麻央side



気に入らないけど、跡部も、澪を守るみたい。
……本当は、他の奴と一緒に地獄に突き落としたかったけど。
…まぁ、澪が好意を持っていた、という事もあるし、しょうがないわ。
今だけは許してあげる。
……でも、他の奴等は絶対に許さない。
青木も……絶望に歪む顔にしてやる。
すぐに、その醜い仮面を剥がしてやる…っ。

…全て、澪を傷つけた罰よ。
澪を、傷つけていいのは、アタシだけ。
泣かしていいのは…アタシだけ。


「……さぁ、澪。また…明日」


澪のベッドに寝転がり、眠りに落ちた。
明日の事を、考えながら。





「……おはよう、澪」


夢なんて見なかった。


「さぁ…行くか」


澪の制服を着て、澪がいつも通る道を歩く。
全て…アタシが経験した事の無い事。
病弱のアタシは、物心付いた頃はすでに病院しか見ていない。
普通に学校に行く事も、
普通に友達と遊ぶ事も、
許されない子だった……。


「…こんな形だけど、経験させてくれてありがとう」


嬉しいわ。
学校に足を踏み入れ、教室の澪の机に……。


「あら、これはどんな歓迎?」


机の上に菊の花。
アタシに供えてくれたのかしら?


「お前なんか…、死んじまえばいーんだよ」
「そうよ!…青木さんを虐めるなんて…っ」
「最低だな」


皆に囲まれて、青木がすすり泣く真似をしていた。
跡部は、まだ来ていない。


「花…懐かしいわね」


澪も、アタシに花を供えてくれたわ。


「アタシ、菊って好きなのよね」


丁寧に花瓶に入っていた菊の花を一本取った。
それを持って、青木の元に歩み寄った。


「澪…っ」


そこで丁度、跡部が来た。
アタシは言葉を続ける。


「……だって、『死んだ人』に贈る花じゃない?…ありがたく、貰っとくわ」


くるっ、と踵を返して教室から出た。

だって……。
アタシ、だから。


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