もう、それぞれの道を歩んで行く。
それでも、心の中の大切な人は変わらない。

ずっと、心に刻まれる―――





No side



「未玖〜っ、ドリンクちょーだい!」
「あ、ジロー。いいよ」
「ん〜!やっぱりこのドリンク美味しいC〜」
「ふふ、当たり前だよ。私たちが作ってるんだから」


未玖は後ろの栞に目を合わせる。


「もちろん」


それに、栞はにこりと返した。


「あはは、だよね〜!」


あれから1週間。
もう未玖は昔に戻っていた。
普段から明るかった未玖だからだろう。
栞も段々とこの雰囲気に入ってきている。
未玖の力もあるだろうが、何より……。


「栞先輩、ドリンクもらえますか?」
「あ、いいよ」


周りのレギュラーの態度が変えたんだろう。
前と変わって栞も大事にしているRたち。
その心が、栞の心を開かせた。
いつの間にか、二人を包む輪ができていた。


「なー跡部ー」
「何だ、岳人」
「あとどれくらいで練習終わるんだ?」
「ん……そうだな、もう後少しで終わる」
「ならお二人さん、帰りにどっか寄ってかへん?」
「あ、ずりー!俺が誘おうと……」
「ふっ、攻めるん遅いで、岳人も」


と、二人の目の前で争い始めた忍足と向日。
それを見た栞は、


「二人とも、今日は無理だよ」
「え…そうなん?」
「うん……ごめんね、侑士に岳人」
「あ、いや……いいけどよ」


何で、という顔をしている二人。


「……もしかして、皆知らないの?」


すると、栞が未玖に聞いた。
その言葉で、今度は氷帝全員が二人を囲んだ。


「皆……?未玖、俺達に隠してることでもあんのかよ?」
「あ、えー……と」
「あかんでー?隠し事は。ほら、言ってみ」
「う……。栞ちゃ……」


すると、少しだけ栞は微笑み、


「もう、こういうことは奥手なんだから」


すっと息を吸って、


「実はね、未玖……幸村くんと付き合ってるの」
「「「えっ!?」」」


やはり、その場に居た全員が驚いた。


「幸村って……あの幸村?」
「…岳人、他に誰が居るのよ」


特に向日は驚きを隠せない。


「未玖、本当か?」
「………うん、」


顔を赤らめて言う未玖を疑う者は居なかった。


「ま、マジかよ……」
「……残念でしたね、宍戸さん」
「う、うるせえっ!」
「……いつからですか?」
「えっと……あの日から数日安静にしてなさいって言われたでしょ…?」


あの日というのは、氷帝の屋上での出来事。
そして、全て分かり合えた日。


「その時……せ、精市が……っ」
「……告白したわけだな」
「ずるいC〜!」
「だ、だからその……」
「今日は、その恋人に会いに行くんだって」
「栞ちゃん……」
「大丈夫。皆は私から説得しておくから、早く行ってきたら?」
「う、うん…。ありがと、栞ちゃん」
「あーっ、未玖ー!」
「ごめんね、ジローっ!」


そう言って早足で学校を出て行く未玖。


「………はぁ」
「幸村……なんか、全てに置いて負けた気がするぜ…」


皆の表情が暗くなっている。


「ほら皆、いつまでもそんな顔しない。未練たらしい」
「そう言われてもなー…」
「…私たちに、二人の間に入る隙間なんて無いのよ……」
「私たち……?…もしかして、栞……」


何かに気付いたように跡部が言う。


「………多分、思ってる通りだと思う」
「?どういうことだ?」
「…つまり、栞も幸村の事が好き、なんだろ?」
「……あ…」
「でも、別に気にしてなんかないよ。私より、未玖の方があの人には合ってるから」
「……でも…」


気にしているのか、芥川は切なそうな顔をする、


「もう、そんな顔しないで。本当に平気だから。……それに、」


栞は、優しく微笑んで、


「今の、私の一番は……未玖だから」


一瞬、氷帝はびっくりしたが、すぐに優しい顔になった。


「…そうだな」
「……だから、未玖には一番幸せになって欲しい…。私は、それ以上の我儘なんて言わない」


そう言う栞の表情は、とても真剣だった。
前の栞からは考えられない程。
氷帝は思った。
栞をこうも変えたのは、やはり未玖の力だと。


「……栞も、幸せになるんだぜ」
「………なれたら、ね」
「絶対になれる。……俺達は、それを願ってるから」
「……ありがとう」


誰だって、幸せになれるのだから。
他人の力でも、自分の力でも。

必ず――――