「………っひく、」


あれからどれくらい泣き続けただろう。
俺は、信じられない現実を一度に押しつけられた。
仲間の大石が、同じ仲間によって殺されたこと。
そしてその仲間が……自分が心の奥底でずっと憧れていた、手塚だということ。


「……ど、して……っ」


手塚は大石を殺したの?
どうして?
仲間なのに………。
無感情に。冷徹に。非道に。
3年間過ごしてきた仲間を殺せるの……?
もしかして、
仲間だと思ってたのは俺たちだけだったの……?


「おおいし……起きてよ。俺たち、全国一になったんだよ……?」


辺りが夜になるまで数時間、何度も何度もこうして言葉を投げかけても大石は答えてくれない。
さすがの俺も……もう死んでいると、分かってはいた。
息はしていないし、手を握っても冷たくて固い。
それでも……大石が傍にいるのに、この場に自分が一人だと思いたくない。
俺は、
俺たちは、
ダブルスパートナーなんだ……!


「約束したよね?二人で一緒って……」


苦しそうな表情で倒れている大石。
俺は見つめることしかできなくて。
俺には何ができる?
こんな世界で。
生きる目的も失って。


「大石……また……俺に、シングルスさせる気……?」


このまま惨めに生き残ったって、大石はいない。
あの放送に呼ばれた桃だって、タカさんだって、汁は嫌いだったけど乾だって……。
もう、いない。


「……シングルスはやだよ。つまんないから……」


大石がいるから、俺はいた。
ダブルスの楽しさを知った。
好き勝手にプレーする俺を、後ろから支えてくれた大石がいたから……。
俺はここまでやってこれたんだよ?
大石もそれは知ってるよね?
俺と大石、二人がいるからあのダブルスは成り立ったし、全国プレイヤーにもなれたんだよ。


「………ごめんよ、大石……」


会いたい。会いたい。会いたい。
まだ話したいことがいっぱいあるんだ。
もっともっと二人でコートを駆け回りたいし、新しい技にもいっぱい挑戦したい。


「………」


俺は涙で腫れた目を袖で擦る。
そして大石のバッグの中にあった救急箱に手を伸ばす。
その箱には、ガーゼや消毒液だけでなく、痛み止めや頭痛薬、そして睡眠薬などといった粒状の薬も入っていた。
俺はそっとその錠剤の入ったビンに手を伸ばす。


「………ごめんね、皆」


こんなに弱い俺で。
こんなことしかできない俺で。
でもね、嫌なんだ。
こんな……次々と仲間が死んでいくだけの環境で生きていくなんて、無理だよ。
俺は一人が嫌いだから。一人ぼっちは、寂しいだけだから。


「ごめんね、大石……」


言いながら睡眠薬のビンの蓋を開き、手一杯に出す。
そして、鞄の中に入っていた水を取り出し、


「……………んぐっ」


その全ての薬を飲み込んだ。


「うっ………」


喉に流れる多くの異物感。
同時に、こみ上げてくる吐き気。
俺は思わず両手で口を塞いだ。
今にも嘔吐してしまいそうになる不快感。
それでも俺はその全てを喉の奥へと追いやった。


「……は、ははっ……おおいし、……」


錠剤全て飲み込み胃の中に押し入れた時。
俺は……安心からか、泣きながら笑った。
大石、俺もすぐにそっちに行くよ。
だから、もう少し待ってて。
俺を置いていかないで。
もうすぐで、
もうすぐで……

そっちにいけるから―――――――








死亡者:菊丸英二

残り35名。