「もう大分歩いたな」
「ああ、そうだね」


最後の放送から、俺は幸村と過ごしていた。
ちょうど立海の仲間の心配をしていたところ、部長である幸村が先に声をかけてきたのだ。
まさに俺にとっては不幸中の幸い。地獄で仏を見るような偶然だった。
俺は隣を歩く幸村を見やり、声をかける。


「……幸村、身体は大丈夫か?」
「うん、心配しなくていいのに」
「そういうわけにはいかん。……まだ、病み上がりなのだから」


俺たちテニス部ばかりが集められたのも解せんが。
退院したばかりの幸村まで、こんな胸糞悪いものに巻き込むとは。
顧問の連中は一体何を考えているのだ……。


「……でも、真田に最初に会えて良かったよ」
「……幸村」
「もし他の人だったら、……殺されていたかも」
「不吉な事を言うな」


恐怖を感じているといった様子で、身体を強張らせ呟く幸村。
俺はそんな幸村を安心させるために、肩に手を置いた。
今の幸村は精神的にも肉体的にも、この馬鹿げたことについていく余裕は無い。
……だとすると、


「……俺が全力で守ってやるからな」
「真田……ありがとう」


俺が何としても守るしかない。
今、幸村には俺しかいないのだ。
俺しか……頼りがいないのだ。
俺がしっかりせねばならん。
幸村が倒れて弱気になってしまっていたあの時のように。
幸村という大きな存在を失った後の部活のように。
副部長として、部長を守り支えるのは当然の義務だ。


「……他の立海の皆は平気かな」
「その事なら心配ないだろう。……あいつらの事だからな」
「うん……。それも、そうだね」


口ではそう言っているものの、明らかに不安は拭い去れてはいない。
幸村は、誰よりも俺たちを気にしてくれているからな。
部長としても。仲間としても。常に俺たちの中心であり目標であった。
そういう優しい奴なんだ。幸村は。
少しでも俺が、不安や心配を取り除いてやらねば。


「……そういえば、バッグの中に何が入っているだろうね」
「……武器の、事か?」
「ああ。……万が一でも襲われたりしたら、真田ばかりに迷惑はかけてられないからね」
「……お前は無理せずともよい」


言うと、幸村は疲れているように笑った。
だが、そういうわけにはいかないとでも言いたげに首を振った。
幸村……。


「……バッグの中、か」


確かに、見ておいた方がいいのかもな。
幸村の言う通り、いつ何時襲われるか分からない。例え万が一の確率であっても。
ここでは自分の身を守れるのは自分のみ。更に頼りになるのは与えられた武器だ。
事前に自分の武器を知っておけば、いざという時の対策も考えられる。
そう思いバッグを開けると、


「……あ、真田にピッタリな武器だね」


俺のバッグには日本刀が入っていた。
開ける前から、何か細長いものがバッグの形を歪めているとは思っていたが。
まさかこんなものが入っているとはな。
拳銃やら何やら機械的なものだと扱い損ねるかもしれないが。
これは、俺にとっては非常に有利な武器だ。


「……そうだな。まだ、扱いやすい」
「俺も似たようなものだったよ」


幸村のバッグには木刀が入っていた。
確かに、本物の刀と比べると劣るが、全然使えないものではない。


「拳銃みたいに引き金を引けばいいってものじゃないから、俺には少し扱いづらいな……」
「気にするな。お前はまだ万全ではないのだから。……俺に任せろ」


戦力になれないかもしれない、と落ち込む幸村。
俺はそんな幸村に首を振って言った。
元より幸村に頼る気などさらさらない。
それは病気のこともあって無理をさせたくないのもあるが。
何より、お前に人殺しをさせたくはなかった。


「真田……本当に、苦労をかける」


そう言って柔らかい笑みを浮かべ、幸村は木刀をしまった。


「……さて、もう少し、歩こうか」
「ああ、そうだな」


そしてまた、同じように先の見えない森の中を歩き始める。
安心しろ、幸村。
ここから先、何があろうと……それこそ、何者かに襲われようとも。
お前は絶対に俺が守ってみせる。
絶対に―――

この命尽きるまで!!