意味が、分からないです。
何が何なんですか?
今、皆は一体何をしてるんですか……?
喜多先輩や南先輩は居なくなっちゃったんですか?
どうして、あの放送で名前が呼ばれるんですか?
『死亡者』という形で。
……教えて下さい……この際、誰でもいいです。
どうして僕たちはこんなジャングルみたいな場所に居るんですか?
どうして伴田先生や他の先生たちは『ころしあいをしてください』と言ったんですか?
それは何故なんですか?
それに……
皆どこに行ったんですか……?
ああ、目が熱い。
ジンジンと奥から熱くて……痛いものが込み上げる。

―――痛い?


「僕は……何をやってるんだろ……」


ふと、自分のしていることに気がつく。
左手には鞄に入っていた果物ナイフを持っていて。
そのナイフには赤い液体がついていて。
その液体は血に間違いなくて。
ぬる、と刃先から滴り落ちては僕の太腿に生暖かい感触が伝う。

紛れもない、
僕の血だ。


「……い、たい」


僕は自分の右手首にナイフで切り込みを入れていた。
そうか、
痛いのはこれだったんだ。
分かった、
目が熱いのは、

1日中泣きつくしたからだ―――


「う、あっ……」


声が出ても涙は出ない。
涸れちゃったのかな……。
視界が掠れて、手首が何重にも見える。
だから……手首にある傷も、何個も見える。
あれ?それは、元からたくさんあるのかな。

……どうして、こんなことになったのかな。
僕は、こんな事をする為に……合同合宿の事を聞いた時からわくわくしてたの?
1週間前に聞かされ、その日に準備をして……今日まで放課後はいつも以上に先輩たちと一緒に練習して、話して……。
僕も今度の合宿では選手として出られるって聞いて、張りきって。
昨日なんか……初日から雨にならないようにてるてる坊主まで作ったのに……。
亜久津先輩も来てくれるって言うから―――


「……あ…くつせんぱい……」


今貴方は何をしているんですか?
……強くて、かっこよくて、僕の憧れの先輩……。


「あいたい、です……」


貴方ならこんな時どうしますか?
……僕はもうだめです。こんなことしかできません。
もう、このままだと僕はおかしくなってしまいます……。
自分に痛みを与えることで、何とか正常を保てるように……。
―――え?
これは、既に狂っていることなんですか?


「あくつ…せん、ぱい……僕は………」


本当はこんな事をしたいんじゃありません。
僕は合宿で……越前くんや他の人のプレーを見て、テニスがもっと上手くなるようにって……。


「……ただ……テニスがしたい、だけなんです……」


掠れ声で呟いた。
風の音に消され、僕にも聞こえない。
視界は既に濁っていて……暗くなりかけの空の色しか見えない。


「………何やってんだよ……太一」


ふと、微かに僕の耳に届いた音=B
それは懐かしくて、安心できて……僕の狂った感情なんか一気に吹き飛ばしてしまうような……。


「……あ……、あくつせんぱ……」


視界がぱあっと明るくなったような気がする。
もたれていた木から少し体を起こして、目の前をよく見る。


「……馬鹿が。こんなことしやがって……」


亜久津先輩は僕の目線に合わせるようにしゃがみ、右腕を掴んだ。
その腕には自分でつけた傷があるから少し痛みが走った。


「っ……う。僕……どうしていいのか、分からなかったんです……。何で、こんなことになったのか……何にも理解できないんです……」


僕は亜久津先輩に会えた事に興奮しながらも、絞り出すように喋った。


「……何泣いてんだよ。男なら泣き止め」
「っ、え……」


泣い……てる?
僕が?
涙なんて涸れてしまったんじゃ……。


「俺が一緒に居てやるから」


亜久津先輩はまるで、弟を見るような目で僕を見てくれた。
その目は……いつも以上に、優しい。


「……っはい」


そうか、分かった。
この涙は感動の意味を持つものなんだ。

絶望で死に絶えた水≠カゃなくて、歓喜で生命溢れる滴=\――