それは、桜が綺麗に舞っている春。



これから、式が始まる。
俺は氷帝3年生になった。
だが、今はそんな気分じゃなくて。


「……面倒くせえ」


式では跡部が生徒会長として一言言うんだろうな。
耳が痛くなるくらい式には出ろって言われたが、とてもそんな気分にはなれない。
春は、何だか虚しい。


「……はぁ、」


ガラにもなく溜息が出る。
今日は風が強い。

折角咲き始めた桜の花弁がちらちらと散っていくのをただ見つめてるだけだった。


「あの、」


すると、誰かに話しかけられた。
俺ははっと後ろを向いた。


「体育館って、どこですか?」
「え……?」


また驚いた。
発言に関してもそうだが、それよりも俺の気を惹いたのは……


「……?」


風が吹くと同時に揺れる髪。
俺より10p以上頭が下で、見上げている大きな目。
その、端整な容姿に、俺は見惚れてしまっていた。


「どうしたんですか?」


心配そうに顔を覗き込む目の前の女。


「あ、な、何でもねえ……」


俺はその目を逸らした。


「それで、その……体育館はどちらですか?」
「あ、ああ……体育館は、ここを真っ直ぐ行って、右に行けばすぐ分かるぜ」
「真っ直ぐ行って右……。ありがとう」


少し確認すると、彼女は微笑んでその場所に向かった。
俺は何も考えずその姿を見つめていた。
すると、


「貴方は出ないんですかー?式」


遠くから彼女の声が聞こえた。
てっきりそのまま向かうと思っていた俺は反応できずに居た。


「………っ」
「?」


また目を逸らした俺に、彼女は不思議そうな顔をした。


「い……行かねえ…」


俺も彼女に聞こえるように言った。
その返答を聞くと、彼女は満足したように笑った。


「ちゃんと出なきゃだめだよー」
「……いーだろ、別に…」


顔を横にやって言った。
横目で見たが、彼女は手を振って体育館へ向かっていった。

俺はしばらく、夢でも見ていたかのようにその場に立ち尽くした。
だが、一瞬強い風が俺の髪をなびかせ、俺は我に戻った。
それから式が終わるまで、俺は桜の木の下で眠る事にした。





桜と舞い降りてきた君
(なんか……ドキドキしたぜ)