さっき、何処からか悲鳴のようなものが聞こえた。
もう誰かが殺り合ってんのか?
恐怖、狂気に歪んだ顔で。
自分が生き残ることだけを考えて。

お互いを、殺すことだけを考えて―――

面白そうじゃん。この殺人ゲーム。
ここでなら、何をしてもいいんだ。何をしても正当化される。
普通なら罪に問われる殺人も……ここでは自分の経験値をあげることになる。
俺の好きな格ゲーみたいに。そうだ、これはゲームなんだから。

だったら、テニスでは敵わなかったあいつらにも……。

よし、決ーめた。
俺はこの殺人ゲームで、あの3人のバケモノを倒してNO.1になる!
狂ってる、だとか。気違い、だとか。
勝手にほざいてろ。
この世界では、俺がNO.1だ―――!

その為には、経験値をあげなきゃな。
バケモノを相手にするんだからな。





「「「ははは……っ」」」





少し歩くと、小さな民家が見えて中から笑い声が聞こえてきた。
こんな時に笑っていられるなんてな。
ある意味、狂ってんじゃねぇのか?
まあいっか。それ……俺が壊してやるよ。


「へぇ、随分楽しそうじゃん」


ドアを蹴り開けると、数人の顔が一斉にこっちを見た。
驚愕、恐怖の色を露わにして。


「お前は……」
「おやぁ?橘サンじゃないッスか。ってことは、ここは不動峰がたまってんだな?」
「そ、それがどうした!」


神尾だっけ?そいつが吠えるようにして言い、俺を睨んだ。
ったく、そんな安い抵抗すんなよ。冷や汗出てんぜ。


「そんなに睨むなよ。俺、あんたらに手伝って欲しいことがあるだけだから」
「……手伝って欲しいこと?」


タオルを頭に巻いているやつが恐る恐る聞いた。
俺はその言葉ににっこりと笑った。


「ああ。……俺の経験値稼ぎになあっ!!」


そして叫ぶと、バッグから武器である短剣を取り出して突進した。
一瞬にして全員の目の色が変わるのが分かった。


「まずは……1人目っ!」
「ひっ!」


ざくっ―――


「う、内村ぁぁ!」


短剣を通して、肉がぶちぶちっと裂ける感触が伝わってくる。
そしてひっこ抜くと同時に噴水のように血が噴き出し、相手は倒れる。
本当、リアルな格ゲーみたいだ。すげえ快感。癖になりそう。


「2人目えっ!」
「う、わああっ!」
「手際よく行くぜ!3人目っ!」
「ぎゃああぁっ!」


ぶすり、ぶすり、と突き刺す時の快感が止められない。
もっと体験したい。この手で、もっと感じさせてくれよ。
ほど良く筋肉のついた身体を貫く感覚。目の前を舞うようにして飛ぶ血。
やべえ、気持ち良い。


「桜井っ!森!て、てめぇっ!!」
「待て、神尾っ!」
「はっ、今度はそっちからか!いいぜ、来いよ!」


歓迎してやるぜっ!


「うわああ!」
「神尾っ!!」


武器も何も持たず、ほぼ衝動的に俺に向かってくる神尾。
だが横から別の手が出てきて、片方で俺の短剣を握っている方の手を掴み、もう片方で神尾の動きを止めた奴が居た。


「っ、石田……!」
「早く…っ!今のうちに逃げて下さい…!」
「石田…お前…!」
「……俺が止めているうちに、早く」


へぇ、美しい友情だねえ。
自分が犠牲になって、他の奴等を逃がそうってか。
流石、俺の手を握ってる力は半端じゃねえ。
みしみしいってるぜ。これがこいつの覚悟か。
俺が鬱陶しげに締めつけてくる石田の手を見ていると、橘サンは倒れている部員に声をかけた。


「……っ。…森…立てるか?」
「う……っ。お…俺なら、…大丈夫…ッスから……。橘さん、伊武、神…尾……早く……」
「あー、そいつはもう無理ッスよ。さっさと見捨てて3人で逃げたらどうッスかぁ?」
「…っ、切原ぁああ!」


そう挑発すると、すぐに乗ってくる神尾。単純で面白え。
この状況でまだ俺に向かってくるかと口角を上げながら見ていると、


「神尾、相手にするな!早く行くぞ!」


橘サンがそうはさせないとでも言いたげに止めた。
なんだ、可愛い後輩がむざむざと殺されかけてるってのに……意外と冷静なんだな。つまんねえ。


「なっ、ま、待って下さいよ!」
「神尾…!」
「……っ」


神尾は納得いってなかったみてえだが、橘サンの言うことには逆らえないようだな。
俺を憎しみのこもった目で最後に睨み、3人は逃げた。


「あーあ。逃げられちまった」
「………」
「折角、経験値稼ぎには丁度良い人数だったのにな」
「……お前…人の命を何だと……!」
「うるせえ。てめえに関係無いじゃん」


俺は強く掴まれてうっ血し始めた右手から、短剣を左手に持ち替えた。
その行動を、石田は驚きもせずじっと睨んでいた。
なんだよ、結局……本当に時間稼ぎが目的だったのかよ。
少しは殺り合えるのかと思ったが、残念。もういいや。


「4人目」


飽きた玩具を捨てるような目で、俺は奴の心臓目掛けて―――





「……ははっ。人って、あっさりと死ぬもんだな」


殺してみて、分かった。
人の命なんて、俺にとって軽いものだってこと。
殺しても、それは果たすべき目的の為にあるからな。
最も大きな……俺の昔からの目標。いや、野望と言った方が適切か?
まあ、安心しろよ。別にお前らの命を無駄にしてるわけじゃねえ。
俺が野望を達成するための経験知≠ニして残るんだからよ。


「……さて、どうすっかなぁ」


逃げた3人はもう遠くに行ったみてえだし……。
新しい獲物でも探すか。
まだこの島にはたくさん獲物がいる。焦ることはない。
ゆっくり……経験知を稼ぐことにしよう。

ああでも、早くまたあの快感を味わいてえな。
誰でもいいから、早く会えるといいけど。



……別に人殺しの感覚に溺れてるわけじゃない。
あくまで目的は、3人のバケモノを倒すことだ―――








死亡者:石田鉄
    内村京介
    桜井雅也
    森辰徳

残り47名。