「ええか?計画実行は昼休みや」
「了解」
「……妙に張り切ってるな」
「しゃーないやろ。昨日から一度も会ってへんのやで」


いや、普通だろ。
そう1日に何度も会わなくてもいいじゃねえか。


「甘いな、宍戸。会いたなるんやて。あんな綺麗なお嬢さん見たら」


……ああそうかよ。
忍足の話は教室に着くまで終わらなかった。


「じゃあ、とりあえず昼まで適当に授業受けて、それからな」
「ラジャー」


そして自分の席に着いた。
……はぁ、なんか疲れたぜ。
3年になって初めての授業だから自己紹介とかで時間が流れたが……。
俺はどうしてもやる気が出なかった。
何かが引っかかってる……。


「……ど、宍戸…!」
「!?」


耳元で怒鳴り声が聞こえた。
多分……岳人だな。


「何寝てんだよ!」
「あ…?俺、寝てたのか……?」
「そやで。ずっと寝てたな」
「いくら日当たりがいいからってだめだぜー?」


ああ、確かに日がポカポカと……。
じゃなくて。


「岳人、お前殴っただろ」
「しょうがねえじゃん。起きなかったんだから」
「お前な……」
「まあええやん。ほら、昼休みやで。計画実行や」
「………」


妙に気合の入ってる二人に引っ張られ、俺は教室から出た。
つか、昼飯食ってねえ。


「昼飯より噂の彼女≠フ方が大事や!」


……もういいぜ。


「ええか?ここからが気をつける所や」
「おう」
「俺らは、跡部に今日の部活どうするか聞きに行くついでに彼女に会うっちゅーことやで?」
「おう」
「………」


めちゃくちゃ考えてるな。
ったく、参るぜ。


「よし、ほな……行くで」


そうして忍足を先頭に角から飛び出した。
そして跡部の教室まで直行する。
元々こいつらも人気だから、教室を囲んでいた奴等は一歩下がる。


「跡部〜、ちょっとお邪魔させてもらうで〜」


忍足が笑顔で手を振りながら教室に入る。
それに続いて俺達も入る。


「……何だよ、忍足。勝手に入ってくんじゃねえ」


跡部がふんぞり返って席に座っていた。


「ええやん、同じ部活仲間やん。ちょっとな、跡部に聞きたいことがあって……」


忍足は忍足で考えていた内容をペラペラ話している。
途中、岳人も話に入ってたな。
そして……、


「……景吾、この人たち、お友達なの?」


透き通った声が聞こえた。
周りの声が煩くても、何故かその声だけは俺の耳に届いた。
もしかして。
忍足たちで見えなかったが……、


「ん?あぁ、部活の連中だ」


跡部はその声に反応する。
そして、紹介した。
忍足たちは、待ってましたと言わんばかりに、


「そうそう、俺等跡部の友達やねん。俺、忍足侑士。よろしゅー」
「俺、向日岳人っ!よろしくな!」


めちゃくちゃ笑顔で自己紹介し始めた。
なんか、呆れるぜ。


「で、こっちにも……」


俺は岳人に手を引っ張られた。
自己紹介をさせる気かよ。


「ん?……なんだ、宍戸も居たのか」
「今気付いたのかよ」
「ふん、そんな存在感を消してたらな」


消してるつもりはなかったんだが。


「そんなことより、宍戸も自己紹介しーや」


忍足が話を戻す。
それに気を遣ったのか、跡部が席を立ち、噂の彼女≠フ姿を俺の前に出した。


「……あ、お前……」


その姿に、俺は目を見開く。
何故なら、そいつは見たことがあったからだ。
そう、あの時の……。


「あ、貴方……」


相手も覚えていた。
そう、式当日、桜の木の下で会った彼女―――


「……お久しぶりです」


彼女は微笑んだ。
やっぱり、あの時の彼女だ。
この声や姿……。


「何や?知り合いなん?」


忍足が驚いた様子で聞く。


「何だよ、話したことあるのかよ!?」


岳人は大袈裟に声を上げる。


「あ……はい、転校初日、体育館の場所を伺ったんです」


その二人に対して、落ち着いて説明する彼女。


「……未胡、こいつは宍戸亮だ」
「宍戸…亮……さん」


彼女は顎に手を当てる。


「俺は、俺は―――」
「お前はもう自己紹介したろ、岳人」


身を乗り出してきた岳人に跡部が言った。


「私、日向未胡。皆、よろしくね」


彼女はとても綺麗に微笑んだ。
一瞬で、周りの空気を静かにさせるくらいの、綺麗な微笑で。

そして、俺も一瞬見惚れてしまった。






一瞬にして虜となる
(……忍足たちが言ってた通りだ)