「やべ、もう時間じゃん」


そのまま屋上で3人で過ごしていると、何時の間にか放課後になっていた。
それに一番に気付いたのは岳人で、俺達は部室に向かっていた。


「あ…そういえば俺、今日部室掃除だ」


式に出なかったから跡部に言われたっけ。


「そうなん?それはご苦労やな〜」
「頑張れよ〜?部室は広いからなっ!」
「……どっちも嫌味だろ」
「ついでに俺のロッカーん中もやってくれよ」
「バーカ。んなとこは自分でやりやがれ」


プライベートだ、プライベート。


「あははっ、冗談だっつの」


本気で言ってたら殴るぞ。
そんなくだらないことを話してると、自然と部室に着いた。


「ん?あそこに居んの……跡部と、嬢ちゃんか?」
「え?マジかよ!」


忍足が見つけ、岳人が飛んで確認した。
下を向いてた俺も、ふと顔をあげる。


「おーい、跡部ー!」


確認完了した岳人が跡部のとこまで走っていった。
忍足も小走りで行ったから、俺も仕方なく走った。


「どうして日向も居るんだ?」
「アーン?未胡はまだ初日で慣れてねぇからな。一応俺の傍に居た方がいいだろ?」
「跡部…過保護さんやなぁ」
「うるせえ。大体、未胡の方から言い出してきたんだ」
「?そうなんだ?日向」
「うん。折角お昼に貴方たちとお友達になれたし、いいかなって」


そう言って微笑んだ日向は、やっぱり綺麗だった。


「そうか。でも、ここのテニス部賑やかやで〜?」
「そうだぜ。耳塞ぎたくなってくるぜ?」
「ふふ、楽しそうだから平気よ」


……そういえば、日向って俺の想像してた奴と違うよな。
忍足たちが言うには、ほんとに金持ちのお嬢さんで近寄りがたいと思ってたけど。
日向は、全然そんな雰囲気ねえよな。
いや…気品っつーか、そんなのは感じるけど、近寄りがたいって気はしねえな。
ぼーっと考えていると、忍足が肘でこついてきた。


「何見惚れとんねん。宍戸も何か話し」
「はぁ?俺は別に……」


眉を寄せて言うと、忍足は短く溜息をついて、


「なぁ嬢ちゃん、宍戸って珍しいやんな」
「え?」
「は?忍足、何言ってんだよ」
「せやかて、男で髪伸ばしとんの、宍戸だけやもん」


髪?
…あぁ、そういう意味の珍しいか……。


「そりゃそーだけどよ。…別にどうだっていいじゃねえか」


そんなこと言ったって相手は困るだけだろーが。


「…でも、綺麗だよね」
「…え?」
「髪質。昨日だって、風が吹いたとき綺麗に揺れてて……」


俺の髪をじっと見て言う。


「よく似合ってるから」


そして、にこりと目を閉じて笑う。
……なんだ?
さっきから心臓の辺りが煩い。


「それを言うなら俺だって髪型には気をつけてるんだぜー」
「ふふ、向日くんは綺麗な色だよね」
「だろだろー?俺も気に入ってんだ!……って、あ!名前覚えてたんだ?」


嬉しいのか、キラキラした顔で言う岳人。


「うん。私、人の名前は覚えるの早いの。ね、忍足くんに、宍戸くん」


合ってるでしょ?と目を合わせて聞く。
忍足は笑顔で答えたが、俺は目が合った瞬間に逸らしてしまった。


「……そろそろ部活始めるぞ。お前等は着替えて来い。未胡は、そこのベンチに座っててくれ」
「判った」
「なら、俺等も行こかー」
「おう。日向ー!俺のプレイ、よーく見ててみそ!」
「うん。楽しみに見させてもらうね」


岳人が手を振ると、日向もそれに応じて手を振り替えした。
俺はそれを横目で見て、忍足たちと部室に入った。





「……本当に、言わなくていいのか?」


跡部が未胡に聞いた。


「……うん。これは、私が言っていいことじゃないから」
「…お前はそれでいいのか?」
「大丈夫。いつか、……ね」
「……あいつは鈍感だぞ」


未胡は一瞬困ったような笑みを浮かべるが、


「覚悟してる」


決心したように言った。
跡部と未胡はそんな話をして、跡部がベンチまで未胡をエスコートした。





きみに会える機会
(って俺部室掃除じゃねーか!)