俺たちテニス部は合同合宿に行く予定だった。
全国大会が終わった後の、慣れ合いのようなものだと監督から聞いた。いわゆる、親善試合。
それ以上は何も言われていなかった。監督の言葉を信用して、俺たちは浮かれていた。
当然、疑問に思う奴はいない。監督はいつもと変わらない表情で、ごく普通にそれを告げたからだ。
だから岳人やジローなんかは楽しそうに遠足気分で今日のバスに乗り合宿所へと向かったんだ。
宍戸と鳳ははしゃぐというよりは闘志を燃やしている様子で、日吉も若干ながら楽しみにしていたようだった。
俺や忍足もその姿を見ながら、他愛もない会話をしてバスに乗り合宿所に向かっていた。
きっと俺たちを待っているのは広いテニスコート施設とたくさんのライバルたち。
そこで、勝敗はもちろんだが公式試合とはまた違って楽しみながらテニスができると思っていた。

そのはずだったのに……何故、こんな所で皆寝てやがる?
俺は、覚めたばかりでまだ完全に活動してはいない脳を必死に動かして状況を掴もうとする。
霞んでいる視界で目を細めてみると、そこには俺たち氷帝だけでなく他校の人物の姿も多々あった。
どいつも眠っていて、起きる気配がない。……起こそうにも、俺もあまり身体の自由が無い。手足が痺れてやがる。
それにしても、一体何なんだここは……。


「起きたか、跡部」


ぼうっとしていた俺に話しかけたのは、よく見知った人物。


「……榊監督」


腕を組んで経っている監督と、数名の顧問らしき人物。
榊監督を中心に、全員無表情で俺達を見ている。その目が、妙に異様だった。


「皆を起こしてやれ」
「……?」


ようやく視界がはっきりとしてきた時。監督たちはもちろんだが、この場所も見慣れないものだということに気付いた。
天井には今にも切れそうな蛍光灯。そのため、目が冴えても視界はぼんやりしている。
壁は鉄のようなものでできていて、一見すると牢獄の中にでもいるような気分になる。
とても居心地が良いとは言えないな。
そしてこんな場所の中、仁王立ちをして俺たちを見下ろす監督たち。
異様すぎて俺は一瞬迷ったが、近くに居た忍足を起こす事にした。
とりあえず今は、全員の安否も心配だ。何やら


「……おい、忍足」
「……ん、なんや?…跡部か?」
「さっさと起きやがれ」
「……ここ、何なん?」


全身の痺れ、監督たちの視線、重い空気……それらに気付いた忍足は眉を寄せて聞いてきた。


「いいから起きろ。…それと、そっちに居る岳人たちも起こせ」


だが俺に答えられる筈も無く、誤魔化すようにして横で寝ている岳人に目を逸らした。


「……ああ、分かったわ」


無言で無表情な監督たち。
その異様な雰囲気に気持ちの悪さを感じたのか、忍足が少し睨みながら岳人を起こした。
俺も、続いて宍戸を起こす。


「……何だ、ここは」


話し声に気づいたのか、他の連中も起きはじめた。
青学、立海、不動峰、山吹、聖ルドルフ、六角、そして俺たち氷帝……全国大会で顔を合わせた学校ばかり。
一斉に目が覚めたためか、途端にざわざわと騒がしくなる。
その騒がしさを、全員起きたものと捉えた監督が口を開いた。
この重々しい空気の中一言。たった、一言。


その言葉によって、俺たちは狂わされる事になる……―――