いっちゃんと離れてから……俺は、一人でうずくまるかのようにして座っていた。 日が傾き、だんだんと空が夕暮れへと変化していくのも気にせず。 2日目終了時の放送を聞いて、あれからいっちゃんはあいつに殺されたのだと確信した。 それだけで怖くなった。 俺の為にいっちゃんは死んだのだと思うと、無性に悲しくて切なくて。 これからどうすればいいのか、全く分からなくなっていた。 どこか遠くで、銃声が聞こえた。 また人が一人……死んでいく。 いっそのこと狂ってしまった方が楽なんじゃないかと思えるくらい、ここの空気には狂気が滲んでいた。 「っ………」 俺は体勢を低くしながら……銃声から遠ざかる。 誰かに会うのが怖い。見つかるのが怖い。 またあの時みたいに……誰かの、狂気に支配された顔を見るのが怖い。 そうして少し進んで行くと……、 「………!!」 とある二人の息絶えた姿を見つけた。 俺は反射的に仰け反る。 だがその二つの死体は、俺のよく知る人たちの物だった。 「……菊丸、……大、石……」 思わず名前を呟きながら、ゆっくりと二人に近づいた。 背中に矢のようなものが刺さっている大石。 それが致命傷となって死んだのが分かった。 だが、菊丸には何の外傷もない。 おかしいと思ってよく周りを見てみると……錠剤の薬が数粒、落ちていた。 そして二人の近くには救急箱……。 菊丸は薬を大量に服用して…自ら死んだのだと分かった。 「っ……そん、な」 この状況で一つ分かる事。 大石は誰か別の人物によって致命傷を受け、息絶えた。 それに苦しみ悲しんだ菊丸が、後を追うようにして……死んだ。 菊丸は仲間の元に行ったんだ。大石に、会いに行ったんだ。 「………」 そんな二人の様子が他人事のように思えなくて。 俺は今にも涙が出そうな目で、二人の姿を見つめた。 もしあの時……いっちゃんの傍を離れなかったら。 俺はいっちゃんの……仲間の傍で、一緒に死ぬことができたのかな。 そうしたら、一人ぼっちでこんな怖い思いしなくて済んだ……。 そう思うとなんだか息苦しくて。 急に一人でいることに大きな不安を感じた。 そして、 「……サエ」 「!?」 背後から、誰かに呼ばれた。 ばっと勢いよく振り返ると……そこには、 「不二……!」 よく知った顔の人物がいた。 その相手は、見慣れたあの微笑を浮かべて……俺へと近づいた。 この場で、幼い頃からよく知っている人物に会えるというのは、物凄く安心できること。 俺は胸の錘がとれたような感覚になり、立ち上がって不二を見た。 「まさか、ここでサエに会えるなんてね」 「お、俺も……だよ。生きててくれて、よかった……」 俺は自分でも、自分の顔が情けなく緩むのが分かった。 それほど、安心できる相手なんだ。 俺の言葉に不二は優しく頷くと、俺の背後を見た。 「……英二……大石、」 「あ、ああ……」 「……二人を、見ててくれたんだね」 二人の亡骸だと気付いた瞬間、悲しそうに眉を寄せる不二。 俺はこの状況で、自分が何を言えるのかを考える。 仲間の死を見てしまったんだ……不二も、悲しいに違いない。 こんな時、慰めるのも不謹慎なんじゃ……。 「ありがとう。サエ」 「……俺は、何もしてないよ」 いつもと変わらない笑みを浮かべて、不二は言った。 俺はその言葉に首を振る。 その前に、気付くべきだった。 いや、できればもっと……早くに。 不二の異変に。 「でも、残念だね」 「…………え?」 一瞬にして開眼したと思うと、不二は俺の心臓に武器を突き付ける。 俺は気付くのが遅かったんだ。 BR……こんな狂ったことが起きている中で。 いつもと変わらない笑顔≠ナいられるわけがないと。 不二の様子が変わっていないことこそ、この世界ではおかしいことなのだと。 「ごめんね、サエ。出逢ったのがこんな僕で」 「っ………ふ、じ」 「サエには、小さい頃からお世話になったね……」 一瞬だけ、懐かしそうに俺を見つめる。 そして、感情が込められているのかいないのか。 よく分からない声で……不二は言った。 「だからせめて、サエには苦しくないように死なせてあげる」 それはBRが始まる前と何ら変わりのない声音だった。 「さようなら。死んだ仲間の元へ行っておいで」 そんな、ひどく優しい不二の声。 それら全てを聞きとった時……俺の身体に激しい衝撃が走った。 銃弾がいくつか、俺の心臓を突き破っていく。 その本当に一瞬の出来事に、どんどん気が遠くなるのが分かった。 ああ……思えば、これでようやく楽になれるということなのかな。 不二の言った通り、このまま仲間の元へ行けるのなら。 俺の為に死んでしまったいっちゃんに謝ることができるのなら。 俺は……この死さえも、受け入れられるものだと思ってしまうよ。 死亡者:佐伯虎次郎 残り29名。 |