した。


「ですから、殺し合いですよ。亜久津くん」


亜久津さんの言葉には山吹の顧問の先生が答えた。
優しく平静に、でも非道に言葉を言い放つ。
再び訪れた重い沈黙。少しずつ、理解せざるを得ない状況になってきた。


「……お前達も、BRの事は知っているだろう」


氷帝の顧問が静かに口を開いた。全員の目を見るように、見渡して。


「今回、そのBRにお前達が選ばれた」


そして目を閉じて、淡々と告げた。
……嘘だろ?BRって、なんでそんなもんに俺たちが……?
俺は目を見開いて、氷帝の監督をはじめ全員の監督の顔を見た。
早く、早く言ってくださいよ。嘘だって。悪い冗談でしたって。
何も言わず、理解だけを求めている監督たちに俺の額に冷や汗が浮かび上がる。
だって俺達は、ただ合同合宿をしに……。
昨日も皆であんなにはしゃいでたのに……。
全国大会で、勝利に執着して戦ったテニスじゃなくて。
全員で楽しむ″宿にしようって。
他の皆も、理解できないのかお互い顔を見合わせている。


「……あたしは長い説明は嫌いだよ。榊、もう出発させてくれ。後は自力で何とかするさ」


そう言い放つ竜崎先生……。
どうしてッスか?
昨日、俺たちに言ったッスよね?


「合同合宿、思い切り戦ってきな」


俺たち、本当に嬉しかったんスよ?
色んな……本当に色んな奴と、また戦えるって……。
大好きなテニスで。思い切り。
引退するはずの先輩たちも参加できるし……。
俺はもちろん、先輩たちも喜んでた。

なのに………





――――戦える?





……!!
もしかして、初めから、あの言葉は……。


「さあ、戦いを楽しんできな」


いつも試合の時後押しされる、頼りのある竜崎先生の笑み。
でも今日の竜崎先生のその表情は、ひどく残酷なものに見えた……―――