久しぶりに見た君の笑顔。
でも、素直に喜べなくて……。

少し、悲しく思う自分がいる……―――





No side



「未玖、もうそろそろ皆着くって」
「本当?早く会いたいなぁ」
「………」


幸村は未玖の笑顔を見て、何とも言えない笑みを作った。
コンコン。


「あ、着たみたい!」
「どうぞ」
「失礼するぞ」
「皆ー!久しぶり!」
「久しぶりだな、未玖」
「あははー……事故っちゃったぁ……」


未玖の言葉に皆が引きつった笑顔を作った。


「あ、ブン太に赤也、久しぶり!」
「お、おう……久しぶりだぜぃ」
「未玖さん……久しぶりッス……」
「ん?なんだか元気が無いみたいだね」


うまく気持ちを隠すことができずにいる丸井と切原。
そんな二人をフォローするかのように、ジャッカルが慌てて口を開く。


「あ、ああ……二人とも、さっき真田からビンタくらったから落ちこんでんだよ」
「え?そうなの?弦一郎も少しは大目に見てあげなよー」
「う、うむ……そうだな……」
「未玖……元気かのぅ?」
「仁王……元気だったらこんな所に居ないだろ」


仁王の問いに、柳が的確な言葉でつっこんだ。


「お、そうじゃな」
「あはは!もう、雅治ったら相変わらずだね」


今、皆の目の前に未玖の笑顔がある。その事実は正直嬉しかった。
未玖の笑顔はずっと見たかった。
あの日から、未玖は無理に笑うことしかしなくなったから。
でも……欲を言えば、ちゃんと事が解決した、心からの未玖の笑顔が見たかった。


「でよー、そんで赤也が……」
「ちょっとー丸井先輩、言わないで下さいよー!」
「あはは!いいじゃん、聞かせてー!」
「それでのぅ……」
「……それ、本当?」
「あ!仁王先輩まで!」
「プリッ」


でも……よく考えたら、今の方が未玖にとって幸せなのかもしれない。
辛いことを忘れて、楽しいことだけを見て生きる。
……未玖は十分苦しんだんだ。
これから、幸せになる権利はある。
誰もがそう思っていた。

未玖の幸せを願って……――。





幸村side



あれから俺達は他愛もない話を沢山した。
時間を忘れたように話して、皆帰っていった。
未玖も皆も、気兼ねなく話ができて楽しかったんだと思う。


「久しぶりに皆と会って楽しかったー」
「うん。俺も、久しぶりに未玖に会えて、嬉しかったよ」


少しね、未玖が記憶を失って良かった……って思ったんだ。
……だめだよね。
こんな事思ったら……。


「……私、中学どこ行ってたのかな…?」
「知りたいの?」
「うーん……何か気になって……」
「未玖の中学はね……氷帝って所なんだよ」


思い出して欲しくない。
でも、知って?
君が本当の意味で笑えるようになるために。


「氷帝?……どんな所?」
「うーん、一言で言えば、凄くお金持ち?」
「えー!私、そんな所に通ってたのっ?」
「うん」
「うわー……上手く馴染めたのかなぁ……?」


……ズキッ……。


「……っ?」
「どうしたの?」
「あ、ううん……ただ、胸の辺がズキッってなっただけ……」


記憶は失っても、身体は覚えてるんだね……。
それもそうだよね。
あんなこと……忘れたくても、忘れられない……。


「……そうか……じゃあ、もう戻ろうか」


……未玖に苦しい思いをさせた氷帝を、俺は絶対許さない。
記憶を失ってもなお、未玖の身体の奥深くには残っているのだから。


「……うん、そうする」
「じゃあ、送るよ」
「ありがと」


俺は未玖を病室まで送った。





未玖side



昨日に引き続き、今日も立海の皆が来てくれた。
元々精市も入院しているから、私はついでみたいなものかもしれない。
……なんて、皆に言ったらきっと怒られるんだろうなぁ。
それに、皆がそんなことを思っているなんて、さらさら思っていない。優しい皆だから。
こうして皆で他愛も無い話をして、少しふざけ合って。
何だか、妙に安心する……。
ずっと、こうしたかったような気がする。

……別の誰か達と。

皆も帰っちゃったし、私も精市の病室から移動して今は自分の病室で一人。
もうこんな時間だし、誰もお見舞いには来ないよね。

コンコン。

あれ?誰だろう……。


「……未玖、俺だよ」
「あ、精市?どうぞ、入って」


さっき別れたばかりなのに、どうしたんだろう?


「………」


精市は無言で入ってきた。
……あれ?もう一人の方、誰……?


「……未玖っ」
「……?あの、どなたですか?」



これからが

過去の記憶の探し合い……―――