全てが、懐かしく思える。

でも
本当に、懐かしい、だけ……―――?





「精市……ありがとう」
「ううん。未玖、もう平気?」
「うん。精市が来てくれたから安心した」


何か、精市と話すの、久しぶりだな。
……その前に、人と話すのが久しぶりに思えるのは、何故だろう?


「それなら良かった」
「……ねぇ」
「ん?」
「……精市は、私の忘れた中学生時代について、知ってる?」


答えが怖かったけど、精市に訪ねてみた。
一瞬、精市の顔が変わったような気がした。


「……ごめんね、俺、あまり分からないんだ。未玖とは他県だったからね」
「そ……っか」


その答えを聞いて、少し安心してしまった自分がどこかに居た。
知りたいはずなのに、分からなくて良かったと思っているような……。


「そうだ。……未玖は、立海の皆は覚えてる?」
「立海……勿論覚えてるよ!立海の皆は楽しい人ばかりだから!」


小学生の時、幼馴染の精市と会っているうちに、精市が友達として紹介してくれた。


「今日、皆が俺のお見舞いに来てくれるんだ。……未玖も、良かったら会う?」
「え、いいの?わぁ、久しぶりに会うよね!」
「……うん」
「それじゃあ、精市の病室行っていい?」
「いいよ。……じゃあ、僕は真田に電話するね?」
「じゃ、病室で待ってる」
「うん」





No side



幸村は未玖を病室に待たせると、少し離れた所まで来て、真田に電話をかけた。


「もしもし」
『ああ、幸村か。どうしたんだ?電話なんぞかけてきて』


立海のメンバーは未玖が入院している事をまだ知らない。
でも、幸村と同じく未玖がどんな事になってたかは知っている。
……ごく僅かの大まかな内容だが。


「実は、今、未玖が入院してるんだ」
『……未玖が?一体何故だ』
「……今から言うこと、黙って聞いてくれる?」
『?ああ……』
「………」


幸村は真田に伝えた。

未玖がどんな目に遭っていたか。
それにより自殺を図った事。
一命は取り留めたが記憶を失ったこと。
全て、包み隠さず。


「……だから、皆にも、あまり刺激させるような事は言わないように言ってくれ」
『……分かった。伝えておこう』


真田は黙って聞いていた。
尋ねたい事はあったあだろうが、黙って幸村の話を聞いていた。
幸村は、そんな真田の気遣いに感謝した。


「ああ。……本当、苦労をかける」
『いや、いいんだ……それでは、またな』


ガチャ。


「………」


幸村は脳裏に未玖を陥れ、地獄を見せた人物の顔を浮かばせた。
そう……氷帝テニス部レギュラーの顔を、一人ずつ。





「………」
「弦一郎、精市からは、どんな内容だったんだ?」
「……蓮二、皆を集めてくれ」


真田に言われた柳は、とりあえず皆を呼ぶことにした。


「どうしたんです?」
「急に集めて、何かあったのか?」
「……今から話すこと、黙って聞いてくれるか?」
「……何やら、深刻な内容のようですね」


真剣な表情をしている真田を見て、周りもただ事じゃないことに気付く。
そして、真田も思い口を開いた。


「……未玖が、自殺を図ったそうだ」


その言葉はあっという間に、皆の間にどよめきを与えた。


「ええっ!?未玖さんがっ!な、何で……!」
「赤也、少し黙っとれ」
「……っ、」
「実は………」


そして真田は、幸村から聞いたことを細かく伝えた。


「……そうか……そんなことがあったんだな……」


柳が眉を寄せる。


「……俺達、何も出来なかった……」


ジャッカルも、拳を握る。
そう。ごく僅かでも、知ってたんだ。


「「「………」」」


いや、出来なかったんじゃない。
しなかったんだ。
未玖が、『大丈夫』『きっと、分かってくれる』と、言うから。
少しだけ、軽い気持ちがあったんだ。
未玖が言うなら大丈夫だと。


「俺たち……っ、気付けなかった……っ!」


そんなに、傷ついていたなんて。
丸井も、ガムを噛むことを忘れて言う。


「……くそっ!くそぉっ!」


興奮して赤目になった切原がロッカーを殴った。
自分の無力さと、氷帝への怒りで。


「……赤也、やめろぃ」
「……っく……許さねえ…っ!」
「そうやのう……。このままにはしておけんぜよ」
「……とりあえず、未玖さんの前では氷帝の話をしてはいけませんね」
「ああ、そうだな」
「……そろそろ時間だ。……行くか」


真田の言葉に皆が頷き、未玖が居る病院へと向かった。