ああ……つまらない。海岸沿いで海を見つめながら心の中で呟く。
結局、誰にも会わなかったな。
誰でもいい。誰かに会えば少しはこの退屈も紛れただろうに。
せっかくダジャレを思いついても、誰も聞いてくれない。
……ツッコミを入れてくれる人なら、誰でもいい。会いたい。
一人はさすがに不安だ。寂しい。辛い。
こうして砂浜にいると、まるで故郷にいるような気持ちになる。
すぐそこで皆が潮干狩りをしている姿が目に浮かぶようだ。
……六角の皆は無事だろうか。
バネさん……今、何してるかな……。


『諸君。最初の放送だ』


そうして虚しい残像を作り上げていると突然、聞きたくもない声が聞こえた。
随分久しぶりに聞いた気がする。


『1日目終了の時間になったため、1日目の死亡者を教えてあげよう』


時間……か。そういえば、もう朝日が水平線から顔を出し始めている。
あの太陽がもう少しこちらを照らせば、2日目が始まるのか。
そしてこの放送で言われる内容も、俺たちに唯一与えられる情報。
……だが、そんな事今の俺にはどうでもいいことだ。
死亡者を言われたとしても、俺にはどうしようもできないこと。
自分のことでも精一杯なのに、他を気にする余裕なんて……


『それでは、発表するぞ。

 …青春学園、乾貞治、桃城武。
 …不動峰中、石田鉄、内村京介、桜井雅也、森辰徳。
 …山吹中、喜多一馬、東方雅美、南健太郎。
 …六角中、黒羽春風。

 残り41名。―――以上だ』





――――――――は?

一瞬、耳を疑った。
六角中の時、誰の名前が呼ばれた……?
バネさんの名前―――?
嘘、だろ?


『皆、良いペースで殺し合いをしているぞ。……この調子で、更に人を殺し、強く生を求めるんだ』


そうして、この放送は切れた。
最後の、洗脳をするかのような冷たい言葉なんて何も聞こえなかった。
俺の耳には、バネさんの名前が呼ばれたことしか聞こえなかった。

今の放送は、死亡者を伝える放送で……そこで、バネさんの名前が呼ばれた。
つまり、バネさんが死んだってことか……?
バネさんが自殺なんてするわけない……ということは、殺された?
いや、どちらにしろ……もう、会えないってことだよな……?
会えないってことは、もう姿が見えなくて……。
話すこともできなくて、テニスもできなくて、ダジャレも聞いてくれなくて、ツッコミもしてくれない……。

何でだよ。
何で、バネさんが死ななきゃならないんだよ。
どうして。こうなっちまうんだよ。
俺は悔しくてむかついて、砂を抉るようにして掴んだ。


「ははは!お前、面白い奴だなっ!」


初めて会った時から、明るくて俺の面倒を見てくれて―――


「安心しろ。お前のつまんねえダジャレには俺がツッコんでやるからよ!」


いつでもツッコんでくれる相方になってくれて―――


「ダビデ、この試合は絶対に勝つぞ!」


ダブルスのペアになった時も、よく励ましてくれて―――


「お前は最高の相棒だよ!」


バネさんと居ると、ずっと笑っていられるような気がした―――


大好きだったんだ。大切だったんだ。何よりも。
あの太陽みたいに大きく笑うところも。
豪快なツッコミをしてくれるところも。
部活で先輩として面倒を見てくれたところも。
テニスで少ししくじってもカバーしてくれたところも。
全部。全部。全部。

―――――誰だ、バネさんを殺したのは。

誰だ、俺の……最高の相棒を奪ったのは。
…………殺してやる。
見つけ次第っ、殺してやる――!
こんなふざけたゲームに乗った大馬鹿野郎も、
俺の邪魔をする奴も、偽善振りかざす奴も、
ぶっ殺してやる―――!