貴女の幸せ、私が欲しかった。

貴女が傍に居ると、私に幸せが巡ってこないと思ったから―――





栞side



段々と、未玖の顔が暗くなっていくのが分かる。
私の話も、あの日まで近づいている。





「栞ちゃーん!」


父との事があって何日か経った。
マネの仕事は未玖に教えてもらいながら何とかやっていた頃。


「今日も仕事、頑張ろうねっ!」
「………」
「よし、部室行こう?」


その笑顔、もう見たくない。
自分が、凄く惨めに見える。


「……未玖」
「………っえ?」


未玖は、とても驚いた顔で私を見た。
無理も無い。
私が未玖の事を呼んだのは、この時が初めてだから。


「…栞…ちゃん……」


すぐに、嬉しそうな顔をする。


「私のこと、初めて呼んで……」


こんな些細なことで、喜べるなんて幸せでしょう?
これから、何もかもに絶望してもらいます。


「もう、お友達ごっこは止めにしましょう?」
「え……?」


初めて見せた微笑。
とても、冷たく見えたでしょう。


「それって、どういう―――」


私は、急いで部室を飛び出した。

そして―――


「何でこんな事するんやっ!」


私の体の傷が、未玖の所為にされた日になった。
貴女の顔が絶望の色に変わった時、私の心は悦に満たされるはずだった。
でも。


「っ栞ちゃん……どうしてこんな事をするの……?」


貴女が泣きついてきた時、私はそんな気持ちこれっぽっちも沸かなかった。


「あんたが大嫌い。だから、こういうことをするの」


貴女のそんな姿を見るのは、あまりできなかった。
だって……

私を見ているみたいだったんだもの―――





「……っほんとうに…ごめんなさい……」


気付いたら、涙を流しながら語っていた。


「栞ちゃん……」


そんな私を、貴女は抱き締めるように触れてくれた。


「……っ貴女の姿を見たくなかったの…。貴女の笑顔を見る度に、自分の惨めさが大きくなって……」
「………」
「…っ死んで欲しいなんて思ってなかったの……っ!」


それは本当のこと。
貴女には、私に見えない別の場所で幸せになって欲しかった。
それも我侭な話だけど。


「…貴女が飛び降りて、私の心は……悦びなんて無い…。空しさだけが残った……っ」


失って、気付いた。

「じゃあ、私が栞ちゃんのお友達第1号になるっ!」

あの言葉は、自分の中でもそうだったのかもしれないと。