「淳……」 どこにいるんだ。 お前は……今、何を考えている? 初日にあんな光景を見て……きっと、耐えられないだろう。 早く会って慰めたいが、生憎未だ出会えない。 どれだけ俺は……この森を彷徨ったんだろう。 俺は捜し歩いて疲れた足を無理矢理動かす。 そして額から頬、顎へと伝っていく汗を服の裾でぐいっと拭った。 「ん……?あれは、」 視線の先に、偶然見つけた人物。 そいつは、 「ダビデ……!」 ダビデだ。俺の仲間だ。 俺は嬉しくなって思わず声に出しながら、その後ろ姿に近づく。 ダビデは寂しげにどこかを見つめ立っていた。 俺の今の呼びかけにも気付いていないらしく、動かなかった。 「おい、ダビデ!」 「!?」 近くまで来て声をかけると、ダビデはびくりと肩を動かしてゆっくり振り返った。 いつもと変わらない様子を想像していた俺は、ダビデの怖い顔を見て一瞬怯んでしまった。 全く予想していなかった……ダビデの、真剣に怒っている顔。 俺は驚きで眉を寄せながら呟いた。 「ダビデ……?どうしたの?」 「あ……亮さん……亮さん、か……」 ダビデは俺だと確認すると、少しだけその怖い表情を緩めて、俺を見た。 僅かながら、全身の力も抜いた気がした。 だけどダビデの細い目は、どこか警戒しているように俺の様子を窺っていた。 まさか、仲間にこんな目で見られるなんて……。 俺は少しの悲愴を感じながらダビデを見つめた。 「放送……聞いたッスよね……」 ダビデは低く唸るような声でそう言うと、俺を辛そうな目で見た。 俺は、放送という言葉である一つのことが脳裏を過ぎった。 それは、 「バネさんが……殺されたって……!」 そう、バネのことだ。 あの生命力の強そうなバネが……初日に死んだ。というか、殺されたのか。 俺はもちろんそのことに悲しんだ。 それだけじゃない。次々と仲間の名前が呼ばれて……悲しいというより悔しかった。 俺の知らないところで、仲間が死んでいく。なんて。 きっと……ダビデもそう思っているんだろうな。 「だから俺、すげえむかついて……バネさんの、仇をとろうって……」 「!?」 俺はその言葉を信じたくはなかった。 敵をとる……それは、相手を殺すということ。 仲間がそんなことを言うなんて、信じたくはなかった。 だけど、目の前のダビデは真剣な表情で。 さも当然のように呟いていた。 よく見ると、両手で拳を作って爪が食い込むくらい強く握っていた。 そして目で訴えている。本気だ。邪魔をするなと。 ……ダビデは、そこまでバネのことを……。 「……そうか。ダビデの気持ちも、よく分かるよ」 俺はそんなダビデに、何ていう言葉をかけてあげられるだろう。 一生懸命脳内で言葉を探るも、出てきたのはそんな常套句だった。 だって、仕方が無いじゃない。 こんな時にかける言葉なんて……思いつかないよ。 こんな状況には一生、遭遇しないつもりでいたんだから。 「そうッスよね……。仲間を勝手に殺されて、むかつかない方がおかしいッスよね…」 ダビデはそんな俺の言葉でも安心してくれたのか、少し拳の力を緩めた。 ……どうやら、もう覚悟を決めているみたいだ。 バネを殺した相手を殺す覚悟を。 そして例えその相手が誰だとしても、その決心を変えないと。 「ダビデ……」 「何ッスか」 「……何でもないよ」 こんな残酷なことってないよ。 大切な仲間が次々と変わっていく。 憎しみに捕らわれて。まるで何か悪いものに摂りつかれたように。 このゲームの都合の良い駒へと堕ちて行く。 こんなことって……。 「じゃあ俺、もう行くッス」 「ああ……気をつけて」 「……亮さんも」 ダビデは始終怖い顔でいた。 最後に、言った言葉も、まるでお世辞を言うかのような感情のあまりこもっていない言葉だった。 そして最初見つけた時のように寂しそうな背中で、俺の前から去って行った。 俺はそんな頼りなさげなダビデの後ろ姿を、切ない表情で見送る。 ……ごめんよ。止めてあげることができなくて。 仇をとったって、虚しさが増すだけ。何も得られるものはない。 そんなことは分かってるんだ。 それでも……そう思わないと、やっていけない気持ちも分かるんだ。 ……こんなことをして、何になるんだ。 こんなふうに人格まで変えて。それを高みの見物として。 「………」 俺は監視カメラを睨んだ。 この森の、至るところにあるカメラ。 変わっていく俺たちを見て、面白がっているのか? ………まあ、いい。 とにかく俺にはやることがある……。 淳に会うこと。それが先決だ。 あいつの心を癒せるのは俺しかいない。 人生のほとんどを、一緒に過ごしていた俺しか。 淳……どこにいるんだ……。 |