死んじゃったんだ。俺の大切な仲間が。
ダブルスのペアで……寮でも、いつも一緒に居た柳沢が。
その時の思い出は、幾重にも重なって思い出すときりがないよ。
笑い合った思い出。ふざけ合った思い出。喧嘩した思い出。仲直りした思い出。
たくさんのことをして、たくさんのものを創り上げたよね。
それが、一瞬。たった、一瞬……。
引き金を人差し指で引いただけ。
数センチしかない銃弾が、頭を貫通したんだ。
そして……柳沢は死んだんだ。たくさんの思い出も一瞬にして無へと返った。
何も言えずに。何の言葉も聞けずに。お別れも言えずに。
ねえ、柳沢。いつもいつも、うるさいって言ってごめんよ。
つまらないことで怒ってごめんよ。いつも、後にあやまるのが僕でごめんよ。
それでも僕は、君のことを親友だと思っていたんだ。

ああ………まだ、濃い血の匂いが鼻腔の奥に残ってる。
僕の視界は、今でも塗りつぶされたように赤い。
柳沢の姿が強く脳裏に焼きついている。

―――柳沢……。





「……お前…淳…か?」


そう自失している中、俺に声を掛けたのは六角のバネだった。


「淳……!やっぱり、淳だな!」


確かに僕の姿を確認して、犬のように喜んで俺に近寄って来た。
そうまで嬉しがっているのは、今まで誰にも会わなかったからかな。
僕の肩に手を置いて、生を確かめるようにして強く握る。
この様子だと、バネはまだ正気だ。


「バネ……久しぶり、だね」
「ああ。よかった。お前も無事で」


肩から手を離すと、バネはいつもの明るい笑顔を俺に向けた。


「……あー、でもお前……よく血だらけのままで平気だよな」


でも、それもすぐに嫌そうな顔に変わった。
僕の服にべったりとついている血の染みを見たから。


「嫌じゃねえのか?」


眉を寄せて、首を傾げて聞いてくる。
……嫌?どうして?これは、柳沢の血だよ?
友達の……親友の血だよ?
もうあたたかくはないし、乾いてきてるけど……確かに、柳沢が生きていた証拠だよ?


「……嫌、じゃない……」
「そうか?でも気分悪くないか?…………こんなに汚れてるんだからよ」


………汚れてる、だって?
柳沢の血を……汚れてるだって?
はっと目を見開いてバネを見る。
悪気があって言っているわけじゃないことはすぐに分かった。
バネは馬鹿だから。何も考えず、無意識に言っている。
そんなことは分かってる。でも。これは。


「………ねえ、バネ」
「ん?何だ?」
「…………血ほど綺麗なものはないよ」
「えっ―――――」


俺はバッグに入っていた矢を取り出し、何の躊躇いもなくバネに刺した。


「っ!?ぐ、ああぁああっ!!」


胸に、一突き。血が勢いよく噴出す。
バネは身体をびくんと跳ねさせて痛がった。
刺された胸に手を当て、僕から離れようとする。
でも僕は片方の空いている手でバネの肩を強く掴み、そうさせなかった。
ああ……いっぱい血が出てる。このままだと失血死しちゃうね。
ねえ、死ってこんなにも簡単なんだね。
柳沢と同じ。皆みんな、こんな数秒で死んでいくんだ。


「あ゙…っ、づ…し……っ!?」


自分を離してくれないと分かったバネは、僕の矢を掴んでいる方の腕を掴んだ。強く。
それこそ、みしみしと骨が軋むくらい強く。バネらしい、火事場の馬鹿力かな。
僕は怯むことなく、少し奥まで矢を刺し込むと更に血が噴出す。
それは俺に、シャワーから出る水のように降り注いだ。


「………血は、こんなにも赤いんだから」


綺麗も
汚れてるも
どちらの区別もなく
同じなんだよ―――





「……死んじゃった」


力尽きて地面へと倒れ込んだバネを経ったまま見下げ、僕は呟く。
バネの血も、もちろん綺麗だよ。大切な仲間の血。
クスクス……ユニフォーム綺麗に染みを残して……よく似合ってる。
でも、ユニフォームの色のせいで血の色があまり目立ってないから、少し物足りないかな?
しばらくは何か満たされた感覚に支配され、口角が自然と上がった。
だけどバネと柳沢の姿が重なった時、途端に柳沢が目の前で死んだ時の悲しさが込み上げてきた。

……ああ…………。
やっちゃった。あんなにも、仲間の死を嘆いていたのに。
自ら。汚い感情に操られ。赤い血に魅了されて。
血はこんなにも綺麗なのに、僕はこんなに汚くなってしまった。
こんな僕はもう、誰にも止めることはできない。
いや……止まることなんて許されない。絶対に。

一度犯してしまった、
人を殺めた≠ニいう消えない罪を背負って。








死亡者:黒羽春風

残り41名。