鳳side



どうして?


「貴女に、麻央を悪く言う権利なんてない」


どうして、澪先輩が青木先輩を殴ってるの?


「っ……叩いたわね…。もうあんたなんか許さない!!あんたも本当に姉のようにしてあげる!!」


どうして、青木先輩が麻央さんの事を知ってるの?

それは、たまたまだった。
たまたま部活に遅れてきて
たまたま部室のドアが中途半端に開いていて
たまたま声が聞こえたんだ。
ドアから声が聞こえたんだ。
その一言めが、

「死ねばよかったじゃない。あんたの姉のように」

だった。
それは、確かに青木先輩の声だった。
聞いたことのないくらい低い声だから、一瞬判別がつかなかったけど。
そしてその言葉は確かに、澪先輩へと向けられた言葉だった。


「っ………」


そして次々と青木先輩が澪先輩の……過去を、言う。
それはとても澪先輩には辛いこと。
俺達にとっても、思い出したくない出来事となった。
いくら先輩たちの幼馴染だからって、そのことまでは知らないはず……。


「っ麻央は、弱くなんかない」
「……何でそんなこと言えるのよ。自殺なんかする人は弱いからよ。自分の命を自ら断つなんてバカバカしい!」
「違う、っ……麻央は、自分の為にやったんじゃ……」
「じゃあ何なのよ!あんたが殺したって言うの!?」


澪先輩は悔しそうに
青木先輩は恨めしそうに
お互い叫んでいた。


「………っ」


俺は、見てはいけないものを見てしまった?
落ち着け、自分。
考えるんだ……。
どうして青木先輩は澪先輩に酷いことを言ってるの?
それは……澪先輩を憎んでいるから?
どうして澪先輩は悲しそうに青木先輩をぶったの?
それは……麻央さんのことを悪く言われてるから?

じゃあ、悪いのはどっち?
……………。


「あんたは絶対に許さない……っ。今までので死にたいと思うくらいだったら、次からは本当に死ぬ勢いで虐めてあげる」


低く唸るように言う青木先輩。
虐めてあげる=c…?
てことは、もしかして……


「……私は、死なない。頑張るから……」



澪先輩は、青木先輩に虐められていた?



じゃあ、あの出来事は……青木先輩がわざと…?
否定している澪先輩の方が正しいんだ……。
俺は何てことをしてしまったんだ。
澪先輩に、酷いことを言った……。

「…そんな人じゃないと、思ってました」

何も判ってないのは俺達だったんだ。
あの時……澪先輩の方が俺達に絶望したんだ。

………どうして。
どうして俺は澪先輩を信じてあげられなかったんだ?
あの時すぐさま澪先輩を軽蔑してしまって……。


「頑張る?一人で?はっ……味方なんて居ないんだから、すぐに潰れるわよ?」
「……私は一人じゃない」
「……あんた、本当に馬鹿ね。今の状況を見て誰があんたの味方をしているの?」


鼻で笑って澪先輩を見下す青木先輩。
あれが、青木先輩の本性……。


「………」


対して何も言わない澪先輩。
……今、澪先輩に味方は…。

「……答えは、早く出した方がいいぞ」
「じゃないと、手遅れになる」


………日吉。


「ほら、何も言えない。……じゃあ、私はそろそろ行くわね。じゃないと、皆が心配しちゃうから」


声からして、自分が優位に立っているかのような口調で話した。
……いや、それは正しいんだよな。
立場的にテニス部のほとんどから勘違いで嫌われてしまっているんだから……。

その後青木先輩が俺の居るドアへと向かってきたから俺は慌てて部室から出た。
一拍して出てきた青木先輩は、俺が盗み聞きしてたなんて全く気付いていなかった。


「あ、鳳くん!今来たの?」
「あ……は、はい」
「そっか。早く着換えてきなよ。私も一生懸命サポートするから!」


ああ、綺麗な笑顔。
たとえ、作り物でも。


「……ありがとうございます」


俺も笑顔を作って、改めて部室に入った。
……後で、日吉に相談しよう。
今からなんて、物凄くずるい人間だけど。

それでも
俺は澪先輩の味方の一人になりたいから―――


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