「ふ、あぁー……」 俺は歩きながら大きく欠伸をする。 もう3日目も夜……か。 昨日葵を殺してから、また誰とも会わない一人の時間を過ごしてきた。 俺はこんなにも、誰かに会いたいと思ってるのにな。 獲物として、だけど。 日が経つにつれて会う確率が少なくなるのは分かる。 今日も今日で……どのくらいの人数がいなくなっちまったのか、楽しみだな。 ああ……それよりも、眠てえな。 俺は眠気を覚ます為に伸びをしてから再び歩き出すと、 「……!」 前方に、大きな丸太に腰を降ろして座っている誰かの姿を見つけた。 俺は無意識に嬉しく思ったのに気付かず、その人物にそっと近づく。 あの後ろ姿。見間違えるはずがない……。 「おい、亜久津」 「………」 山吹の亜久津だ。怪物と呼ばれて恐れられた男。 俺は短刀を構えながら後ろから声をかけるが、そいつは何も答えようとはしなかった。 振り向きすらしねえ。 てっきりこのゲームに乗ったものだと思ってたけど……。 「……?なんだこいつ、お前がやったのか?」 俺は亜久津のすぐ隣で横たわっている、同じく山吹の男の姿を見つけた。 全身血まみれで……何故かバンダナで目隠しされてる。 せっかくの綺麗な血が乾いてしまっているのに気付き、少なくとも数時間前のものだと分かった。 「黙れ。……俺は、んな気違いじゃねえ」 「……ふーん。悪かったね、俺は気違いで」 亜久津の抑揚のない言葉に、手に持つ短刀を弄びながら言った。 そして、くくっと喉を鳴らす。 気違い……か。おもしれえ。 まさに、俺にぴったりの言葉だな。 「じゃあお前さ、その気違いに殺されてくんね?」 俺は口に弧を描いたまま、亜久津に向かってそう言った。 だが亜久津は驚きも悲しみもせずに答えた。 「やってみろよ。俺はもう……こんなくそつまんねえ世界に用はねえ」 「くくっ……こんなにもおもしれえ世界、他に無いだろぃ」 もう一度笑ってから、俺は亜久津の背中に短刀を突き立てた。 そして、勢いよく短刀を抜く。 重い衝動にも亜久津は叫びもせず……そのでかい身を折って、前に倒れた。 「っ……た、いち……」 俺は眠るように死んでいる太一の名を呟く。 こう死ぬ時になって、ふいに1日目と2日目の狭間に出逢った日吉とかいう奴の言葉を思い出した。 自分を殺してくれと言った日吉。 俺はようやくお前があんなことを言っていた理由が分かったぜ。 あの時はくだらねえ、弱え奴の戯言だと思っていたが。 太一が死んで、こうして絶望を感じて……初めて、俺も自ら死を望んだぜ。 こんな世界、確かに生きたくねえ。生きる気力っつーのを根こそぎ持ってかれた。 お前はあの時、今の俺と同じように絶望してたんだな。 悪かったな、お前をこの世界から逃がしてやれなくて。 お前はまだ……こんな世界生きてんのか? 俺は運が良いのか悪いのか、気違いのイカれ野郎に出逢っちまった。 悪いが……俺は先に、逝かせてもらうぜ。 俺はしっかりと急所を突いたが、それでもまだ意識を手離すには時間があるようだ。 亜久津は刺された場所を押さえながら、隣で死んでいた男に向かって手を伸ばした。 身体を引きずりながら……そいつの所まで行って、切なそうな表情を残し……死んだ。 どうやら、この死体は本当に亜久津が殺ったものじゃねえみたいだな。 むしろその逆か。こいつのことを大切に思ってるから、離れられなかったのか。 「ちっ……」 しかし亜久津の奴、完全に死ぬことを受け入れてやがったのか。 どんだけ肝座ってんだよ。どんだけ覚悟決めてたんだよ。 そんなことなら……一度くらい、その面拝んどけばよかったか。 息絶えた今の亜久津の表情は、怪物とは思えないくらい安らかなものだった。 手の先は、同じく死んでいる山吹の男の頬に添えられて。 「………。あっちで一緒にこのゲームの観戦でもしてろ」 俺は眉を寄せ、寄り添って死んでいる二人に向かって、そう吐き捨てた。 死亡者:亜久津仁 残り28名。 |